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もしも  作者: 空猫月
13/51

異変

 いつも通りの朝、アンと食事をして王子の部屋へといく。

 今日、国王は他国の偵察に行くとかで城にいない。それに伴い、大臣も10人ほどいないので今日は食事が少し楽だ。


 そんなことを思いながら、まずは軽く王子を起こす。と、

「リュート」

 小さく名前が呼ばれた。

「王子?」

 珍しい。揺さぶった程度で起きるなんて。雨でも降るんじゃなかろうかと窓に目をやった時、

「ごめん、水を」


 苦しそうな、ただ事ではない声だった。


「王子?どうなさったんですか」

 水差しにあった水をコップに注ぎ、王子の元まで持ってくると、王子は体を半分だけ起き上がらせて水を飲んだ。

 喉仏がゆっくりと上下する。

「けほっ」

 小さくむせた王子の瞳は、焦点があっていなかった。

「王子、体調が悪いんですか」

 尋ねても、布団にくるまってしまい返事はない。

 私の方に向けられた背は、せわしなく上下している。仕方なしに首筋に手を当ててみると、少し驚いてしまうくらい体温が高かった。

「王子、辛いですか。キツイですか。お粥、作ってもらいます?」

 小さな妹は、しょっちゅうこんな熱を出していた。それが懐かしくて、私は冷静に対処する。

「おかゆ」

 ポツンと、王子が言う。どこか寂しそうで、弱々しい声だった。

「作って」

「わかりました。一旦、水枕持ってきますから」

 王子の布団を肩までしっかりかけなおし、小さく窓を開ける。

 菌がうようよしているかもしれないから、換気は大切なんだと、いつか先生が言っていた。


 アンにお粥を頼み、自分は水枕を手っ取り早く作ると王子の部屋へ行く。

「王子、頭上げてください」

 水枕もお粥もそろっているって、なんて素敵なんだろう。王子の世話をテキパキしながら思う。


 私の国ではこんなものなかった。

 もっと貧しくて、お粥さえ作ってあげられなかった。水枕もなく、近くの川を浸した布切れで代用しており、全然冷たくなかった。

 妹にきちんとした手当てがしてあげられなくて、自分が情けなくて、苦しんで泣く妹と一緒に泣いていたっけ。


「王子、今お粥持ってきますからね」

 部屋を出れば、ミンフィスがじっと立っていた。厳かで鋭い眼光に、少しひるむ。

「ミンフィス」

 小さく名を呼べば、ミンフィスは尻尾を振って背を向けてしまった。なんだろうと首を傾げる間もなく、アンがお粥ののった盆を持って走ってくる。

「リュート、今日は洗濯とかあたしがするよ。だから、王子についてあげて」

 はぁはぁと息を切らしながら、アンが言う。こくんと首だけで返事をして盆を受け取ると、アンは台所へと走り去ってしまった。

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