第十七章 孤立の輪郭
孤立は、ある日突然やって来るものではない。
静かに、段階を踏んで、
周囲の音が一つずつ消えていく。
恒一は、気づけば連絡先が減っていた。
返信が来ない。
既読が付かない。
理由を説明されることもない。
それは、拒絶ではない。
回避だ。
大学時代の友人。
昔のバイト仲間。
どちらも、政治の話をした覚えはほとんどない。
だが、今は違う。
名前だけで、立場が分かる。
写真一枚で、線が引かれる。
街を歩くと、
視線に気づくことが増えた。
敵意とは限らない。
好奇心でもない。
距離を測る目だ。
ある夜、恒一は一人で飲んでいた。
駅前の古い居酒屋。
カウンター席。
隣に座った男が、
何気ない口調で言った。
「最近、よく見る顔だね」
恒一は、曖昧に頷いた。
「大変だろ」
それ以上、男は踏み込まない。
踏み込まないことが、
この街の流儀だった。
帰宅すると、
母から電話があった。
「職場で、あなたの話題が出る」
責める調子ではない。
報告だ。
「問題は、ない」
一拍置いて、続く。
「でも、
私は説明する立場になる」
それが、
母なりの限界だった。
妹は、最近帰りが遅い。
ライブだけではない。
仕事が増えたのだと、
そう説明する。
守れているのか。
それとも、
巻き込んでいるのか。
答えは、出ない。
数日後、
団体の若いメンバーが一人、
姿を消した。
理由は、誰も語らない。
噂だけが、断片的に流れる。
家族の反対。
就職。
怖くなった。
どれも、
正しい理由だ。
残った者は、
それを口にしない。
沈黙が、
選別を進めていく。
恒一は、
自分が輪の内側にいることを、
否応なく自覚した。
外に出る理由は、
もう、
用意されていない。
夜、ベランダに出る。
蒼浜の街灯が、
点々と光っている。
この街は、
変わろうとしている。
その中心に、
自分がいるのか。
それとも、
ただ巻き込まれているだけなのか。
分からない。
だが一つだけ、
はっきりしている。
孤立は、
弱さではない。
役割の完成形だ。
そう思い込まなければ、
ここには立っていられなかった。




