⑫ 南極の後始末
それとほぼ同時に、ドアというドアから、次々に、ライフルや拳銃を持ったナチスの軍人たちが、ドヤドヤと現れたのだ。
雪子はチカラを使って空中に舞い上がると、旋回待機させておいたビートルに乗り込んだ。
そして大騒ぎになっている甲板を尻目に、一足先にそのまま南極大陸へ向かって飛んだのだった。
アドルフ・ヒトラーの目的地は分かっていた。もう彼がソコに辿り着く可能性はゼロになったが、雪子は、念には念を入れておく事にした。
南極点より少し太平洋寄りの地点に、他の並行宇宙とつながっているポータルがあるのだ。ヒトラーは多分、かなり前にソレを見つけていた。そして、そこから他の時空に逃げ出して、ナチスを再興する事を図っていたのだろう。
「今回は省エネで行きましょう。」
そう呟くと、雪子はビートルに備え付けられた、サン・ジェルマンとっておきのミサイルを、使うことにした。
「たかがナチスごときのために、私のチカラを使うのも癪だしね。」
南極大陸にポッカリと開く楕円形の穴に向けて、ビートルの照準器を合わせる。
「ハイ、発射!」
ミサイルは、周りのポータル制御の施設も含めた全てを、一気に粉砕した。
「ああ、スッキリした。コレで良しと。」
南極に残っていたナチスの残党たちは、どこからともなく飛んで来たミサイルに困惑していた。何しろビートルの光学迷彩は完璧なのだ。その辺のステルス機など、目ではないのである。
「皆殺しにされなかっただけ、マシだと思いなさい。」
そんな独り言を言いながら、雪子はその場を後にした。これから少しばかり、忙しくなるのだ。
できる限り、全ての並行宇宙にいるアドルフ・ヒトラーを探し出して、抹殺するのだ。彼女は文字通り、彼に"万死を与える"つもりなのである。
中には勿論、ただの油絵画家として、一生を終えるような、罪も無い者も居るだろう。それぐらいは見逃してやってもイイかな。彼女はそう思うのだった。
さて、次はどんな殺し方をしてやろうかしら。さっきはちょっと、アッサリやり過ぎだったものね。もっともっと苦しめてから、あの世に送ってやらなくちゃ、殺された人々が浮かばれないわね。
そんな事を真剣に考えている雪子の顔は、もはや伝説の"夜叉"そのモノだった。彼女はいよいよ、自ら名乗る"超時空の魔女"に、名実ともに成りつつあったのだった。
今や彼女の中で、ナニかが壊れつつあった。
デリカシーの欠如に関しては、自覚していた。
しかし一旦悪だと断定した者に対する、殺意のブレーキが、これまでより確実に甘くなっていた。
"この世に殺しても良い命など一つも無い"という大前提を、彼女は忘れつつあったのだ。
コレも、不老不死の身体になってしまった影響だろうか?
するとサン・ジェルマンや村田京子は、大丈夫なのだろうか?それとも、彼女独特の成り立ちから来る、個人の特性なのだろうか?
それはもはや、神のみぞ知る事なのである…この世に神が居れば、だが。
兎にも角にも、自分探しの旅が終わってしまった彼女は、再び時空を旅するための、やり甲斐の有る目的を手に入れたのだった。
「万死と言うからには、最低でも1万人のヒトラーに、死んでもらわなくてはね?…ああ、でも、彼がアウシュビッツで虐殺したのは、何人だっけ?」
彼女は嬉々として、これからの計画を練る。
なあに、慌てる必要は無い。
何故なら彼女は不老不死なのだ。
時間なら無限に有る。
彼女は永遠にヒマなのだから…。




