第28話【エレノアSIDE】 王女様、壊れちゃった。
「ふ、ふふふっ、ククク……」
生徒会室で最も大きなデスク。
そこでは、エレノアが、恍惚とした表情で、書類を整理していた。
明らかに手が震えており、書類を整理しているが、いつもより進まない。
「あ、あの……会長。少し、落ち着かれた方が……」
生徒会役員の一人が、ちょっとビビりながらもエレノアに言った。
多くの生徒から見てエレノアがどんな生徒なのかというと、『先見の明に優れた、王女の威風と余裕に溢れた女傑』といったもの。
まず、そのプラチナブロンドの長髪は美しく、王族として優れた血を引き継いできたため、美貌も確かである。
スタイルもよく、胸はFもある。
この学校の制服は、『初代国王』の強い意志によって、『体のラインが出やすい構造』であり、下はミニスカートである。
18歳にしてなかなか完成した体つきであり、制服を着ているだけでなかなか魅力的だ。
……ちなみに、この『制服の構造』だが、初代国王が出した建前としては、『王国の未来を作る子供たちであるならば、自らを律して、見られても恥ずかしくない体を作っていくべきだ』ということらしい。
とはいえ、制服をどうするのかに関して、男子生徒の制服は20分で決まったのに、女子生徒の制服は半年もかかったのだから、本音は非常にはっきりしている。
閑話休題。
エレノアは政治闘争においては『改革派』とされる人間である。
国民目線の製作の考案や執行を考えるタイプであり、なおかつ優秀だからこそ、リクは『基金の設立』の上で、エレノアを利用したわけだ。
改革ということは、『良い未来』を予測・提示できるからこそ成り立つもの。
社会の状態を見渡して分析し、『良い芽が出る種』を蒔いておくことができるからこそ、『政治闘争』という魑魅魍魎の巣窟の中で『支持者』がいるのだ。
まぁ、外見はいいのでそれで誑かしている部分はあるだろうが、それはそれで武器の一つだろう。
そんなエレノアだが、喜び……それも、さらけだしたらやばいタイプの『大歓喜』が顔に滲み出ている。
「……そんなにわかりますか?」
「顔にはっきり書いてます。『私、嬉しい!』と」
「では、共有しておいた方がいいでしょうね」
ペンを置いた。潔い判断である。
「現状、政治闘争の場において、レオニス……ヘクターの父親だけど、この人が大きな影響力を持っている」
レオニス・フォン・アイゼン伯爵。
既得権益にべったり。というといろんな派閥があるが、現状、『貴族派』の中で最も大きいのがこの派閥だ。
「それは知っています」
「端的に言えばキックバックがすさまじく多い。お父様が通してしまった『魔物との戦闘に耐えうる砦の建設』のために大量の予算編成が確定。しかし、現状の戦力でほぼ足りている地域の話。砦の建築などほぼ進んでないけど、それでも何も問題が発生していない」
「砦の建設を進めるという体になっているけど、全然進まず、ノックバックに使われている……当時の陛下が、貴族派の圧力に負けて通したと聞いていますが……」
「あいつらは『国防』という建前を使って、『かなりの予算をつぎ込めるプロジェクト』として設計したから、キックバックも多い」
国防。
民を守るための砦の建設という、一見すると否定しずらいスローガンだ。
しかし、実際は必要のない設備投資であり、今も別に進んでいない。
その予算は、いろんな名前を付けて、関連する貴族に振り込まれる。
とはいえ、最近、『黄昏の盟約』という『金脈』が使えなくなったばかりであり、『しっかりばっちり不穏な空気が漂っている』のだ。
「腹は立ちますけど、頭が良いですよね」
「そうよ。悪人なんだから、頭がいいに決まってる。で、『自分もキックバックが欲しい』ということで、関わってる貴族も多いのよ」
「この国、腐ってますね」
「だから私が変えようとしているのよ」
生徒の方は少し考える。
「……えっと、ここまでは前提ですよね。『議会』で、何があったんですか?」
「ノートやポーションと言った、リク君が作ったものを用意して、『やろうと思えばこういったものを、安価に市場に提供できる』と言ったのよ。アイツらの慌てようと言ったら面白かったわ」
「まぁ、混乱は起こりますよね」
「ヘクターナイツという、伯爵家の次男が作った学生パーティーの中で使われていた物。作っていたのはリク君だけど、貴族派の目線だと、『いきなり現れた、既得権益に影響する爆弾』に等しい」
特権。
貴族というのは、特権を握るからこそ確かな力を持っており、それは『独占』と同義だ。
自分たちの城を揺るがすものがないから、独占が可能で、価格も決め放題。
そんな場所に突如として、『独占が崩れる物』が出てきたのだ。
もちろん、貴族としての特権が、ポーションやノートといった『物体だけ』に依存する貴族は少ないが、決して無視できるものではない。
物も、カネも、自分たちで『独占』しようとするからこそ、『既得権益』は誕生する。
そんな時に、『独占が崩れる物』が出てくるというのは、『貴族として格落ちする』に等しい。
そんな『失態』がある中で、これまで通りのキックバックが受けられるのか。派閥で良いポジションを維持できるか。そもそも派閥でいられるかどうか。
理解できれば、混乱するに決まっている。
「……爆弾ってこと、理解できる脳みそ、あの人たち持ってますか?」
「あなたの口も火力が高いわね。まぁいいわ……理解できてなかったようだから教えてあげたら、ハチの巣を突いたようになってたわね」
すっごく良い笑みを浮かべるエレノア。
……とはいえ、『今までうまくいかなかったこと』が、急に『最大の火力』を出せるようになったのだから、気分がおかしくなるのも無理はない。
エレノアは確かに聡明で、未来をしっかり考えて種を蒔けるが、それでも18歳の少女である。
「今のうちに、私の息がかかった監査の人員を『砦の建設現場』に送り込んで、後でどれほど金を横流ししてるのか突きつけてやるわ」
「楽しそうですね」
「ええ、とても」
「でも落ち着いてくださいね」
「それは……そうね」
派閥のトップたるもの、下が不安になるような顔をするべきではない。
事態が好転しようが暗転しようが、それは間違いないことだ。




