⑥ ただ今謁見中
「我が犬族の歴史を語ってやる。」と言って話し出した犬王アヌビスが、途中でボンヤリしだした。
彼は目の前の、赤い髪のメイド服を着たハダカ猿族のメスに、ウットリと見惚れていたのだった。
今はまさに、そのニンゲンの謁見中である。
その娘は、猫王ミケーネが、「面白いニンゲンを見つけたから、犬王にも会わせたい。」と言って連れて来たのであった。
その者は、ヘブライ語を理解していたので、意志の疎通には事欠かなかったが、それ以上に、他種族に向けてのテレパシー能力が、抜きん出ていた。
ナルホド確かに面白い。
それに、何だか、ちょっとカワイイ。
興が乗った犬王は、ベラベラと言わなくてもイイような秘密まで、喋ってしまった…ような気がした。
後でミケーネに聞いたのだが、彼女に対しては、どんな嘘も無意味なんだそうな…道理で素直な気持ちになってしまうはずである。
彼女の名は真田由理子。
ハダカ猿族が世界の覇権を取った、並行宇宙からやって来た。因みに、彼女の姉も兄も、特殊なチカラを持つ能力者だという。
特に兄は、アノ惑星大移動を行なった、張本人なんだそうな。
先程、そう自己紹介を受けたばかりだった。
なのにもう犬王は、舌を出してハァハァ言いながら、ブンブン尻尾を振る自分を、押さえきれなくなっていたのだった。
ひょっとして、彼女のカラダから、何らかの中毒性のあるフェロモンでも、出ているのではあるまいか?
今、彼女が両手を広げて「おいで」と言ったら、彼はもう、後先考えずに、走って行きそうな気持ちだった。
何だ、この感情は?犬王は自分で自分が分からなくなりそうだった。つまり混乱していたのだ。
「な、面白いだろう?」
彼女の隣で、ミケーネがしてやったりの顔をして、すっかり彼女の虜になっている彼にそう言った。
「お、おお、確かにな?」
犬王はそう言うのがやっとであった。
そうなのだ。
由理子は"人たらし"である前に、"動物たらし"でもあるのだった。
「可愛いワンちゃんね?」
優しい眼をした彼女が、出し抜けにそう言った。
犬王は、思わず王座から立ち上がり、二三歩前に歩き出してしまったが、そこで辛くも踏み留まった。
しかし、彼女がそう言うのも無理も無かった。
何故なら彼の見た目は、額に白い麻呂眉毛の生えた、黒い柴犬だったのだから…。
「あら、怒ったのなら、ごめんなさい。王様に対してカワイイなんて失礼よね?」
「わ、分かればイイのだよ。」
強がって誤魔化す犬王。
だが彼の内心は、彼女に抱きつきたくて仕方がないのであった。
それを見ながら、クスクス笑うミケーネ。
まったく、ワルイやつである。
しかし、この娘なら、ひょっとして、あの野蛮なハダカ猿族と、我々犬族との、橋渡し的な役割が出来るのかも知れないな。
犬王アヌビスは、大真面目に、そう思ったのだった。




