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『国の名の下に』  作者: キロヒカ.オツマ―


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36/36

――選ぶのは、誰か

数年後。


 蒼浜市は、相変わらず「基地の街」と呼ばれている。

 統計上は、少しだけ静かになった。デモの件数は減り、逮捕者数も下がった。市の広報誌には「対話の成果」という言葉が並ぶ。


 だが、何かが解決したわけではない。


 対立は形を変え、分散し、可視化されなくなっただけだ。


 街宣車は減り、代わりに動画が増えた。

 過激な言葉は減り、代わりに「炎上しやすい編集」が洗練された。

 右も左も、以前より“大人しく”、そして“稼ぎやすく”なった。


 恒一の名は、資料のどこにも残っていない。


 危険人物リストからも、運動史の年表からも、ネットのまとめからも。

 彼は、完全に「なかったこと」にされた。


 それを、成功と呼ぶ人間もいる。


 国家は安定を得た。

 組織はリスクを回避した。

 メディアは次の物語を見つけた。

 街は、今日も平然と朝を迎えている。


 だが、ときどき――

 基地のフェンスの前で、

 あるいは選挙ポスターの前で、

 あるいはSNSのコメント欄で、

 同じ種類の怒りを抱えた若者が立ち止まる。


 彼らは、恒一を知らない。

 知る必要もない。


 ただ、同じ問いを抱えている。


 この国のために、何をしていいのか。

 そして、何をしてはいけないのか。


 叫ぶことか。

 殴ることか。

 稼ぐことか。

 黙ることか。


 あるいは、

 誰にも語られない選択を、自分一人で引き受けることか。


 この物語は、答えを用意しない。


 恒一の選択が「正しかった」のかどうかも、

 右翼が間違っていたのか、

 左翼が正しかったのか、

 国家やメディアが冷酷だったのか、

 何ひとつ断定しない。


 ただ、一つだけ残る。


 誰かが壊れなければ、回らない正義がある

 という事実と、

 壊れずに終わる選択も、確かに存在する

 という可能性だ。


 次に怒りを覚えたとき、

 次に「日本のため」という言葉を聞いたとき、

 あなたは、どの物語を選ぶだろうか。


 語られる側か。

 消費する側か。

 それとも――

 誰にも語られない選択を、静かに引き受ける側か。


 物語は、ここで本当に終わる。


 だが、

 日本の将来を託す選択は、

 今も、あなたの手の中にある。

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