表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/40

第32話【エレノアSIDE】 『窓石商会』の監査

 王都は広く、壁に囲まれている。

 そして東西南北の四つしか門がない。


 こういう設計の場合、門からも中心部からも遠い場所。要するに『王都の北東、北西、南東、南西』の四つは、アクセスが悪いため価値が下がる。


 その中でも北東。

 そこに、エレノアは抱えている兵士を連れて、監査に来ていた。


「殿下。帳簿を確認しましたが、特に怪しい点はないかと……」

「そう。とはいえ、取引を持ち掛ける側も、いずれ、私が監査に入ることを前提に話を進めるはず。帳簿くらいしっかりするのは当然よ」

「『対モンスター防壁計画』に関わる大口入金を確認。あの『特殊インク』も現物を見せてもらいました」

「関わっていた理由は?」

「大きなプロジェクトですし、周辺国からの諜報にも気を使う必要があるため、特殊インクを扱っていたという話でした」

「そのお金は今、どこに?」

「本人曰く、『本社がある本国の法律に基づき、すでに送金した』とのことです」

「……アイゼン伯爵が、法律の制定にも影響を与えるようになった時代、そういえば外国の商人に関する法律に手を加えていたけど、あれは『こういう場面』で上手く使えるようにするため。ということね」


 エレノアは内心でため息をついた。


「ただ、『国防にも関わる自国の大規模プロジェクト』なのに、『他国の商会の製品を使っていた』という点は矛盾しか感じないけど?」

「それは……そうですが……」


 他国からの諜報活動を考慮した結果として、『魔力不干渉のインク』を使うというのはまだいい。

 ただ、それは『自国で開発されたもの』でなければ、構造的な問題がある。


 魔力不干渉。というのは確かだろう。

 しかし、インクの配合を変えることで、『特定の魔道具を使えば内容がわかる』となれば、インクを使っている意味が何もない。


 このプロジェクトは、『国防に関わるレベルだから莫大な予算が流れる』という前提であり、国防というからには、自国の、しかも政府が作成・管理している物を使うべきだ。


「……まぁ、私ならそう聞かれたら、『機密の作業場で配合を変えた調整品にして、現場で使用している』と返すけど」

「自分で思いつくなら、何故『疑問』として口にしたんですか?」

「疑問として口に出したうえで、一瞬で答えにたどり着いたからよ」

「セルフの質問と回答で精度が高いなら、我々がいる意味って一体……」

「さぁ?」

「さぁって……」

「最近疲れてるでしょう。私の顔と体を見て目の保養にでもしてなさい」

「付き合いが長くて殿下をよく見ている『第二王女派』の我々にそれ言いますか?」

「別にいいでしょう」

「あの、殿下」

「何?」

「相当、性癖に刺さっていないと、何度も同じエロ本は手に取らないんですよ?」

「張り倒すぞ」


 距離が近いというか、軽口をたたいているというか。


 どちらかというと、『手詰まりになったからどうでもいいことを言っている』感じか。


「こういうのは、リク君を頼った方が早いかしら」

「どうでしょうか」

「もっとも、この店は、リク君が『黄昏の盟約の事情』で調査して見つけた場所。伝説レベルのクランなら、私たちなら想像もつかない能力を持った『諜報員』もいるはず。そっちにつながれば、『裏』を見つけるのも楽そうだけど」

「セルフの質疑応答が早すぎる」


 エレノアは確かな頭脳の持ち主である。

 とはいえ、そんな彼女も、本当に一人でいるときに、誰の反応もなく、頭が回るかとなれば、そうではないだろう。


 だからこそ、『自分で答えを出している』という状況であるにもかかわらず、部下たちは苦笑するだけだ。


 別に見ているだけでも綺麗だし。


「まぁ、その『外国の本社』なんてものが実在するのかどうか、それそのものが怪しいけれど、とりあえず、『窓石商会に監査を行っている』という事実があれば、とりあえず『戦場の設定』としては十分かしら」

「それはどういう……」

「監査に入り、『表だけは見た』……それを受けて、相手が何を考えるのか。そういうことを考えるのも『戦略』というものよ」

「あの、その部分、監査に入る前に教えてほしいんですが。殿下も割といきあたりばったりですよね?」

「悪い?」

「はい」

「でしょうね。私もそう思うわ」


 エレノアは機嫌がよさそうで、部下はため息をついた。


 第二王女派。


 少なくとも、『貴族社会』としてみた時、曲者揃いなのは間違いないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ