第15話 クランハウスで若木を発見。木刀製作。
「ただいまー……あれ? 誰もいないのか」
エレノアと話して、クランハウスに帰ってきたリク。
ロビーには誰もおらず、返事も何もないため、どうやら誰もいない様子。
「まだ倉庫にはいろんなものがあるのに、大丈夫なのか……ん?」
テーブルに書置きがある。
「屋敷を防衛するためのアイテムと、何かあれば緊急招集を飛ばすアイテムがあるから問題ない……まぁ、不用心なわけがないか」
リクが持つ破格のスペックの指輪の存在を考えるならば、『大型の据え置きアイテム』がすさまじい性能を持っていても不思議ではない。
そうしたアイテムの中から必要な物を選んでいるならば、リクには扱えない次元の話だ。
「……仕事、ないな。道具の整理でもやるか」
今まで、とにもかくにも、書類を整理し続けるばかりだった。
時間ができたのだから、たまには整理整頓でもやっておこう。
そんなことを考えつつ、リクは自室に入って、ヘクターナイツで使ってきた道具に触れる。
「……いろんなものを作ってきたけど、事務に関わらないアイテムは、これから必要じゃなくなるかもしれない」
ポーションづくりを補助する物。武器の研磨を簡単にするもの。
他にも、本来なら専門の職人が時間をかけてやることを、簡単にする道具がいくつもある。
しかし、戦うことにおいて、黄昏の盟約は強すぎる。
自身の武器に関しては、それぞれがやった方が、手入れが一番できるだろう。
紛れもない事実であり、そして、ヴァルフレアたちが、リクに事務能力以外を求めずに誘ったという証明にもなる。
「……引きずっても仕方ないし、素直に『お疲れさん』って言っとくか」
市場に売ってしまうという選択肢はあるだろう。
ヘクターナイツにもっていけば、大金を積んでくるかもしれない。
しかし、これが解析され、普及すれば、それはそれで『既得権益』の仕事を奪うことになり、真正面からケンカを売ることに等しい。
便利な道具が開発された時というのは、どんな世界、どんな時代であっても、『社会』は似たような反応をするものだ。
そうなったとき、開発者であるリクにどんな言葉が来るのか。
想像に難くないが、問題なのは、リクがそれに耐えられるかどうか。
……耐えられないと思ったなら、出すのは、『最適解』ではない。
そもそも、社会貢献のために作ったわけではない。
作らないと命にかかわるから作っただけ。
「さてと、まぁ、自室にずっと置いてても仕方ないし、倉庫の一角でもちょっと借りるか、まぁ、伝説レベルのファンタジーアイテムがゴロゴロ並んでる中で、こんな『機械』が置かれるのも場違いかもしれんが、気にしないでしょ。多分」
……ちなみにリクとしては。
ヴァルフレアが言っていたこととして、メンバーの中に『古代兵器』がいるとのことだったが、『倉庫に機械らしきものは一切ない』ので、『一体どんな兵器なんだ?』とは思うが。
思うが、どうでもいい話でもある。
「んー……ん? なんだこれ」
棚を探っていると、奥から、布に包まれた長いものを発見。
手に取って布を開くと、一本の枝を発見した。
「……なんだろう。すごく、質の良い木材だな。ただ、どうするかな」
すでに、『マルモン子爵をたたき出すための書類』を仕上げたばかり。
言い換えれば、『既に文官として必要な道具はそろっている』ともいえる。
そして、『必要な物が何なのか』を考えてこれまで木工スキルを使ってきたゆえに、『作りたいものは何なのか』と考えても、パッと思いつかない。
「……うーん。木刀でも作るか。剣を作れるほど幅はないし」
王立学校は、貴族にとって必要なことを学ぶ場所。
当然、『剣を使った実習』はあり、木の剣を使っていた。
ただ、実際に刃がついた剣を扱う時は、少々、腰が引ける。
そこは、日本人としての感性が残っているからだろうか。
リクとしては、『人は環境でいくらでも変わる』と思っているので、この世界で十七年も生きていれば、刃物をふるうことに関しても耐性があると思っていた。
もちろん、包丁を使えないわけではないし、武器の研磨はさんざんやっていたので、『扱えないわけではない』のだが。
ただ、実習で腰が引けたことを考えると、『すんなり変わるものではない』ともいえるので、それは単に、『リクがそういう人間である』というだけである。
「さて、早速取り掛かるか」
木製とはいえ、本物の刃物を作らないのはリクの特性であるとして。
木剣で実習を受けているのに、作ろうとしているのが『木刀』というのは……リクが『刀』に憧れでもあるのだろうか。
この異世界で、過去を振り返る間もないほどの激務に追われていたリクだが、前世はあれど、やはり十七歳ということなのだろう。
「うーん……頑丈な木材だな。持っている道具は安物だけど使い慣れたものだし、そもそも道具の性能は転生特典の『木工スキル』でブーストできるし、まぁ大丈夫だろう」
早速取り掛かる。
彼は木材で、箱や歯車など、機械に必要な物は数多く作っているが、『木刀』を作ったことはない。
しかし、『木刀とはこういうもの』というイメージさえしっかりあれば、高性能な木工スキルはそれを実現できる。
そもそも『才能』とは、物質的に考えれば、『頭で考えたことを実行できる神経』のこと。
難しいスポーツの技でも、才能があれば『みただけで出来る』というのは、そういうものだ。
「……出来た」
道具の性能がブーストされているなら、枝を木刀に加工することそのものは、体積の変化具合から考えてもそう時間はかからない。
元の木材の質がいいからか、芸術品を思わせる見た目になっている。
……と、思った時だった。
「っ!」
部屋の外で、爆発音が聞こえた。
部屋が揺れ、近くの机をつかんでなんとか立つ。
揺れが収まると、木刀を手に、私室を飛び出した。
そこにいたのは……。
「さーて、陽動作戦は上手くいったようだ。拠点に保管しているはずの『欠片』を全て奪い、本人が持っている欠片を隙を突いて破壊すれば、ゲートの破壊すらできなくなる。完璧な作戦だ」
何人もの、『人型の異形』がそこにいた。
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