表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/40

第19話 推定内通者。紋章学の教師、ビラベル。

 経験による心境の変化というのは、いかなる思想、信条を持っていたとしても訪れるものだ。


 リクは『その場で最適解を導いたなら、その通りに動け』という思想で動いている。

 自分が考えた最適解が、『通らないならもう無理』とあきらめるのではなく、『通すためにどうするか』を考える。


 占いで最適解を片付けられたという経験をしているからだろう。


 悪霊に挑むということすらも、最適解がそうだと思ったから、木刀を振っただけだ。


 それが『大きな経験』であることに間違いはなく、リリアから聞いたことだが、『実際のところ、死にかけていた』らしい。


 ただ、その上で。

 リク自身、何か変化はあったと思うが、どんな変化なのかは自覚していない。


(内通者……か)


 文官コースに所属するリクだが、授業中、リリアから言われていたことを考えていた。


 それを踏まえて、学校に来て、ボーっと見ていて……。


「現代の我々の紋様は、いわば『命令文』です。『炎よ、燃えろ』『風よ、斬れ』と、世界に対して一方的に命令を下すための言語……しかし、古代のこれらの紋様は、どこか違う。これは命令ではなく、『対話』のための言語なのです」


 ……ボーっと見ていて、なんだか授業が面白くない。という結論になる。


 それは、リクが決して、魔法の才能に恵まれていないからだ。


 リクは転生特典と思われる『木工』スキルはすさまじい性能を誇るし、その過程で魔力を効率的に扱っているといわれても納得はする。


 ただし、魔力を動かしている自覚はない。


 他の生徒の魔法実習を見ているときの『リクの肌感覚』として、魔力の操作においては、『スキルは無意識』で、『魔法は意識的』に操作している。と思っている。


 これで、『魔法について知識を深めてワクワクしてください』と言われても、『ふざけんじゃねえ』という話になるだろう。


 もっというと、『大した成功体験は得られないけどワクワクするべきなんです』と押し付けてくる奴がいたら、普通に『こいつブン殴っていいかな』となるだろう。


 紋章についての授業を受けているわけだが、この紋章自体、今使われている魔法と比べると実用性に欠けるため、ほぼ『歴史の授業』のようなものだ。


(まぁ、授業が面白くないのはともかくとして……)


 担当しているのは、ビラベルという男性教師だ。


 年齢は三十代前半。男爵家の次男とのことで、頭が良ければこうした場所で働けるだろうが、もっと上の爵位の家から何人も子供がやってくるこの学校においては、なんの政治力もないという、『よくあるパターンの人』と言える。


(なんか、透けて見えるんだよなぁ。現代の魔法に対する不信感に加えて、『魔法以外のエネルギー』に対する優越感)


 眼鏡をかけた知的な印象のある男であり、可も不可もない。という印象だ。


 学び舎で、下級貴族出身の教師が、高位貴族が決めた授業内容にケチをつけることは許されないので、『ほんの少し、私見というか、思想が入る』という程度なのだが、そこがどうも引っかかる。


(怪しいが、まだ怪しいだけか。単なる『心証』だし)


 状況証拠ですらないただの感想。

 疑惑はともかく、それで『断ずる』などというのは、冤罪の助長に他ならない。


 このビラベルという教師がこれまで何をしてきたのか。

 それを考えるうえで、『証拠』がなければ、何の力も持たない。


 ……いや、権威があればそれに限らないが、そんな切れ味の鈍る使い方をしていると、いずれ後悔するだけだ。


(しかし、内通者がいる。という情報が俺に入っただけで、『怪しい人間に心当たりが出てくる』とは……)


 ビラベルは、現代の魔法において不信感を持っているという思想が少し授業内容に入ってくるが、それだけなら、リクだって何も思わない。


 そして、貴族というのは、発言一つで後で何を言われるかわからない環境なのだから、『思想』の扱いには十分注意するはず。


 ヘクターだって、自慢話はするが、『現代の貴族社会における魔法』に対して特に何かを言うわけではない。


 そんな中、『授業中』という、ある意味、『強制的に自分の話を聞かせる場』で、異なる思想の話をする。


 リクが感じたのは、『貴族社会における異物感』といったものだ。


 そもそもリク自身、ヘクターナイツで事務員をしていたが、平民視点ゆえに、『貴族社会のタブー』はしっかり観察していたし、それができていたから、事務員としてなんとか仕事ができていた。


(……なんだか、俺が今、ビラベル先生に疑惑を向けられること自体、ヘクターが俺をクランに突っ込んで経験を積んだから。みたいに思えてきたな。ちょっと複雑)


 実際に誰なのかはともかく、いるとわかっている内通者というのは、リクとしても思うところはある。


 ただ、『いるとわかっている』という情報を持ったうえで、『誰なのか目星をつけられる』というのは、全く別の経験が必要になる。


 推理マンガで、解答編が始まるまでに犯人が誰なのか、推理できる読者というのはそう多くはない。

 実際、解答編を見て、犯行を確認し、『んなもんわかるか!』となるのがよくあることだ。


 それが『わかる』というのは、それ相応の直感が必要で、その直感は、普段から何かを察する経験を積むことで鍛えられる。


(……人生、何が役立つかわからんな)


 内通者よりも、自分の経験に対して思うところがあるリクであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ