第3話 ドラゴンの財布は247兆6800億円くらい。
丘三つ分の金貨。というふざけた量の金がどれくらいの価値なのかと考える前に、この世界の貨幣について少し補足が必要だ。
この世界では、モンスターを倒すと、その強さに応じて硬貨を落とす。
その硬貨は、魔道具のエネルギー源として使えるため、需要があり、価値が保証されている。
含まれる魔力量が価値に直結しており、銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚。というレートだ。
銅貨が100枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚ということ。
(俺の肌感覚だが、地球で300円くらいの物を買おうと思えば、この世界では銅貨を5枚くらいって感じだ。となると、銅貨1枚でおおよそ60円。金貨1枚の価値は、およそ6万円になる)
その上で、リクは、目の前にある三つの『丘』を見る。
「マジでこれ、全部、金貨?」
「その通り」
「何度見てもすごいのう……」
「ため込みすぎてしまったが、数えるのも面倒でね……」
四人でその『丘』がある場所にやってきたが、呆れるしかない。
「そういえば、大きさは目算で分かりますか?」
「まぁ、それができないと、正確な間合いを把握できないからな。強者はわかるのだよ。大体、直径40メートル。高さ10メートルの円錐だとおもってくれていい」
「なるほど……なるほど?」
とりあえずメモする。
「えーと確か、金貨1枚が、直径30mm、厚さ2.8mmだから……で、コインみたいな円柱を無造作に積み上げた時の充填率が、確か60から70%……ここでは65%とするか。で、体積を計算して……で、これが三つだろ?」
紙に書いて、そろばんをはじいて、計算する。
「大雑把ですけど、41億2800万枚だな」
「41億!?」
「そんな大量なのか!?」
「数字にすると凄いな……」
ちなみに、このままの数字で、金貨1枚が6万円だとして計算すると。
ヴァルフレアの保有現金は247兆6800億円である。
バカ言ってんじゃねえ。
「ちなみにこの丘って、王国の人には……」
「刺激が強そうだから見せていない」
「まぁそうでしょうね……というか、ずっとこのまま隠しておけばいいのでは?」
丘だが、そもそも直径40メートル、高さ10メートルの円錐が三つもあるほどで、それが『森の中で、結界に守られている』のだ。
認識を阻害する結界のようで、結界内部に入るまで、金貨の丘があると全然わからなかったので、このままにしておけば問題なさそうだが……。
「私たちにも、『納税』をしっかりしなければならない理由がある。そのために、君を誘ったといっても過言ではない」
「はぁ……」
リリアからそういわれれば、リクとしては納得するしかない。
一辺5メートルの鉄の立方体を難なく浮かせて、時速100キロで一緒に移動できるような魔法技術を持っているエルフからすれば、人間というのは非常に脆く弱い存在だろうが、そんな人間が作った『社会』に対して、なにかあるのだろう。
「で、これをそのまま報告したら、莫大な資産税がとられるから、それを何とかしたいと」
「そういうことだ。別に私は、金貨が減ることに対しては何も思わないが、敬意も公正さもない連中が、ズカズカ踏み込んで持ち出すのは癪に障る」
「なるほど」
そもそも強者であるヴァルフレアからすれば、金貨が必要になれば、近くのダンジョンに言って、モンスターを蹂躙すれば金貨が手に入る。
相対的な強さでバランスをとる人間社会の範疇を超えた絶対的な強者なのだ。
納税する理由はともかくとして、別に金がなくなるこそそのものは何も思わないが、積み上げてきた歴史に対する『無礼』や、都合よくルールを捻じ曲げる『不公正』を許す気はないということ。
「うーん……まぁ、失うことそのものに何も思わないなら……『基金』にしましょう」
「ききん?」
「王国の古い法律に『王国基盤への貢献投資に関する特例法』というものがあります。これは、国の事業に投資した際、その資金を非課税にするための法律ですが、詳細な条文には『個人・団体を問わず』とあります。…おそらく、貴族しか使わないので、誰も気にしていなかったのでしょう」
「「「……」」」
「これを利用し、ヴァルフレア様の名で『古代文化財保護基金』という財団を設立します。そして、この金貨の大半を、その財団から王家へ『王都インフラ整備のための長期貸付金』として貸し付け、王室発行の借用証書を受け取ります」
「「「……」」」
宇宙を見ているような空気になった三人。
それを見て、リクは『概ね想像通り』ではあったが……。
「ええと、つまりこうです」
ため息を押し殺して説明する。
「今、金貨はヴァルフレア様の『個人的なお財布』に入っています。だから、徴税官は『そのお財布から金を出せ』と、強気で言ってくるわけです」
三人はうんうん。と頷く。
「そこでまず、金貨を『古代の宝物を守る会』という名前の、新しい『金庫』に移します。この時点で、もうヴァルフレア様の個人的なお財布のお金ではありません」
三人はうんうん。と頷く。
「そして、ここが一番大事なのですが、その『金庫』に入れたお金を、『このお金、国の発展のために自由に使ってくださいね』と、王様に丸ごと貸してあげるんです」
リクは、にっこりと笑って続けた。
「こうなれば、もう徴税官は手が出せません。だって、そのお金に文句を言うことは、王様のやることに、真っ向から文句を言うのと同じになりますから。今、王族と貴族だと、貴族の方が勢いはありますが、そこまでの度胸はないでしょう」
そして、彼は人差し指を一本立てて、結論を告げた。
「要するに、王様を『盾』にして、全部押し付けちまうんです」
三人は、おー。と感心。
「ただ、現国王は貴族の言うことを聞いてばかりです。まぁ、陛下に功績なんて何もありませんからね」
「自分が生まれ育った国のトップに対してなんてことを」
「それはそれとして、王女様を使いましょう。王立学校の生徒会長は、第二王女、エレノア殿下です。聡明な方なので、説明すればわかってくれると信じたいです」
「最後の最後に断言じゃなくなったぞ」
「まぁ、わかりやすく説明しますけど、それでも限界はありますから」
リクもこれには苦笑するしかない。
「エレノア殿下は、国民目線の政策を実現しようと頑張ってる方ですし、そこに投資するということになりますね」
「なるほど、面白い」
というわけで。王女を使って節税することになった。
……正直に言えば、金額が金額なので、王女がショック死する可能性があるが、それはリリアに蘇生してもらおう。
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