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第23話 ヘクターが見張っているんだが……。

 現状、リクは普通に学校に通っている。


 それができている理由はとても単純で、『指輪』が改造されたためだ。


 指輪が持っているのは、『資金』『威圧』『防御』『解毒』の四つであり、このうち、外敵に対しては『威圧』があれば大体どうにかなる。


 しかし、悪霊相手だと、『威圧』は魔法攻撃判定。

 物理攻撃も魔法攻撃も通用しない悪霊に対して威圧は意味がなく、『特殊な攻撃』を可能とする悪霊にとって、防御は無意味ではないが絶対ではない。

 それはウガロガとの戦いで分かったことだ。


 ではどうするか。

 指輪は、マジックアイテムとしては『宝石部分』がメインのため、『リングの部分』をユグドラシルを加工した物にすれば、『威圧』が通用するのだ。


 敵意を感知する性能もかなり高いため、『これさえあれば、ウガロガが急に出てきても大丈夫』というわけである。


 そんなわけで、リクは『いたって普通に』学校にいる。


「……」


 図書館で本を集めて、ノートにがりがり書いている。


「なぁ、ヘクター。誰かから、俺を監視することを対価に金貨300枚くらい貰ったのか?」

「!?」


 非常にびっくりした様子で、ヘクターが角から顔を出した。


「な、何故分かった。平民の癖に……」

「お前がいたことに対しては、なんか視線があるなと思ったから適当に言った」

「カマをかけただけだと?」

「そういうことだ。で、金貨300枚という具体的な数字に関しては、『罰金をくらうならそれくらいするだろう』ってことは、俺がよくわかってるからな」


 ウガロガを相手して、一度死にかけたからだろうか。


 精神的に何か、成長というよりは変化があったのか。

 ヘクターという、まだ、紛れもなく伯爵家の次男に対し、すごくタメ口である。


「誰からもらったのかの追及はしないけどな」

「そ、そうか……」


 ヘクターはホッとした。


「でも教えてくれたら、来期で必要な書類は全てやってやるって言ったら?」

「ビラベル先生だ」

「まだ確約してないのに口にすんな馬鹿」

「あっ……」

「まぁ予想通りではあったが……はぁ」


 貴族というのは、紛れもなく、確かな権力を持っている。

 それがあるからこそ、ヘクターナイツ時代は恐ろしいと思ったし、それがリクを成長させたのは確かだ。


 しかし、一度、立場と視点を変えてみると、どうにも、脆い。


「……で、俺を監視してて、何かわかったのか?」

「え、あ、いや、本を見ても、俺には内容が……」


 いつものヘクターなら、プライドの問題で、ブチ切れて去って言っただろう。


 だが、『初手』をリクの方から突いた影響か、リクのペースに乗せられている。


「いや、本というか……これ、みてもわからんか?」


 そういって、リクは積まれた五冊のノートを指でトントンと叩く。


「の、ノート? ……いや、特に何も」

「お前……ノートって高級品だからな? 平民でも特待生なら支給されるが、一学期に一冊だぞ。俺は去年、この学校に入学して、今は二年生の一学期。本来なら4冊目のはずなのに、こんなに持ってたらおかしいだろ」

「あっ……え、なんでだ? どこかから買ったのか?」

「一冊、金貨2枚だぞ。一か月の給金が金貨7枚の俺が、ノートなんぞに金貨2枚も使ってたらどうするんだって話だ」


 リク式日本円換算で12万円である。ふざけんじゃねえ。


 というより、購買部で売っているノートに関しては、『あえて工芸品にしつつ、ブランドイメージも高めている』という部分もあるので、それが影響して金貨2枚という、文房具にしてはふざけた金額になっているともいえる。


 要するに、『ノートを使って勉強していることそのもの』がステータスなのだ。

 そういう『時代』なのである。


「え、じゃぁ……」

「俺が木工をやってることは知ってるだろ? 作ったんだよ。紙を、自分で」

「はっ? ……そんなことが……」


 一冊、まっさらのノートを渡した。

 ヘクターはノートを開く。


「……俺が使ってるノートより、綺麗だ」


 厳密に言えば、紙の生産に関しては概念として理解していたが、リクは専門家ではない。

 そのため、『現代日本のノート』と比べると、粗雑な印象がある。

 しかし、この時代で考えれば、破格の質を持つ。


 これを作っている間、リクは『日本の文房具メーカーって頭おかしいだろ』と思っていたが、現代工業と比べたら心が折れるのでそれはやめた。


「そういうのを作れるから、俺は大量の書類を少ないコストで作ってたんだよ。今、クランは紙が足りないだろ」

「……その、通りだ」

「せめてそれくらい察して、ビラベル先生に教えて来いよ」

「……なんで、教えてくれるんだ?」

「二つある。ビラベル先生が欲しい情報ではないからだ。参考にはなるが確信はついてない。っていうのが一つ」

「もう一つは?」

「今、俺たちがやってるのは『情報戦』だ。ただ、お前のスペックが全然足りないんだよ」


 ヘクターは泣いた。


「はぁ、とりあえず今日は帰れ」

「そ、そうする……」


 ヘクターはとぼとぼ、と言った足取りで去っていった。


「……あんなので大丈夫かアイツ」


 伝説に触れて、莫大な金貨を扱い、王女とも交渉し、世界の本質の一端に触れて、悪霊とも対峙した。


 そんなリクにとって、ヘクターはひどく、小さい存在である。


 恨みつらみに関しては、思い出そうと頑張れば思い出せるが、同時にリク自身がそれで成長していたという自覚もあるので、結果的に『どうでもいい』と思える程度になっている。


 そんなリクから見て、ヘクターは、『力不足だよなぁ』と思うのだった。

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