だぁいすきの気持ち
僕の名前はカイ。坂下家にいる猫なんだ。僕の飼い主の愛ちゃんは高校に通ってる。一年前に捨てられてた僕を愛ちゃんが拾ってくれたんだ。
バタン
あっ愛ちゃんが帰ってきた。今日はどんなことがあったんだろ。お話聞かせてくれるかな?
「ただいま、カイ。あのね、明日悠君と遊びに行ってくるね。」
悠っていうのは愛ちゃんの彼氏。散歩してる時に見たけど僕はキライ。動物に優しくないんだもん。でも、愛ちゃんが好きだからしょうがない。
愛ちゃんは忘れちゃったのかな。愛ちゃんは僕より悠のほうがいいのかな。
「カイ、さみしいの?カイも好きな猫ちゃんできるかな。そしたら寂しくないよ。」
愛ちゃん…違うよ。そんなこと言って欲しいんじゃないんだよ。愛ちゃん、思い出してよ。明日は僕がこの家に来た日だよ。一年前に「今日がカイの誕生日だよ。来年もまたお祝いするね。」って言ってたのに……愛ちゃん…
次の日
愛ちゃんはニコニコ。
「じゃあ、行って来るねカイ!」
僕は愛ちゃんの方を振り向かなかった。横目でチラッと愛ちゃんを見たら、愛ちゃんは悲しそうだった。でも、愛ちゃんが悪いんだ。僕より悠をとるから。愛ちゃんなんか大キライだ。
僕はいつものように散歩に出掛けた。ネコ仲間と一緒に遊ぶんだ。
『よう、カイ。元気ねぇじゃねえか。』
僕に話し掛けてきたのは3丁目のテツだ。テツは体の模様がしましまで、いばってる。でも、とってもいい奴なんだ。
『…愛ちゃんが悠とデートなんだ。今日は僕の誕生日なのにな。』
そう言ったら何だか悲しくなってきた。いつもならテツやケンちゃんっていうネコと遊ぶけどそんな気になれないよ。
『バカだな〜。人間ばっかり思っててもしょうがねえんだよ。人間にとっちゃ俺たちは、暇つぶしでしかねえんだ。まあチビにはわかんねえだろーな。』
ケンちゃんはあくびをしながら言った。ケンちゃんは、僕のことを「チビ」と呼ぶ。仔猫だからだって。
確かにそのとおりなのかもしれない。…でもやっぱり悲しいんだ。せめて今日だけは一緒にいて欲しかったのに。
『帰るね。』
何しててもつまんない。でも結構じかんは経っていた。もう、お昼の時間。みんなも帰る時間だ。
『俺も帰ろうっと。』
テツがピョンと塀に飛び乗った。ケンちゃんも反対方向に帰っていく。
帰り道―。
あっ、愛ちゃんだ。
横断歩道で信号を待っている。勿論、悠も一緒。
「それでね、カイったらね。」
「…猫の話やめて。気分悪い。」
気分悪い?そんなことないよ。悠は猫の良さがわからないんだ。愛ちゃん、何か言ってやってよ。
「あ…ごめん。」
がーん。愛ちゃんが何も言ってくれない。何で?
ドンッ
愛ちゃんは後ろからぶつかられ、車道に飛び出した。ぶつかった奴は信号無視で走っていく。なんて奴だ。
あっ!愛ちゃん!!車が…!
僕は気付かないうちに愛ちゃんを突き飛ばした。僕の力で押せたのもスゴイ。
キキーッ!!
鈍い音と共に僕は宙に投げ出された。
遠くで愛ちゃんの声が聞こえる。
ああ、僕死んじゃうのかな。愛ちゃんにお誕生日オメデトウって言ってもらいたかったな。
目を開けるとそこは小さな部屋だった。愛ちゃんとお医者さんがいる。
「あっ、カイ。もう大丈夫だよ。悠君のお父さんが助けてくれたからね。」
愛ちゃんが笑ってる。僕は、生きてる。スゴイかも。奇跡みたい。
悠は壁にもたれていた。どうりで視界に入らないはずだ。それにしてもいつもの悠とは違うような…。
悠は口に大きなマスクをしている。なんだあれ。
「はぁ―。良かったな。坂下。」
「うん。ありがとう。悠君。」
二人の会話を聞いてるとまるで悠が僕を助けてくれたみたいだ。変なの。
「あっそうだ。カイ、お誕生日おめでとう。」
あー!愛ちゃんが言ってくれた。やった!
「今日、悠君にカイが喜びそうなおもちゃ選ぶの手伝ってもらったんだ。悠君ね、動物とか好きなくせにアレルギーなんだって。特に猫の。悠君がここに運んでくれたんだよ。くしゃみしながら。悠君に感謝しないとね。」
えーっ!悠が動物好き?信じられないよ。あっ、そうか。動物に優しくないのはアレルギーはんのうが出ちゃうからなんだ。
悠は真っ赤だった。案外いい奴?
……ありがとう
「ニャ―。」
一週間後。僕は無事退院できた。不本意だけど悠のおかげかな。(悠のお父さんも)
退院してからは愛ちゃんからもらったおもちゃで遊んでる。たまに悠が家に来ると、悠に飛びついてやるんだ。悠はくしゃみを連発する。それがまた楽しくて楽しくて。
「やっぱ猫は嫌いだ!」
悠はいっつもこう言う。
こういうのも悪くない。
愛ちゃんだぁいすき!!