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第27話【ヘクターSIDE】 裏ボス圧倒

 大きなこん棒を持った身長5メートルの赤鬼。


 身長170センチのヘクターにとって、『筋骨隆々で、自分よりも3倍大きい人型の化け物』が襲い掛かってくることになる。


「オオオオオオオオオオオッ!」


 赤鬼が突撃して、ヘクターに向かってこん棒を振り下ろす。

 それに対し、ヘクターは前に出てこん棒を回避しつつ、脛に向かって剣を振る。


 障壁に守られて、剣が止まった。

 

「……」


 止まったが、剣はそのままで、左手に魔法で付与をかけてストレートを叩き込む。

 障壁は出ない。


 そのまま脛に、強化された拳が入った。


「ゴオオオオオオオオオッ!」


 鬼は悲鳴を上げたが、すぐに後退した。


「……突撃した時の足音が、似た体格の奴よりうるさいな。骨も筋肉も、密度がありそうだ。それにさっきの障壁……『あまりにも斬撃に対して的確だった』が、『本人はたいして見てなかった』し、『斬撃に対する自動防御』ってところか」


 一回、交えただけで、ヘクターは特徴を頭の中で整理する。


「なら……」


 鞘に剣を納めると、何かの魔法を使う。

 そのまま、鞘が腰から離れる。


「さてと……」


 鞘に納めたままの剣を構える。

 一切留め具がないのに、鞘がまったく抜ける様子がない。

 魔法で固定したようだ。


 そのまま、鬼に向かって突撃する。


 鬼もこん棒を薙ぎ払ってきたが、それを跳躍して回避。

 その勢いで、鳩尾に、強烈な突きが入った。


「ガヒュッ――」


 大きな隙。

 ヘクターは鬼の胸を蹴って跳躍し、鬼の右手に近づくと、手の甲に剣を振り下ろす。


 ガンッ! と音がして、鬼の手からこん棒が離れた。


「オ、オオ……」

「……ん? ああ、なるほど。さっきの自動障壁。『この棍棒を持ってるときだけ』か」


 ヘクターは鞘を腰の帯に固定すると、鞘から剣を抜いた。


「時間をかける意味もないし……ほっ」


 ヘクターはこん棒を後ろに蹴り飛ばした。

 鬼の視線がそちらに移り……すでにヘクターは魔法で付与した足で跳躍し、一気に迫る。


 一度、鬼の『真下』に入り、完全に死角に入る。

 そのまま上に跳んで、首筋に迫ると、剣を真横に一閃。


 いともたやすく、太く、頑丈な首を両断し、頭がとんで地面に落ちた。


「……」


 倒れた鬼の体が塵となっていく。

 後に残ったのは、金貨が50枚と、何かのインゴットだ。


「……俺は、強いんだ」


 金貨とインゴットを回収して、ヘクターは部屋から出て行った。


 ★


 そのころ。

 王都に存在するとある裏路地にて。


「さてと、定例報告の時間ですね」


 ビラベルは封筒を左手に持って……右手で、何かの石を持っている。


 その石だが、色が、ギデオンたちが壊そうとしていた『ゲート』と同じもの。


「『ミクロゲート』」


 それに何らかのエネルギーを入れると、小さな『穴』が開いた。


 ビラベルが封筒を入れると、穴からは、折りたたまれた便箋と、持ちやすい加工された小さな石が出てきた。


「おや? ……ほう、『三賢精』様からの指令ですか」


 便箋を開いて内容を確認する。


「……この学校最寄りのダンジョンの48層には、裏ボスがいる。そいつを倒して手に入る『インゴット』が、『技術戦』においてメリットになると」


 ビラベルは読み進める。


「インゴットは特殊で、最初に手に入れた人間が『所有権』を持つ。所有者はなぜかそれを手放さない『認識改変』が行われる。この所有権を変更する場合、『所有者を亡き者にする必要がある』か……」


 ビラベルは、便箋と共に出てきた石を見る。


「48層の裏ボスを倒せるとなれば相当な実力者。私では討伐不可能だが、一緒に届いた石に含まれる『精霊力』があれば、『小型だが強い悪霊』を呼ぶためのエネルギーを確保できる。ふむ……」


 頭の中で整理する。


「悪霊もまた、『所有権限がゲート開発部の重役』となっており、悪霊が所有者を亡き者にした後は、その重役が所有者となる。なるほど、一瞬、『手に入れた私が殺されるのか』と思いましたが、そういうわけではないようですね」


 軽く言っているが、もしビラベルが殺される前提なら理不尽すぎである。


「可能な限り早く、回収すること……なるほど」


 ビラベルは手紙を遠慮なく燃やした。


「これで証拠は隠滅。さて、あとは……ヘクター君には、犠牲になってもらいましょうか」


 遠慮も躊躇もない。


 一人の生徒を亡き者にする。

 その選択肢として、ヘクターが選ばれた。


「あとは、どのように、ヘクター君をダンジョンに呼ぶか……私が『ダンジョン奥深くの情報』を持っていることはおかしい。それとなく……いや、難しいですね。私のことを『紋様学の教師』としか思っていないヘクター君はどのようにすれば……」


 紋様学の研究を進めるために必要な物がある。といって、ヘクターに依頼するという方もある。


 しかし、問題もあるのだ。


「問題なのは、今、私とリク君が、情報戦の真っ最中だということ。その間にいるヘクター君が『どんな情報を扱うのか』は、今後に関わる」


 こめかみを指でトントンと叩く。


「どうせ、リク君は私が内通者であるとわかってるはず。まったく、『内通者』という言葉が漏れるとすれば、ウガロガの部下にそんなことをやりそうな悪霊がいたような気もしますが、本当に戦犯ですね……」


 少し、眉間にしわが寄る。


「ヘクター君を、それとなく……かなり言葉を選んで誘導する必要がありますね」


 考え中。


 ★


「ふむ、3時間ほど考えて、練りに練り上げたセリフです。声質の調整も完璧。これで大丈夫でしょう」


 ビラベルは自信に満ちた顔で裏路地から出て、ダンジョンの近くに現れた。


「……おや? ヘクター君」


 ちょうど、ダンジョンのすぐそばで、換金が終わったところのようだ。


「……あ、ビラベル先生」

「ダンジョンの帰りですか?」

「あ、ああ……」

「……ん?」


 ヘクターの制服のポケットが膨らんでいる。


「あの、ヘクター君。それは?」

「これ? ああ、48層だったかな。裏ボスを倒して手に入れたインゴットだよ。いつもなら即、換金するんだけど、なんか、これは持っておこうって思って」

「………………………………………………………………………そうですか」


 内心はお察しである。


「ダンジョンから帰った後は、休養を取ることが重要。基本中の基本です。まぁ、ヘクター君なら釈迦に説法でしょう。しっかり休んでください」

「あ、ああ……それでは」

「ええ」


 ヘクターは歩いて行った。


 見えなくなったあたりで、ビラベルは呟く。


「時間返せやクソガキ」

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