第39話 『黄昏の盟約』
「……えっ? ゲートの問題が解決した?」
「端的に言うと、『人を閉じ込める部屋』がどこにあるのかがすぐにわかるようになったのう……」
黄昏の盟約のクランハウス。
リク、ギデオン、リリア、ヴァルフレアの四人で話していた。
「ゲートと人を閉じ込める部屋が遠隔でつながっていて、ゲートを攻撃すると、閉じ込めている人間からエネルギーを吸い上げる構造になっていた。だからゲートを攻撃できなかった……という話でしたよね」
「そう。悪霊軍には『三賢精』と呼ばれる科学組織がある。そこの一人が開発したもので、『人間とつながりがあるように機能を追加した』といったものだった」
「それが、なんで今?」
「繋がりを断つことができたわけではないが、『部屋』の技術が進んでいなかった。部屋は建設コストも移設コストもすさまじいというわけで、そもそも数が少ない」
「そこだけ聞くと、『ゲート』も『部屋』も似たような設計ですね」
「ああ。ただ問題なのは、社会的には、『人が消える』という事実がある」
「人が消える……か」
前提というか、『黄昏の盟約と悪霊たちのルール』を頭の中で考えつつ……。
リクはすぐにひらめいた。
「あぁ、なるほど、『窓石商会』から『裏で使うためのインク』が提供できなくなったから、『人を攫ってる地域がバレた』のか」
「そういうことだ」
人間を誘拐して閉じ込めておく。
それが、『部屋』の起動条件だ。
しかし、それは『町や村で、確実に、人が消えている』ことを意味する。
ただ、社会的に『行方不明』が問題として取り上げられている地域はほぼない。
となると、『社会で取り扱っている書類』に、何らかの細工や改ざんが施されている可能性が高い。
しかし、つじつま合わせはやる必要があるわけで、そのための道具として窓石商会のインクを使っていた。
そのインクが使えなくなったことで、『人を消す手続き』がうまく機能しなくなったのである。
もちろん、一般人なら気が付かない可能性もあるが、黄昏の盟約は『こそこそ建造されているゲートを発見して対処する』のが普段の仕事。
しかも、『ちょっとでも怪しいと思ったら、すぐにそこに駆けつける』という方法をしらみつぶしにやれば、いずれ到達する。
ヴァルフレアが悪霊に対処し始めて3000年。
泥臭い作業は、むしろ慣れている。
「というか、ゲートに関することって悪霊にとっても重要なはずですけど、そのために人を誘拐するとして、新しい手段を作るんじゃなくて既存の応用とは……」
リク目線で少しモヤっとするのは、『人を確保する』ということに関して、新しい手段やリソースをつぎ込むのではなく、既存の仕込みを応用するというのが引っかかる。
すでに用意していたものの中で余っているリソースを活用する。という意味では間違いないように思えるが、『ゲートが超重要』であることが確定している現状、別で何か仕込むのが普通だ。
「要するに、それだけ、『活動時間の限界』という概念が重くのしかかっているということだ。現実世界のリソースがギリギリなんだよ」
「それはまぁ、まだいいとして……ゲートと部屋をつなげるというのが重要な作戦だと考えれば、あえて窓石商会を残しておくという手も……いや、ビラベルをどのように活用していくかを考えた結果、すでに何か、大きな作戦を考えてるのか?」
「リク君が、エレノアから頼まれて書類整理をしている間に、向こうは何かを考えた。といったところ。まぁ、別にそれそのものは何も問題はない」
「問題……ないんですか?」
「ない」
リリアが頷く。
活動時間の制約。というルールがあったが故の、今までのルールだったはず。
それがビラベルによって覆ることは間違いなく、それを軽く考えているように思える。
「端的に言うと、三賢精はかなり、賢くてね。リク君の登場とビラベルの確保。様々な要因が重なった結果、『どんな展開にすべきか』を考えてすぐに行動に移るはずだ。意外ときっちりしたルールだから、まずはそれに乗った上で、今後どうするかを考えるということだよ」
「……」
敵に賢さに対して信用がある。ということだ。
確かに、リクも悪霊について知識が深いわけではない。
しっかり考えることができる奴がルールを整備する方がいいのは、わかることだ。
ただ……。
「なんだろう。俺にはちょっと、理解できないやり方ですね」
貴族社会も、悪霊も、元日本人の感性を持つリクとしては直感に反する部分がそれ相応に散見される。
もちろん、戦闘面では貧弱であるリクがアレコレ言う場面ではないのだろう。
そこは認める。
ただ、認めるのはそこまでだ。
というか……。
(異世界って、もうちょっとシンプルじゃなかったのか?)
ちょっと願望が頭をよぎるリクであった。




