④ 今度こそバカンス
「じゃあ、今度こそ、ホントに遊びに行きましょうか。」
明るい声で京子は言った。
「どうします?景気づけに、アポロ11号の打ち上げでも見に行きますか?それとも2012年5月21日のキレイな金環食でも…?」とサン・ジェルマン。
「あら、アナタが未来の旅行を提案するなんて、珍しいじゃない?」
京子は不思議に思った。
「まあ、たまには、イイかなって…。」
「いいわ。アナタの気が変わらないうちに行きましょう。場所は何処なの?」
「日本中どこでも大丈夫なはずですけど…そうだ富士山を背景に、なんていかがです?」
「"ダイアモンドリング・富士"ね?素敵じゃない。」
「では、早速。」
サン・ジェルマンはそう言うと、助手席からセンターコンソールパネルに手を伸ばして、以下のように座標を打ち込んだ。
2012年5月21日 月曜日 7時30分
北緯 35度21分
東経 138度35分
「じゃあ、行きますよ?」
彼は時空転位装置のスイッチを入れた。
現場には、あっと言う間に到着した。
京子はビートルを地表に着陸させると、すぐに光学迷彩を解いた。
場所は富士山の西の山麓。
人穴浅間神社前だった。
二人で見やすいポイントに行くと、既にたくさんの日食ファンたちが居た。
「何だか、こういうの新鮮ね?」と京子。
「たまには、その時空の一般人に混じって、イベントに参加するのも、いいでしょう?」とサン・ジェルマン。
「1964年の、オリンピック見学以来ね?」
「そうでした。あの開会式も、素敵でしたね。」
サン・ジェルマン特製の、日食観察用サングラスをかけて、二人でそんな事を話をしながら見ているうちに、太陽はどんどん欠けて行った。
そして、ちょうど富士山の真上で、ダイアモンドリング状になったのだった。
「今日はこの景色が、私からのプレゼントですよ。」
「アナタって、本当に呆れるくらいの、ロマンチストなのね?」
そう言いながら、まんざらでもない様子の京子であった。
「そうだ。せっかくたがら、両方見に行きましょう。」
その後二人でクルマに戻って来ると、サン・ジェルマンはそう言って、すぐに次の座標を入力したのだった。
1969年7月16日 水曜日 9時32分
北緯 28度36分
西経 80度36分
辿り着いた先は、ケネディ宇宙センターだった。
そして二人は、光学迷彩をかけたままの、空飛ぶ黄色いビートルの中から、灌漑深気にソレを見た。
辺り一帯に轟く轟音と、盛大に巻き起こる煙とともに、月への挑戦に出発して行くアポロ11号の勇姿を。 アレが、人類初の月着陸に成功するのだ。
「…私も、アナタを愛しているわ。」
「…知ってますとも。」
飛び去るロケットの煙を浴びながら、その不老不死のカップルは、まるで"映画スターウォーズ帝国の逆襲"の、レイア・オーガナ姫とハン・ソロ船長の二人のような、ベタなセリフの遣り取りをするのであった。




