昼①
昼は、朝以上に忙しい。
大臣が多いので、それだけ昼食も多くなる。私も少しは手伝うけど、テキパキと働くアンにはいつも押されてしまう。
「これ、切っとけばいいの」
と、一言聞けば、
「それと、ニンジンとキャベツも。終わったらチーズのスライス。よろしく」
と、簡潔で次の指示が3倍になって返ってくる。
張りつめた空気が嫌いではないけれど、何だか声を出しちゃいけないような気がして、了解の言葉はいつも口に中で呟いてしまう。
アンは、辛くないのだろうか。
いつも元気に、そして明るく働いているアンは、体がどうなっているのか調べてみたくなる。もしかしたら、疲労をパワーにする特別な機械でもついているのかもしれない。
与えられた指示をさっさと終わらせて、少しでも役に立つとアンはとっても誉めてくれる。
「ありがとう。助かったよ」
そう言いながら、頭を撫でてくれる。
そのぬくもりは、かつて母がくれたもの。
懐かしくて、温かくて、落ち着くけれど涙が出そうになる。
その温かさが恋しくて、どうしても欲しいから、私はいつも頑張れているんだと思う。
バタバタと準備、片付けを終わらせると、次は掃除に追われる。あと、洗濯ものの取り込みも。
掃除をしていると、なんだか嫌いな奴をいじめているみらいな気がするのはなぜだろうか。
ブラシで廊下のシミをごしごしこすりながら、ふと近所のいじめっ子が頭に浮かんだ。苦手だった、親戚のケチ婆さんの顔も浮かんでくる。
ひょっとしたら、私は掃除で過去を洗い流しているのかもしれない。
よくわからない思考に取りつかれるのは、たった一人だからだ。何もない静寂がもたらす、ほんの少しのいじわる。
そうだと、今は信じたい。