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『国の名の下に』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第十八章 加速する論理

論理は、静かに速度を上げる。


 最初は、納得だった。

 次に、合理化。

 最後は、必然になる。


 恒一の発言は、以前より鋭くなっていた。

 言葉を選ばなくなったわけではない。

 選ぶ必要がなくなっただけだ。


 小さな講演会。

 商工会の会議室。

 閉じられた場。


「話が早くなる」


 主催者は、そう評価した。


 曖昧な前提を削ぎ落とし、

 敵と味方を明確にする。

 聞く側は、考えなくていい。


 それは、

 楽だった。


 拍手が起きる。

 賛同の頷き。


 その空気に、

 違和感はなかった。


 むしろ、

 正解に近づいている感覚があった。


 終了後、

 若い男が近づいてきた。


「勇気をもらいました」


 目が、少し危うい。


「何を、すればいいですか」


 その問いは、

 恒一がかつて抱いていたものだ。


 答えは、

 用意されている。


「まず、学べ」


 無難な言葉。

 だが、

 それだけで終わらないことを、

 互いに理解している。


 帰り際、

 スーツの男が車で待っていた。


「反応がいい」


 褒め言葉。


「君の言葉は、

 行動を生む」


 その評価が、

 一番危険だった。


「責任は」


 恒一が聞く。


 スーツの男は、

 即答しなかった。


「分散する」


 それが、

 彼らの世界の答えだ。


 その夜、

 ニュースが流れた。


 別の地方都市。

 保守系の集会後、

 市民団体との小競り合い。

 一人が転倒し、

 頭を打って重傷。


 映像はない。

 詳細もない。


 だが、

 空気は伝わる。


 同時多発的だ。


 蒼浜だけではない。

 全国で、

 似た動きが起きている。


 誰が指示しているのか。

 それは、

 もう重要ではない。


 論理が、

 人を動かしている。


 帰宅すると、

 妹が珍しく起きていた。


「ねえ」


 声が、硬い。


「最近、

 あなたの名前、

 変なところで見る」


 恒一は、

 否定もしなかった。


「心配?」


「うん」


 それだけだった。


 守るために、

 強くなっているはずなのに、

 距離が、

 確実に広がっている。


 その矛盾を、

 論理は説明してくれない。


 翌日、

 団体の内部資料が回った。


 次の段階。

 次の争点。

 次の敵。


 文字は、

 淡々としている。


 だが、

 行間にあるのは、

 もう戻らない前提だ。


 恒一は、

 資料を閉じた。


 加速は、

 止まらない。


 止める者も、

 必要とされていない。


 論理は、

 いつの間にか、

 人の代わりに、

 判断するようになっていた。


 それが、

 一番、

 恐ろしいことだと、

 気づきながら。

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