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第14話 リクとエレノア

 王立学校は貴族が必要なことを学ぶために建設された学校だが、そんな学校に平民枠で入ったリクは、文官コースの生徒の中でもかなり好成績だ。


 そもそも好成績だからこそヘクターからクランに入れられたわけだ。

 で、好成績だから、黄昏の盟約からスカウトがあったわけだが、それはそれ。


 ただし……休日の間、ヘクターナイツの惨状が校舎にも届いている。

 いつもなら、メンバーのほとんどがリクに仕事を押し付けて、好き勝手に遊んでいるわけだ。


 それを、他の生徒たちは『仕事をしながらも遊んでいるのだ』としていたため、ヘクターナイツは尋常ではない評価を受けていたが、実際はそんなものである。


(……空気が変わったな)


 貴族が上。平民が下。


 それがこの国の常識だ。


 そんな中で、平民のリクが、筆記試験で確かな好成績を出すというのは、疎まれるもの。


 ……もちろん、この学校には、記録上、『リクよりも筆記試験の成績が良い貴族の子供』は『たくさん』いる。


 しかし、テストなど、『本当の実力』など、貴族にとってはどうでもいいこと。

 権威と人脈と資金力。それに伴う影響力が重要なのであって、成績など『買える』のだ。

 しかも、『優遇しなければならない特定の生徒よりもリクの成績が良くなる』となった場合、難癖をつけて減点するのだ。


 この王国よりも社会が成熟した現代日本であっても、不正というのは噂が絶えず、それが露見した時も、『そんなことが起こるはずがない』とはならず、『ああ、よくある不正が発覚したのか』という感覚になる。


 それが、貴族の権威がものをいうこの国で、不正が起こらないわけがない。


 しかし、大人であれば『本物というのはたどり着くのではなく利用する物』と割り切れるものも多いだろうが、子供はそこまで器用ではない。


 リクに対して、疎ましいと思うものは多いのだ。


 今までは、ヘクターナイツで、事務を年中無休でやっていることがわかっていたから、『有能だから使い潰される』という現状を目にして悦に浸っていた。


 脱退した今は、解放された顔つきで授業を受けて、たまに図書館で調べ物をしている。


 そんな彼らに、思うように突っかかることも出来ない。


 指輪だ。


 リクがヴァルフレアから『報酬』として受け取った指輪には、『資金』『威圧』『障壁』『解毒』の機能が備わっている。


 そのうちの一つの『威圧』が関係している。


 これは『外敵』に対して発動するため、『少しちょっかいをかけてやろう』という『薄い動機』の敵に対しては『薄い威圧』が発動する。


 ただ、薄い威圧と言っても、それは『ヴァルフレア目線』の話。

 何かしら、人間社会に対して配慮している様子のヴァルフレアたちは、人間の脆さをある程度理解している。


 のだが、それでも『ある程度』であり、『薄い威圧』であっても、反撃に対して免疫のない生徒は思わず小便が出るのだ。


「なんというか、友達はできなさそうね」

「それを言われたらおしまいですね」


 放課後。リクは生徒会室に呼ばれていた。

 この学校の生徒会長にして、第二王女であるエレノアが、生徒会役員を通じて彼を呼んだわけである。


「……そういえば、今日は生徒会室に人が多いですね」


 会長であるエレノアが生徒会としての書類をまとめているが、部屋にはそれ相応の人数が役目をこなしている。


「前にあなたが交渉に来たときは、私一人だけで対応したから、全員退出させたのよ」

「それは……刺激が強すぎるからですか?」

「刺激が強い話題になるとわかっていて持ってきてたの?」

「それはそうですが、俺にどうにかできる話でもないので」

「……そういうことにしておくわ」


 エレノアはため息をついた。


「とはいえ、理由は二つあるわ。もう一つは、生徒会に所属する『既得権益派閥』を入れないため」

「アイゼン伯爵の勢力ですか」

「そのまま報告されて、あれこれ理由をつけて取られたらたまったもんじゃないわ」

「ああいう人たちって、王女が相手でも遠慮とかないんですか?」

「人によって変えるだけよ」

「そうですか……」


 それはエレノアが舐められているのではないか? と思ったリクだが、口には出さなかった。

 どうでもいい話なので。


「……あなた、今、どうでもいいと思った?」

「なんでわかったんですか?」

「あなたはあまり表情が動かないけど、見ていればわかるわ。法律という、成文化されたものに対しては理論的に戦えるあなたも、『対面での駆け引き』の経験はほぼないのでは?」

「……ありませんね」


 そもそも貴族の権威という、論理的な立ち向かい方が全くできないのが、ヘクターナイツにいた時のリク目線の認識だ。


 ヘクターを論破しようものなら、どんな罰が待っているかわからないのだから、駆け引きもなにもあったものではない。


「本題に入るけど、あなたが持ってきた情報、おおよそ見せてもらったわ。とんでもない金と、武力と、功績があるけれど、あなたは、私がどのように運用するべきだと思っているのかしら」

「……思うがままにすればいい。としか言えません」


 エレノアの頬がぴくっと動いた。


「……どういう意味かしら」

「言葉通りです。俺から何かを言われて決めるようなものではありません。『執着はないが適切に動かす必要があるものを、こちらは適切に動かした』……その結果が今の、エレノア様が持つ財産です」

「……」

「黄昏の盟約は、『お金稼ぎ』や『アイテム集め』に精を出していたわけではありません。そうでないにもかかわらず、集まったのが『今の財産』です」

「それは、わかるけれど……」

「では、好きなように。クランのメンバーが適切に動かすべきだと思ったものに関しては、俺の裁量に任されています。その上で言いますと……エレノア様『程度』が遠慮してどうにかなるような相手ではありませんよ」

「はっきり言うわね」

「駆け引きの経験はありませんが、それでも問題なさそうなので」

「……確かに、私があなたに敵意を向けることはないわ」


 チラッと、エレノアの視線がリクの指輪に向けられる。


 絶対強者であるヴァルフレアが用意した、『大切な人材』であるリクに持たせるアイテム。


 その力は、エレノアからみても絶大だ。


 というより……莫大な量の魔剣がエレノアの所有物になったが、それらすべての力を合わせても、この指輪一つに及ばないだろう。


 エレノアからすれば、『魔剣』という絶大な力を手に入れて、視点が上がったところに、さらなる『劇薬』を目にしたに等しい。


「……なら、好き勝手させてもらうわ。ただ、一つ聞いていいかしら」

「なんでしょう」

「なんであなたは、そんな平然としているの?」

「失敗を自覚していないからです」

「!」

「どれだけ愚かな事であろうと、それを失敗と思わないなら、不安になりません。マルモン子爵があれこれ理由をつけて『黄昏の盟約』に課税していましたが、それを、戦闘力がないマルモン子爵が平然とやっていたのは、失敗を自覚していないからだった。それと同じです」

「……」

「もっといい方法があったでしょう。マルモン子爵も、今の俺もそうです。ただ、『最適解』というのは、自分の能力とその場で持てる視点。周囲の状況によって決まります。あとからそれに対する批評は好きにすればいいですが、『その場でやっていたこと』が失敗だったと、俺は思いません。だから平然としてるだけです」

「なら……黄昏の盟約で失敗したら、あなたはどう思うのかしら」

「そんなのわかるわけがありません」


 エレノアの表情が、少し、動いた。


「わかるわけないんですよ。未来のことなんてね」


 なんてことはない。ただの経験則。


 リクの言葉は、そう捉えて当然だ。


 ただ、エレノアからは……。


 何か、強固な、哲学を感じた。

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