⑧ 珈琲ブレイク
「そうだ。ちょっとそこのカフェで、お茶でもどうかな?」
ミケーネのお誘いに、由理子も賛成した。
そこで2人は、地球で言うなら、ビクトリア時代に良く似た設えの、店内装飾が素敵な喫茶店に入った。
赤いベロア調のソファに腰掛けて、2人は向かい合わせになると、シュナウザーに良く似た髭の素敵なマスターに、飲み物を注文した。
実を言うと、由理子はさっきからずっと、何となくこの惑星での体験に、既視感を感じていたのだ。しかし今、マスターの顔を見て、その感じの正体に気がついたのだった。
「ああ、宮崎駿カントクの"名探偵ホームズ"だわ!」
彼女は思わず口に出して言ってしまった。
「…何だい、それは?」訝しむミケーネ。
「前に見たアニメ作品よ。登場人物が、何故か全員イヌなの。」
「ハダカ猿族の作品なのに?」
「そうなのよ。カントク、ひょっとしてこの惑星に来たことが、あったりして?」
「面白い話だね。あながち無いとは言えないなあ。」
ミケーネも愉快そうだった。
やがて、ビーグルに似たウェイターが、飲み物を運んで来た。
由理子はアメリカンで、ミケーネは、マタタビの棒でかき混ぜるタイプの、ホットミルクだった。
「ぼくら猫族はね…。」
ミケーネが語り出した。
「…むしろ犬族よりも熱心に、ハダカ猿族…つまりキミたちニンゲンを教育して、種族としてより高みを目指せるよう、何度も導くことを試みたんだよ。」
「だから、ランダムにニンゲンを選んで、かつては自分たちの惑星に、招待したこともあったんだよ。」
ソレはソレで"猫の恩返し"っていうアニメに似てるな。そう思ったが、話の腰を折らないように、由理子は黙って聞いていた。
「イロイロな並行宇宙のニンゲンに、教育を試してみたが、どれも皆失敗に終わったよ。」
「どうして?」
「何故か全てのニンゲンが、貴重な知識や技術を軍事転用して、最後には絶滅してしまうのだよ。」
「…ソレは…耳が痛いハナシね。」
「最近では、すっかりそういう試みをすることも無くなったがね…まあ、諦めたと言ってもイイ。」
「…そうなんだ。ご期待にそえなくて申し訳無かったわね?」
「たが、由理子。キミは違う!」
「へえ、そうかしら?」
「私も少しはテレパシーを嗜むが、キミの心の中は、どこまでも清らかで、澄み切っている。」
「アリガト。」褒められてドギマギする由理子。
「もう、私の第二妃として、迎え入れたい気分だよ。」
「え〜っ、第一じゃないのぉ~?」
「第一なら承諾するのか?…。」
「…すいません。無理です。調子に乗りました。ワタシには大切な鷹志が居るので…。」
「多分、先程あの犬王も、同じ気分になったんだと思う…。」
「あら、ワタシったら、モテモテね?」
「由理子のようなニンゲンは、希少性が有るのだよ。」
「その言い方、まるでワタシが、コレクションの対象みたいね?」
「うん、その側面は否定出来ないなあ…。」
「ワタシって、ひょっとして、絶滅危惧種なのかしら?」
「いや、むしろ、新種かな?」
言われた由理子は、思わず笑ってしまったのだった。




