③ 反エントロピー
「そもそもの始まりは、あの巫女に出逢ってしまった事からなのです。」
「…それは、かつて下鴨神社の巫女だった私のご先祖様、藤原貞子の事ね?」
「そうです。」サン・ジェルマンは素直に認めた。
「最初は、彼女のチカラに興味を持ったのです。あのエントロピーの原理に反すると言っても良いチカラ…。」
「エネルギーを加え続ければ、普通は熱を発生するずなのに…って事ね?」
「そうです。エアコンなら、触媒が必要だ。では、生身のニンゲンなら、一体全体どうやるっていうんだ…ボクはとても興味をソソられました。」
「東北地方に居たという、彼女の祖先の雪女を調査する、と言う手段も有ったのですが…結局ボクは、子孫の方に目を向けました。」
「それで、私との出逢いを自作自演したのね?でも、何故私なのかしら?」
「…ソレは第一に、アナタが久しぶりに、雪女の一族の中で、あの下鴨神社から自由になった存在だったからです。」
「もうそれ程頻繁には、異世界からの訪問者が来なくなったからね。トラブルはすっかり無くなって、あそこにずっと巫女として居なくても良くなったから…。」
「そして、第ニの理由は…。」
「第二の理由は?」
「アナタの一途さ、その想いの健気さに、心を打たれたからです。」
「…何ソレ?なんの冗談なの?笑えないんだけど…。」
「アナタは小学校四年生の頃からずっと、真田雪村君に好意を寄せていた。」
「…。」
「その想いをいつか遂げるべく、アナタは大人になるまでずっと、雪村君に寄り添っていた。彼の思考を全肯定し、時には良きアドバイスも与えた。」
「…でも、最終的には、フラれちゃったんだけどね。」
「彼はアナタと、一生良き友人であることを選んだだけの事ですよ。幸か不幸か、彼にとって守るべき存在は、アナタでは無かった。」
「私が、強すぎたって事かしらね…今はもう、どうだってイイんだけど…。」
「…ボクはね、不老不死になってもう長いのだけれど、こうなってみると、アナタのように真っ直ぐで一途な想いが、とても眩しく、素敵に見えるのですよ。この世に何時までも変わらぬモノなど、無いはずなのに、アナタは今でも雪村君の事が大好きだ。」
「随分ロマンチストなのね?何処かの永遠の17歳に、聞かせてやりたいセリフだわ。彼女は不老不死になると、デリカシーが無くなるって言ってたのに…。」
「それは、彼女一流の照れ隠しですよ。彼女だってホントは、人生で一番大切なモノはナニか…分かっているはずです。」
「…私に言うべき事は、それで全てなのね?」
「ええ、もう何も隠し事は有りません。今まで言いそびれていて、済みませんでした…付け加えるなら、そんな雪村君への秘めた想いも含めて、アナタの全てを、いつまでも愛してます、京子さん。」
「…バカね。もうイイわ。許してあげる。」
「しかし、良く調べましたね?」
「私も元々察しのイイ方なのよ。後は暇を見つけて、黄色いビートルで、自分の推論を確かめるために、時々イロイロな過去へ行ってただけ。」
「さすがは、ボクの選んだパートナーです。やはり、そうでなくては!」
「あ〜あ、結局アナタのペースなのね?」
「何しろボク、永く不老不死をやっているので…。」
彼のそのセリフをきっかけに、二人して笑い合ったのだった。




