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第20話 整合性があるから大丈夫。は隠す気がないのと一緒

 何かを推理する上で確証バイアスは愚の骨頂である。


 確証バイアスとは、自分がもともと信じている考えや仮説を支持する情報ばかり集めたり重視したりして、反対の情報を無視・過小評価してしまう心理的傾向のことであり、『まぁよくあること』ではある。


 とはいえ、推理マンガを読んでいる分には、言うほど問題はない。

 そういった作品ならば、『作者が、問題編だけの内容で分かるように、物語になるようキャラのセリフを調整しつつ、材料を仕込む』からだ。


 しかし、今、リクが見つけたいのは、そういう『読者への配慮』などという便利な前提のない推理。


 なのだが……。


(び、ビラベル先生の研究室。『魔力干渉を遮断する高級インク』を大量に買ってるじゃねえか。これ、普通なら暗号の作成にしか使わねえだろ)


 学校の事務室にて。

 授業のレポート作成のため、と言って入ったリクは、ビラベルが過去に発注した『備品』のデータを取得した。


 ……ちなみに、いろいろ『手癖の悪い方法』もやっているが、こればかりは他の貴族もよくやっていることである。


 なお、『純粋な正義感』でリクを指摘するなら何も問題はないが、『あの平民が何かよこしまなことをしてる。これは突くチャンスだ』と敵意をにじませながら接触しようとすると、指輪の『敵意感知』にひっかかるので、ちょっと威圧が出るのだ。

 別にリクとしては一線を踏み越えることはないが、扱い方には十分注意が必要な指輪である。


 で、見つかったのは、ビラベルの研究室が、大量の『魔力干渉遮断インク』を発注していることだ。


 ビラベルの担当は『紋様』に関することであり、使うインクは重要だ。


 実験の最中、『記録しようとして普通のインクで紙に書いたら、紋様がそれに反応してしまうため、特殊なインクが必要である』と言い張って、発注することもできるので、一応整合性はある。


 ただし、それにしては量が多すぎるのだ。


 あなた明らかに、暗号文を作って流すのに使ってるよねこれ。と言いたくなるようなレベルだった。


(まぁ、インクとしては確かに高価だけど、上の爵位の人たちは、もっと『クッソ高い物』を学校の予算で発注してるし、『デカいワガママ』が横行してたら『小さいワガママ』は気にもならないということか)


 ちなみに、いろんな数字を見た結果……。


(というか、明らかに備品を水増しして発注、どこかに売り払ってるよなぁ。と思う形跡が結構見つかったんだが……まぁ俺には関係ないか)


 不正ではあるが、『貴族の暗黙の了解』という、平民の直感に反する概念がある。


 端的に言うと、話の振り方をミスったらその場でブラックリスト(殺害候補)に載ることが決定するような、そんな話もあるのだ。


 今のリクであれば突こうと思えば突けるが、切り札はちゃんと取っておくタイプである。

 この世界に脅迫罪はないので、こうしたカードはしっかり握っておくほうがいいのだ。


 別に一線を踏み越えることはないが。


(まぁ、とりあえず必要なのは、ビラベル先生が『内通者』の可能性が非常に高いってことと、『すでにかなりの情報が悪霊側に流れている可能性がある』ってことか)


 大量のインクだが、ではこれをずっと研究室で抱えたままにしておくのか。

 そんなわけがない。

 しっかり情報を紙に記して、悪霊側に提供するためにインクを発注したのだ。


 少ない情報を提供するだけで十分ならば、大量のインクはいらない。


 教師という権限を持つからこそ、大量の情報を仕入れることができる。


 そうして知りえた『大量の情報』を前提に、悪霊たちは動いているのだ。


 ……いや別に、情報があるからと言って、活用できるかどうかが別なのはリクとしても重々承知だが。


(ガチのマジで裏切りまくってるってことか。ただ、脅迫されてる人の雰囲気じゃないんだよなぁ)


 ヘクターナイツで得た場数の影響なのか、リクは『目の前の人物が脅迫されて何かをしているのか』がわかる。


(……俺、一か月に、金貨7枚でヘクターナイツの事務員やってたけど、濃密な現場経験という意味では、価値が凄かったのかもしれんな)


 現場経験を平民に積ませてやってるんだから、給料は安くてもいいよな! とは、ヘクターは言わなかった。


 おそらくその発想がなかったからであり、そもそも平民の給料を知らないのだろう。

 貰っていた『金貨7枚』……リクの肌感覚で、金貨1枚で6万円相当のため、月給42万円くらいとなるが、確かに平民としては多い。


 もちろん、激務の中の激務であり、失敗したら社会的な死が待っているという、なかなかスリル満点の職場なので、そう聞くと月給42万は『ふざけんじゃねえぞテメェ』となるが、それはそれ。


 濃密な現場経験を得られるという意味では、『こういう展開』になった時に役に立つ。


 できないと死が待っていたのだから、そりゃそうだ。


 だからと言って、ヘクターに感謝するかどうかは別問題だが。

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