第2話 黄昏の盟約
黄昏の盟約に所属するリリアから誘われたリクだったが、今日、受け取った書類に関してはリクの仕事であり、クランハウスから持ち出すわけにはいかない。
少しだけ待ってもらって、爆速で仕上げて、リリアについていった。
ついていったというか……。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
「めちゃくちゃ怖いんですけど」
リクとリリアだが、浮いていた。
空を浮いて、そのまま高速道路で走っている車くらいの速度で移動している。
風は制御されているのか、普通に会話できるが、上空50メートルほど……マンションなら約16階の高さだ。
そんな高さまでリリアが魔法で引っ張り上げて、高速道路くらいの速さで移動しているのだから、そりゃ怖い人は普通に怖い。
「大丈夫。かれこれ500年は魔法を使い続けてるから、制御でこまることはない」
「ご、500年って……確か、黄昏の盟約に所属するエルフが、『森血戦争』で『大樹の森』の所有権を守るために戦ったとか……」
「お、歴史の勉強をしっかりしてるね。その通り」
「勉強をしっかりしていたというか……まぁ、そうですね」
リクは、自分の後ろを見る。
そこには、鉄で作られた立方体が付いてきている。
大きさは一辺が5メートルほどでかなり大きい。
「そういえば……俺の自宅においてたいろんなもの、全部この中に詰め込んでますけど、どうやって作ったんですか?」
「それよりも大きな鉄の塊をまず作って、ギデオンが剣で削った」
「パワープレイですね」
「その通り……っと、ついた」
王都を飛び越えて、近くの森の深いところに行って、洋館に到着。
「……ここが、黄昏の盟約のクランハウス」
「その通り」
「そういえば、王都の外壁の関所。完璧に無視してましたけど、あれって大丈夫なんですか?」
「リーダーのギデオンが許可した人間は、あの王都の外壁に関しては関所をくぐる必要はない」
「はぁ……30年前。魔王軍を打倒した英雄ですし、確か六大幹部を全滅させたとか。それで特権が認められていると」
「……ん? ギデオンは時々、『魔王討伐は自分の功績になったけど、幹部討伐は王国側に取られた』って嘆いてたけど」
「公的な文書とか教科書ではそうなってますけど、まぁ、いろいろおかしい点があったので」
「例えば?」
「えーと……端的に言えば……」
リクが考えている。
「王国騎士団は、主に使う武器が槍ですけど、当時、魔王軍の密偵が武器庫を爆破したそうです」
「そうね」
「当然、槍も多くが失われた。その上で、近くにある森の中でも、武器に使えるくらい頑丈な木がある場所は、魔王軍が占拠していたはず。『王国騎士団』が、総力をもって幹部を倒したとされてますが、街道も封鎖されていたし、そもそも武器をまともに用意できるはずがない」
「ふむふむ」
「ただ、実際に幹部は倒されているし、その証拠もある。『平民出身』の、とんでもない実力の男が同時期にいたと考えると、まぁ、あの手この手で、功績を奪われたんだろうと思ったわけです」
「……なるほど。『端的に』という前提なら、確かにそれはそれで納得」
別に当時の状況を全て網羅しているわけではない。
後から、突こうと思えば突ける部分はたくさんあるだろう。
ただ、リリアとしては、『合格』と思ったらしい。
「それじゃ、入ろっか」
リリアが、クランハウスの扉を開ける。
リクも続いた。
質実剛健な印象がある屋敷。といった雰囲気で、そのロビーでは……。
「うむ。お主がリクじゃな。ワシはギデオン。クランマスターだ」
「黄昏の盟約へようこそ、私はヴァルフレア。期待しているよ。リク君」
一目で業物とわかる剣を手入れしている、歴戦の風格を漂わせる老人。
こちらがギデオン。
そしてもう一人、優雅なソファに腰かけ、見たこともない美しい茶器で紅茶を飲んでいる、威厳ある老紳士が、ヴァルフレア。
「あれ? 他の四人は?」
「用事があって屋敷にはいないが、まぁ、そのうち来るだろう」
「ふーん」
リリアは自分で聞いたが、あまり興味が無さそうな雰囲気だ。
「あ、あの、リクと言います。よろしくお願いします」
「あれ、思ったより緊張はしてない?」
「すんごく怖い思いをしながらここに来たので、なんか耐性があります」
「よろしい」
いや、きっと、よろしくはないと思うが。
「さて、リク君。君に、仕事をしてもらいたい」
「はい! 出来ることなら何でもやります!」
「その変な予防線を張る文化。いったい何? ……まあいいけど」
「フフッ、面白い少年だ」
ヴァルフレアは立ち上がると、とある本をリクに見せる。
「単刀直入に言おう。私は、少々『貯金』が多い。そして、最近の王国は、その貯金に『税金』をかけたがっておる。これが、私の資産の簡易目録だ。君の仕事は、これを整理し、あのうるさい徴税官を、合法的に黙らせることだ」
唖然。
ヴァルフレアから渡された、分厚い革張りの本を開いたリクは、その中身を見て絶句する。
【資産項目:金貨 / 数量:丘3つ分】
【資産項目:魔剣 / 数量:約五千本(うち、伝説級三十四本)】
【資産項目:不動産 / 名称:黒き森(王国との所有権係争期間、約八百年)】
……それは、一個人の資産リストなどでは断じてなく、『神話時代の宝物殿の出納帳』だった。
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