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第13話 休み明けの学校。ヘクターの『命令』を拒否

 リクは学校において平民枠の特待生である。


 それそのものはエレノアが『黄昏の盟約に必要な人材が入ってくるかもしれない』という想定によって生まれた制度だが、とにもかくにも、入学したからには卒業まで学校に通うつもりだ。


 退学も休学もするつもりはない。

 特待生という扱いだが、これは『本来なら貴族、または多額の入学金を払える大商会の子供しか通えない』ところに、『少ない入学金で通う権利を特別に与える』という意味で、筆記試験も合格して入学した。


 ただ、学校に入って分かったのは、『平民枠のために貴族の受け入れる数を減らしている』ことだった。


 大貴族はテストがボロボロだろうが、親の力で入れる。

 貴族ではあるが大きな影響力がない、資金面はともかくとして、勉強はしっかりやってテストに臨む下位の貴族の子供が、『減らされる貴族枠』の対象になる。


 それを知った段階で、リクの中に『押しのけて入った』という自覚があるため、その分の義理は果たすという認識だ。


 すでに、エレノアの目論見通り、黄昏の盟約はリクを見出し、そしてリク自身、自分が今の時点でも、ヴァルフレアたちが望むレベルの頭脳を持っていることは自覚しているが、学校の通わないという選択肢はない。


 というわけで……。


「こんな指輪一つで、俺の身を完全に守れるって、どういうことなんだろうか」


 右手の中指にはめた、竜の紋章が刻まれた小さな宝石がある指輪。


 ヴァルフレアからもらったもので、

『特別な金庫とつながっており、硬貨を転送できる』機能。

『外敵が現れた時に、竜の威圧でビビらせる』機能

『竜の鱗の力で、大抵の攻撃を無力化する』機能。

『竜の免疫機能で、大抵の毒を中和する』機能。


 などなど、いろいろあるらしい。

 まさに伝説級のアイテムと言える。


「……こんな、破格のスペックがあるアイテムがあるのに、納税をするためのアイテムがないって言うのが、ファンタジーだよなぁ」


 妙な気分になりながら、リクは学校の門を通って敷地に入り……。


「……いつもと感覚が違うな。それに……やばいことになってそうだ」


 少しの期間で扱っていた金額が大きすぎて、正直、意識の隅の方に置いていたが、試しに行ってみることにした。


「どうなってるのかねぇ……」


 歩く先は、ヘクターナイツのクランハウス。

 リクが事務作業をしていた場所であり、そして、引継ぎもなしに、リリアの権威を借りて即日で辞めた場所だ。


「……お、おい、そこにいるのはリクか」


 ちょうど、建物の扉から、ヘクターが出てきた。

 制服の袖にインクの染みらしきものはない。

 ただし……ひどく消耗している。


 手には書類の束を持っており……。


「お、おい! リク! これをやれ! 今すぐにだ!」


 そのまま、持っている書類を突き付けてきた。


 それを聞きつけたのだろう。飛び出す元気がある者は、書類をもって、リクに書類を突き付けてくる。


「お前が抜けたせいで、僕たちは週末も休めなかったんだ! 責任を取れ!」

「金なら払う。今までの倍でもいい! だから、さっさとやれ!」


 それは命令であり、リクならやってくれると思っているのだろう。

 それに対して、リクは、気分が凄く、冷めた気がした。


 そもそも、リクの脱退届にサインをしたのは、目の前にいるヘクターなのだから。

 それがたとえ、リリアの権威と威圧にビビったからだとしても。


「お断りします。僕はもう、あなた方のパーティーのメンバーではありませんから」

「ふざけるな!お前には、我々を支える義務がある!」

「義務、ですか……いいえ、ヘクターさん。あなた方には、僕の助けは必要ありません」


 リクは自分の声が冷たくなるのを感じたが、気にせず続ける。


「あなた方は、今、とても苦しいでしょう。ですが、本当に絶望はしていないはずだ。このままパーティーの財政が破綻し、クランは解散通告が来るかもしれない。多額の罰金も発生するでしょう。それであなた方は、どうなりますか?」


 リクの中で、自分と彼らは、大きく違うのだ。


「答えは簡単だ。『お父様、お母様に泣きついて、助けてもらう』。そうでしょう?」


 それが、平民と貴族の違い。


「あなた方の親御さんたちが、家の名誉のために、罰金を払い、教師に頭を下げ、今回の失敗などなかったことにしてくれる。あなた方には、何の咎めもない」


 リクは、そこで一度言葉を切り、自分の胸を指さす。


「でも、僕は違った。僕がいた頃、もし一度でも大きな失敗をすれば、誰も僕を守ってはくれなかったでしょう。僕は、退学になり、この王都で二度と浮かび上がれなかった。しかも、『貴族のクランで失態を犯した』というオマケつき」


 声に少し、怒りが混ざる。


「でも、その『オマケ』は、この王国の社会で、最も大きな意味を持っている。貴族が社会のルールを決めるこの国で、そんな失態を犯したという刺青(いれずみ)は、二度と消えることはないんです」


 リクは思うのだ。

 まだまだ、彼らは、甘やかされていると。


「僕にとって、失敗は『死』を意味していた。あなた方とは、背負っている『覚悟』の重みが違うんです……僕に、あなた方の『親子喧嘩』の後始末を手伝う義理はありません。どうぞ、お父様たちに泣きついてください」


 リクは、ヘクターたちに、『リクの立場をしっかり想像しろ』とは言わない。

 そんな想像力を持っていると思っていない。


 だが、『想像力を求めない』ということは、『双方の理解を求めない』ということでもある。


 それは確かな決別であり、今のままで、リクが、ヘクターを助けることはない。


 リクは、茫然とする彼らに背を向け、静かにその場を去っていった。


 そして……リクの背中を、誰一人、追いかける者はいなかった。

 それが、答えだった。

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