第12話 一方、リリアとギデオンは『仕事中』
まだまだ、人類は世界を開拓しきってはいない。
岩肌の洞窟の、かなり深いところ。
巨大な『建造物』が実際に建築中であり……ギデオンとリリアは、それぞれ剣と弓を構えて、やってきた。
「思ったより、クランハウスに近いところに拠点を持っておるな」
「……まぁ、近いといっても、4000キロはあるけどね」
「あれ、どんなに遠かったか?」
「距離ボケは気を付けた方がいい。戦闘でも勘が鈍る」
「さすがに敵との距離を間違えるほど衰えてはおらんよ」
軽口をたたきあう二人だが、持っている装備は、とてもきらびやかなものだ。
そんな二人の視線の先では、とある構造物を今も作っており、多くの、『人型の異形』が資材を作っている。
「……さて、そろそろ、巣を叩くとするか」
「そうね。あまり無駄口をたたいても仕方ないし」
というわけで。
まだまだ構造物まで距離はあるが、ギデオンは剣を振りかぶり、リリアは弓を引き絞る。
そして、剣が振り下ろされ、弓矢が放たれた。
ギデオンの剣から、斬撃の形に固まった魔力の塊が出て、リリアの弓から、とてつもない圧力をまとった矢が飛ぶ。
「……っ! おい、防御だ!」
異形の存在たちが気が付いた。
すると、攻撃の傍にいた二人の異形が、身を乗り出して、攻撃の前に立つ。
正直に言って、鋼鉄の砦を粉砕できるレベルの攻撃だが……。
「うおっ」
「おっとっと」
直撃したにもかかわらず、衝撃によるノックバックはあるようだが、その体に一切のダメージはない。
「フハハハハハ! 我々『悪霊』に、物理攻撃も魔法攻撃も通用しない。お前たちがどんな攻撃をしようと、何の意味もないのだ!」
指揮官だろうか。
体の大きな個体が吠える。
そして、その言葉は事実なのだろう。
ギデオンとリリアは『聞きなれたセリフ』でも耳に入ったような顔になり、建造物に近づく。
「確かに、おぬしらに攻撃は通用しない。が、精霊世界に定期的に戻らなければ、存在を保つことは不可能じゃ」
「世界のどこかにあるという次元の裂け目。そこからお前たちはこっちに入ってくる。でも、それだけだと小さいから、『人工的な裂け目』である『ゲート』の発生装置を作る。それが、今お前たちが作っている物」
「そうだ! そしてこの建造物も、俺たちの体と同じように……」
「攻撃は通じない……が、『悪霊本体ほどではない』のだろう?」
ギデオンが、何かの木片を剣に触れさせる。
その状態でゲート装置に向かって剣を構えた。
「……それは、ユグドラシルの木片……おい! 守れ!」
「遅い」
群がる悪霊たちを剣の一振りで全て吹き飛ばすと、ゲート装置に向かって一閃。
再び斬撃がとんで、装置に当たる。
……少し、傷がついた。
ただ、装置に当たらなかった分の斬撃が、そのまま後ろに跳んで、岩肌に激突。
「あっ」
次の瞬間、尋常ではない音と衝撃が発生。
単純で果てしない『破壊力』が岩の壁に発生し……。
「ギデオン、やりすぎ」
数千トンの爆薬を放り込んだような破壊の痕が、岩の壁につけられた。
「チッ、やっぱり『木片』だと、全然『接続』が成り立たんのう。あの攻撃で、ゲート装置にわずかに傷をつけるだけとは……」
「仕方がない。まだ、ユグドラシルを加工する方法はない。落ちてきた木片で対抗できるだけマシ」
リリアは弓に木片を触れさせた後、引き絞る。
「な、なんなんだお前たちは!」
「黄昏の盟約所属。エルフのリリア」
「リリアだと? まさか、500年前の……」
「悪霊も思ったより物知りじゃなぁ。あ、ワシはギデオン、こう見えて普通の人間で……」
「チッ、そっちは30年前の、魔王軍を潰したやつか。この火力も納得だ……」
思ったより歴史を勉強している個体がいるようで、かなりスラスラ答えている。
「しっかし、接続の力が弱いと、あの威力の攻撃でも通用せんな……リク君は木工が優れておるが、ユグドラシルの加工はできるかのう?」
「わからない。あれほど細かく加工できる彼でも無理なら、私たちは、いつまでもモグラ叩きを続けることになる」
「25年もモグラたたきをしておるから、別にそれが長くなったところで、とは思うがのう」
「それを3000年もやってるヴァルフレアに言える?」
「今のはナシじゃ」
超火力を産むために、装備は本気だろう。
しかし、戦いの技術において、この場にいる悪霊では、リリアとギデオンには遠く及ばない。
ただ、彼らが持っているのは、ユグドラシルの木片という『僅かな接続』だ。
ただ傷をつけるだけでも、『超火力』がなければできない。
「……チッ、木片とはいえ、そこまでユグドラシルが言うことを聞くとは……どうやら『人間の邪魔』はしていないらしいなぁ」
「『慈悲の大樹』は人間を依怙贔屓するからのう。人間が決めたルールに従わないと機嫌を損ねるし、そうなると、この木片を使うことも出来ん。まったく、唯一の有効打になりうるのに、ここまで癖が強いとは」
「愚痴を言っても仕方がない。とにかく、攻撃しまくる」
「そうじゃな。というわけで、遠慮なく壊すから、『強制帰還』の精霊術の準備くらいはしておくようにな」
遠慮も躊躇もない。
悪霊の『目的』は不明。
ただ、この世界に侵食しているのは事実。
ギデオンたちがどこまで知っているのかも不明。
ただ、悪霊たちの拠点を、モグラたたきのように潰すのみ。
二人が発見した『ゲート装置』は、数時間の『災害』の末に、破壊された。




