試練
最愛の息子が行方不明。それは父親にとってどれほどのダメージだろう。
私の国でも、行方不明が出たりすることはあった。そんな時は必ず、ご近所さんが一丸となって探したのだ。
たくさん兄弟がいるにも関わらず、父親の方が死んでしまうんじゃないかと思うくらい必死になって探したのだ。母親はやせ細って寝込んでしまうくらい、心配していたのだ。
それが、一人息子だったらどうだろう。
それが、国の王子となったらどうだろう。
それにこの国には、王妃がいない。
王子を産んだ人はいるのだろうが、私は一度も見たことがない。存在すら、聞いたことがない。王子は、男手ひとつで育てられているのだ。
何を言われたこともないけれど、私だってそれくらい察する。
「全て私の責任です、ごめんなさい。王子が見つかったら、すぐに国に帰ります」
もう一度頭を下げると、国王はただじっと私を見つめていた。
「リュート」
「はい」
「探してきて」
ゆっくりと立ち上がり、机をあさり始める国王。
「この森に、いるはずだから」
その言葉とともに、古ぼけた地図が手渡された。何も感情を写さなくなった瞳は、ただじっと私を見ている。
この人の期待に、答えなければいけない。
なぜだか直感で、私はそう思った。
「犯人の目星は、ついてるから。逮捕も裁判も、すべてこっちでする。リュートはレントを城に連れてきて」
抑揚のない声は、聞いていて身震いがする。
いつもと同じなのに、空っぽなのだ。感情が、まるで見えない。
「分かりました」
必ず、と続けたかったけれど、私みたいなのが見つけて来れる保証はない。国王を無駄に期待させるのも酷だ。
私は無言でお辞儀をすると、部屋から出て行った。