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『国の名の下に』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第六章 命令の所在

次の行動は、三日前に決まっていた。


 だが、その内容は共有されていなかった。

 日時と集合場所だけが、グループチャットに流れてきた。


 港湾地区。

 夜九時。

 私服、覆面なし。


 恒一は、その指示に引っかかりを覚えた。

 覆面をしないのは、警察への示威ではない。

 見せる相手が別にいるという意味だ。


 集合場所には、見慣れない顔が混じっていた。

 街宣で見かけたことのない男たち。

 体格がよく、言葉数が少ない。

 目つきが、団体のそれとは違う。


 父の事務所で見た連中と、似ていた。


 先生は、簡単な説明しかしなかった。


「港湾再開発に反対してる連中がいる」

「外国資本が噛んでる」

「日本の安全保障に関わる」


 反対派の名前は出なかった。

 企業名も、国名も伏せられた。


「今日は、話を聞かせるだけだ」


 その言い回しに、恒一は嫌な既視感を覚えた。

 父が使う言葉だった。


 現場は、倉庫街の一角にある小さな事務所だった。

 明かりはついている。

 中に人がいる。


 ノックはなかった。

 ドアを開ける役は、恒一に振られた。


「若いからな」


 理由は、それだけだった。


 中にいたのは、三人。

 五十代の男が二人と、若い事務員らしい女が一人。


 男の一人が立ち上がった。


「何だ、君たちは」


 その声には、怯えよりも困惑があった。

 政治的な敵と対峙する覚悟は、なさそうだった。


「日本の話をしに来た」


 先生が、穏やかに言った。


 次の瞬間、後ろから押された。

 恒一ではない。

 見慣れない男の一人だ。


 男が壁にぶつかり、書類棚が倒れた。

 事務員の女が悲鳴を上げる。


「手は出すなって——」


 恒一の声は、途中で切れた。


「黙れ」


 低い声。

 先生ではない。


 殴打は、短時間だった。

 狙いは顔ではなく、腹。

 倒れない程度に、呼吸を奪う。


 慣れている動きだった。


「分かったな」


 誰かが言った。


 何が分かったのか、誰も説明しなかった。


 外に出ると、先生が携帯で誰かと話していた。


「……ええ、問題ありません。若いのもいますが」


 若いの。

 それが、自分を指していると理解するのに、一瞬かかった。


 解散後、恒一は一人で港を歩いた。

 潮の匂いが、強かった。


 これは、国家のための行動なのか。

 それとも、別の誰かの都合なのか。


 答えは、分からなかった。

 だが一つだけ、はっきりしたことがある。


 命令は、国家から出ていない。


 家に帰ると、母からメッセージが入っていた。


「最近、港の件で動いてる?」


 短い文だった。

 情報源が、どこか別にあることを示していた。


 恒一は、返信しなかった。


 代わりに、机の上にあった団体の資料を見た。

 そこには、国家も、天皇も、日本も書かれていなかった。


 あるのは、工程表と、金額と、期限だけだった。


 怒りは、まだ消えていない。

 だがその向きが、少しずつ変わり始めていることを、

 恒一自身が一番恐れていた。

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