⑯ 座標のズレ
猫の国をひとしきり案内して、由理子をイロイロと猫流にもてなしたので、ミケーネはそろそろ、彼女を故郷に送り届けることにした。
「じゃあ、由理子、またボクの船で送ってあげるよ。」
「もう、アナタ、すっかり時空のアッシー君ね?」
由理子は思わず、80年代の死語を口にしてしまった。
「なんだい、それ?」
「ああ、何でもないの。気にしないで…。」
「…?まあいいや。さあ、乗って、乗って。」
そう言うとミケーネは早速、彼女の故郷の座標をセットする。サン・ジェルマンのタイムマシンと違うところは、並行宇宙のズレの分まで、計算が可能なことだ。
「じゃあ出発しまあす。」
ミケーネは、まるで車掌のようにそう宣言して、オレンジ色の円盤型宇宙船を発進させた。
「ねえ、最近その車掌風の掛け声、流行ってるの?」と由理子が訊くと、ミケーネが「元ネタは、銀河鉄道999です。ハダカ猿族の惑星のアニメですよ。知らないんですか?」と言った。
「生憎ワタシは、あまりアニメを嗜まないのよ。」と言う彼女の意外なカミングアウトに、ミケーネは「へえ…?」と言ったきり、困ってしまったようだった。
「コスプレ好きなニンゲンの娘はみんな、アニメ好きだと思ってたんでしょ?」
「…うん、そう。意外だったよ。」
「ふふ〜ん。ワタシはただ、メイド服が好きなだけなのよ!」
「…そうだったんだ。」
「コレに懲りたら、何でもステレオタイプで判断しないことね!」
そう言って由理子は笑った。
ミケーネは、思ったほど彼女の機嫌が悪くなって無くて、ホッとしたのだった。
二人でそんな事を喋っているうちに、どうやら船は、彼女の故郷の時空に出たようだった。
目の前に、懐かしい地球の姿が見えて来た。
しかし、同時に、ナニやら違和感のある物体も、彼女の視界に入って来たのだ。
「ナニ、あれ?」思わず呟く由理子。
「あ、ちょっと時間がズレたみたいだ。今、入力データを修正するから…。」
と言うミケーネ。彼の船にはよくある事であった。
しかし、今はそれどころではない。
慌てた様子の由理子が、彼の肩を掴む。
「ねえ、ちょっとアレ見て!」
「…どれ?」
「アレよ!」
ミケーネが船窓から外を見ると、そこには大きな隕石が迫って来ていた。
由理子が操作パネルの日付けを見る。
今日は西暦2013年2月15日金曜日。
今は9時00分だ。あと20分しか無い。
由理子はすぐに思い出していた。
アレはロシアに落ちる、例の火の玉だ。
確か以前、サン・ジェルマンが話していた…未来にやって来る、不思議な結末を迎える隕石の事を…。
あのサン・ジェルマンが、何の意味も無く、彼女にそんな話をするはずも無かった。
もしも目の前のアレが、そのまま地球に堕ちたら、恐らく北半球は壊滅するだろう。それくらいのサイズに見えた。
いや、下手をすると、惑星ニビルの二の舞いかも…。
「やっぱりこれは、ワタシたちの使命なのね…。」
思わず独り言を言う由理子。
「えっ、今、何て?」
ミケーネは耳を疑った。




