恐怖
「で、だ」
翌日。他国へ偵察に行かれていた国王を無理に帰ってきてもらい、事情を説明することになった。
お忙しいのに、王子が行方不明だなんて。そんなこと、言えるわけない。
アンがある程度話してくれたらしけれど、やっぱり詳しいことは私に聞こう、という流れになったらしいのだ。
広い部屋。国王と私だけの空間が、こんなにも重たいだなんて。
「レントは、いつまで部屋にいたのかな」
ときたま様子を見に行っていただろう、と優しく凄まれて、私は何も言えなくなる。
どうしよう。
朝から一度も様子を見に行っていないだなんて言えないし、不謹慎だけど、正直に言ったら私は解雇だ。
「リュート、正直に話してくれ」
顔をあげて見た国王の瞳は、容赦なく冷たかった。
真実を言ったら、解雇。嘘を言っても、きっと許してもらえないだろう。
どっちにしたって同じ道なら、私は
「朝から、一度も見ていません。ミンフィスと」
ああ、空気が一気に重くなる。
ミンフィスを引き合いに出したけれど、これからどう言おう。
泣いていた理由は誰にも言いたくないし、私の手が空いていなかった理由を全てミンフィスに押しつけるのもダメだ。
混乱する頭に、国王の声が重く響く。
「ミンフィスと?」
あくまでも冷静な国王に、底知れぬ恐怖を覚えた。それと同時に、妙に納得したような気分になった。
だからこの人は、国王になれたのだ。黒魔術を扱う上で大事なのは冷徹さなんだと、家庭教師の先生が言っていた気がする。
これがその冷徹さ、か。
実力で王にまでのし上がった人に、私なんかが敵うわけない。腹をくくろう。
ぐっと膝の上の拳を握りしめ、私は頭を深々と下げた。
「ミンフィスに、慰めてもらっていました」
一言一句を大切に言う。
「辛くて、ずっと泣いていました。王子を見ていなかったこと、本当にごめんなさい。今すぐにでも、辞めますから」
グッと口を閉じ、瞼に力を入れることで、かろうじて涙をこらえる。これ以上、口を開くとみっともなく泣いてしまいそうだ。
「何が、辛かったね」
国王の声は優しくて、それがさらに涙を誘う。
優しくされたら、甘えちゃうよ。
きっと国王は、甘えさせた方がどん底へ落ちるんだってこと、よく心得ていらっしゃるんだろう。
「正直に言ったのは偉い。でも、辞めるからって全ては丸く収まらないよ。まずは、どうしてミンフィスに慰められる羽目になったのか、きちんと言ってくれ」
優しい声色に、私はついに泣きだした。泣きながら、すべてを語った。
王子に冷たくされたことも、それが引き金となって今までのことが全て自分に降りかかってきたことも、その『今までのこと』は傍から見ればどうでもいいことだということも。
それで泣いてしまって、ミンフィスに連れられるまま、監督と称して泣いていたことまで、全部。
そうか、と国王は言った。
どこまでも優しくて温かくて、それなのに冷たかった。私はこの人に許してもらえないこと、とっくに分かっていたけれど、改めてそれが重くのしかかってきた。