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第35話【ヘクターSIDE】 ビラベル動く。悪霊襲撃

「やっぱり稼がないとどうにもならん」


 ヘクターはダンジョンで剣を振り、モンスターを倒す。

 金貨が3枚出てきた。


「……はぁ、ダンジョンの外で遊ぶ時間は減りまくったよほんと」


 ダンジョンはショートカットができない。

 確かな強さを持ち、ヘクターのように48層だろうとモンスターを倒せるとしても、48層まで行くのには確かに時間がかかる。


 日帰りできる程度の距離でありながら、『移動』という、体力を確実に使うことをしつつ、モンスターを倒して金貨を持ち帰る。


 それができてこそ『安定した冒険者』だ。


 もちろん、深い階層に潜らないわけではない。

 ただ、それは『キャンプ用品まで全てそろえた遠征部隊』のような装備が必要だ。

 当然、多くの人間が動くし、それ相応の成果を求められる。


 以前、48層に一人で戦っていた時も、『土日を利用しつつもすぐに帰る前提』である。


 人は減ったが支払いは多い以上、深いところに潜ってなんとかするしかないのだ。


「そろそろ帰るか」


 金貨が入った袋を手に、ダンジョンの中を歩く。

 もちろん、帰る道中もモンスターは出てくるし襲ってくるが、特に気にした様子もなく倒す。


 ヘクターは、紛れもなく、強者なのだ。


「フフッ、相変わらず強いですね。ヘクター君」

「えっ……ビラベル先生?」


 歩いていると、遭遇したのは、ビラベルだ。

 いつも通り、教師のローブ姿であり、手には剣を持っている。


「……おかしい。ビラベル先生の実力で、ここまで来れるわけが……いや、その剣。いったいなんだ?」

「ほう、剣が『おかしい』ことに気が付きましたか。さすがですね」


 ビラベルは褒める。

 なんせ。事務能力はともかく、その『実力』に関して言えば、ヘクターが強いことは誰もが認めているのだ。


 ヘクターナイツの稼ぎに嘘はない。


「まぁ、この剣があるからこそ、ここまでこれたという話です。そして……ヘクター君。君には、死んで貰います」


 ビラベルは宝石を取り出すと、そこに精霊力を流し込む。

 その精霊力も、別の意思にため込んでいるものを使用。


「『ミクロゲート』」


 ゲートが開く。

 小さく、少なくとも人が通れるものではない。


 中から出てきたのは……スライムだ。

 水性のような見た目で、ポヨポヨと地面に着地。


 だが……明らかに頑丈な『鉄のカブト』をかぶっており、体から伸びた二本の触手の先端に、それぞれナイフが接続している。


「これが『悪霊兵』……小さいですが、強いですよ」

「!」


 スライムが突撃。

 そのまま、ヘクターに向かって、ナイフを突き出した。


「チッ……」


 ヘクターは剣でナイフを受け止める。

 もう一本のナイフは、左手を前に出して、障壁魔法で防いだ。


「オラッ!」


 そのままヘクターは足を振り上げて、スライムを上に蹴り飛ばす。

 スライムは上に跳ね上がって、天井に当たって、そのまま落ちてくる。

 その頃には、蹴りの勢いを応用し、体を回転させながら『僅かに光る剣』を振りかぶったヘクターが、真横に一閃。


 勢いも遠心力も最大レベルの一撃が、スライムの生身に直撃。

 自分で蹴ったとはいえ、高速で動くモンスターの速度を完璧に把握し、カブトがない場所に剣を当てる。


 戦闘においては曲芸すらも可能だというのだろうか。


 一閃されたスライムは、一切傷がつかず、そのまま吹き飛んでいった。


「……なんだ? 全然手ごたえがない」

「……なんだこいつ。強すぎでしょう」


 ヘクターもビラベルも驚いていた。

 剣が『僅かに光った』ため、おそらく何らかの魔法効果も乗せた一撃だろう。


 この急激な展開に対して、一切うろたえることなく、『ビラベルと悪霊兵が持つ確かな殺意』を感じ取り、疑わず、体を一瞬で戦闘態勢に移行する。


 その上で、隙を突きながら、魔力によるバフも乗せた一撃を叩き込めるのは、『ダンジョンを探索し、疲れているはずのタイミング』を狙ったビラベルとしても、驚きを隠せない。


 そしてヘクターの方も、『あれほどクリティカルに攻撃を入れたのに、全く効いている様子がない』のは、初めての経験だ。


「あの体そのものに、ダメージを無効にする魔法がかかってるのか? いや、そうした障壁や体質を狂わせる魔法を剣に乗せたはずだ。『そっちの魔法が何かに当たった様子』はないし、何の魔法も、魔法の防具も付けてない。カブトとナイフはシンプルなものだ。なんだ、この生物は……」


 ヘクターの分析だが、非常に正しい。

 その分析を見たビラベルも、動揺を隠せない。


(な、なんだその洞察力は……! そうか、ダンジョンは深いところに簡単に潜れるわけではない、ヘクターナイツの稼ぎは、『メンバー全員が、確かな実力を持っているから』成り立つ。しかし、『試験で特筆すべき戦闘力を持っていた』と判断されれば、その時点でその生徒には何か話があるはず。そうした生徒は、ヘクター自身の除けば聞いたことがない。どうでもいい生徒がクランに何人も入り、それらが確かな実力になるまで育ったから、あのクランは稼いでいたのか)


 ビラベルの視界の端で、スライムが突撃した。

 ヘクターはそれを、最低限の動きで看破し、ナイフを容易く弾く。


(あの目、あの集中力。間違いない、『スライムの戦闘技術を完璧に理解している』のか。人であろうがモンスターであろうが、『戦場において』なら、初見でほぼすべて看破する。どんな才能を持っているのかもわかるし、見出すことができるのか。モンスターの特徴さえわかれば、クランのメンバーの『適材適所』を見出すのはたやすいだろう)


 要するに!


(リク君って、『確かな目を持っているヘクター君ですら見いだせないほど』……戦闘では、何の才能もない雑魚なんだな)


 ちょっと悲しい結論に行きついた。

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