第十五章 忠誠の更新
忠誠は、一度誓えば終わりではない。
更新が必要だ。
定期的に、
疑いが混じらないように。
恒一は、呼び出しを受けた。
場所は、蒼浜市郊外の古い温泉旅館。
営業は続いているが、平日の昼間はほとんど客がいない。
個室の畳に座らされた。
先生。
スーツの男。
それから、もう一人。
見覚えのある背中。
父だった。
驚きは、なかった。
むしろ、遅かったと思った。
「よくやってるな」
父は、湯呑を置きながら言った。
その声に、親しみはない。
評価だけがあった。
「今回の件、
余計な火種は出なかった」
スーツの男が続ける。
「君のおかげだ」
恒一は、黙って頭を下げた。
感謝は、
受け取るものではない。
「だがな」
父が、少し声を落とす。
「この先は、
中途半端は許されねえ」
更新だ。
そう直感した。
「団体として、
君を前に出したい」
先生の言葉は、
提案の形をしていなかった。
「表に?」
「半分な」
街宣ではない。
演説でもない。
顔が見える役だ。
「名前は出す。
だが、背景は出さない」
スーツの男が、淡々と条件を並べる。
「何かあれば、
守る」
その「何か」の中身を、
誰も説明しない。
恒一は、問いを飲み込んだ。
「断る選択肢は」
自分でも、
形だけの質問だと分かっていた。
父が、即答する。
「ある」
一拍。
「だが、
お前は選ばねえ」
それで、話は終わった。
忠誠は、
確認ではなく、
前提だった。
帰り際、旅館の廊下で、
父が肩を叩いた。
「妹は、順調だ」
それが、
脅しでも忠告でもなく、
事実の共有だと分かるのが、
一番きつかった。
外に出ると、
山の空気が冷たい。
空は高く、
音がない。
更新されたのは、
立場だけではない。
覚悟だ。
その夜、恒一は自室で、
古い日の丸の旗を取り出した。
折り目のついた布。
どこに掲げるわけでもない。
ただ、
広げて、
見つめた。
これが、日本か。
それとも、
自分が縋っている記号か。
答えは、出ない。
だが、
更新は完了した。
引き返せる期限は、
もう、
静かに過ぎていた。




