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第9話 追放の理由(それはあかんって)




 ユーウェと俺の育ったアモルフィ王国と、隣の国フェンウィーナ王国には死の森と呼ばれる広大な森が横たわっている。

 とはいえ、この森が致死性の毒をばらまいているとか、一度入ったら出られないとか、奇妙な変な言い伝えがある場所ではない。

 ただ、むかーし昔、どっかの変人が「ここは俺の土地だ!」とか主張して、二つの国にケンカを売って占拠したと言われているだけだ。あ、これは十分に変な言い伝えって言えるかも?


 とりあえず、その変人は魔法がやたらめったら強くて、森全体に魔力を惑わす罠をしかけたり、魔法を使って変な実験をして生み出した生物を放って人を追っ払ったりしたんだとか。

 だからその変人が死んだ後も、残ってるっぽい罠や動物を怖れ、森に立ち入ろうとする人はほぼいなくなったんだって。


 そんな話をユーウェから聞きつつ、馬を数日前に見つけた湖の方角へと進める。

 昨日木の上から確認した感じでは、もうそろそろ湖が見えてくるはずだ。

 空高く飛ぶ黒い大きな鳥を眺め、はたから見たら長閑な風景にため息を飲み込む。


「その変人、迷惑だけどその人のおかげで追手を撒くのができたのは良かったのかな」

「……そうね」


 おやや? 返事の声の高さがちょっと低い? いや、そんな声の高さまで聞き分けているなんてキモイとか思われるかもしれないけど。

 ちょっと待て。俺はただ、ユーウェなら「そうだね!」って明るく同意するのを期待していただけ……いや、何を期待しているんだ、俺。違う、違うんだ。俺、ヘンタイさんじゃない。


「あー、どうかした? 心配ごとでもある?」


 ここは脳内で墓穴を掘って脳みそぶちまける前に、率直に訪ねてみるのがいいのだ。

 気づかないうちに怒らせて、奥さんに「何か怒ってる?」みたいなこと聞いちゃって、「怒ってない!」って怒られる旦那を裏路地で見たし。旦那が目の周りに痣を作って、猫に愚痴っているのも聞いちゃったし。その後に強烈な猫パンチくらってさらに顔に傷を増やしてたし。

 些細なすれ違いが悲劇を生むんだ。俺は知っている。


「あの、ね。私が使った魔法陣、あるでしょ?」

「うん、俺の命を助けてくれたやつ」

「あの魔法陣を作る元になったのが、この死の森に引きこもった魔法使いの残した本なの」

「え? そんな本があるの?」


 死の森ができてからもう世代が五回くらい入れ替わってる。

 そんなにも昔の本が残っていたのかとか、たぶん残っていたとしても見ちゃいけない代物なんじゃないかとか、頭の中でグルグル回る。


「……教会の中に、魔法陣が使われている場所があったから」


 魔法陣は魔法とは発動の仕方が違う。

 魔法はそれを使う本人の魔力を基にする。

 魔法陣は組み上げた陣と魔力を持つ供物、構成した陣を読み上げることで発動させる。


「教会では、罪人から無理矢理魔力を引き出して、魔法具に込めることをしてた」

「……その、罪人はどうなる?」

「魔力量が多ければ、生き延びれる。少ないと自我を失ったり、最悪死んでしまう」

「……そっか」


 生命力を引き出した後、兵士二人と馬二頭は跡形もなく消えていた。

 ユーウェの話から考えると、魔法陣発動には兵士の魔力が使われたのだろう。だって馬は魔力ないし。

 ってことは、だ。今俺が生きている体の中にある生命力はオットーじぃとホリーばぁってことか。安心安心、超安心。あー、すっきり。


「その魔法陣の理論を作ったのが、この死の森に引きこもった魔法使いだって」

「そっかぁ」


 うーん……なんて相槌を打てばいいのか。

 俺がこの通りピンピン元気に生きていられるのは、ユーウェが魔法陣を使いこなせたわけで。

 んで、魔法陣を作ったのが死の森の変人ということで。


「あ、んんん……ん? えっと、ごめん。根本的なこと、聞いてなかったかも。教会で魔法陣を教えてもらったわけじゃないんだよね? 本があってユーウェが自分で勉強したの?」

「あ、えっと、それは、」


 あ、これ、聞いたらあかんやつ?

 馬に乗ってるから顔は見えないけど、なんとなくユーウェの目が泳いでいるのが見えるぞ。分かっちゃうもんね、僕! ……うん、キモイ。やめよう。


「その、どうしても魔法陣が気になって、聖女とか王族にしか入れない書庫を調べていったら、古書の中に死の森の魔法使いの書が紛れてて」


 聖女であるユーウェの力が必要とされるような天候不順や不作、災害などはここ数年なく、参加が必要な儀式以外は暇で暇で、古書を一通り読み漁った中で見つけた。

 それで知識欲と好奇心から読んで、さらに魔法陣を習得してしまったと。


「私、魔力量が国で一番多いと言われて、魔法は誰よりも優れていると思ってた。でも、魔法じゃない、全く新しい考え方の魔法陣に惹かれて……まさかそれが禁忌とされている学術だとは知らなくて」

「禁忌? え? 勉強しちゃダメってこと?」

「そう、だったみたい。それで聖女の権利とかを全てはく奪されて……」


 その結果、王都から追放された上に命を狙われたと。


「処分しとけよ、王族……」


 思わず晴れた空を仰ぎ見る。

 いったい何があったらあの綺麗で、まっすぐで、聖典をそらんじるほどの知識を持った完璧聖女が罪に問われることになったのかと思えば。

 禁忌の学術となった理由は、魔法陣は魔力が少なくても供物があれば発動できてしまうということ。

 自身の力を使わず、誰か魔力がある人間をさらってきて、魔法陣を正しく読み上げればよいのだから。


「つまり、魔力を持たない魔抜けでも?」

「そう。もともと私が魔力を持たない人を擁護したことに加えて、そういった人たちでも使えてしまう魔方陣を解読したことで罪が重くなっちゃった」

「そっか。なんか、ごめんね?」

「え? ヴェインが謝る必要なんてどこにもないよ!?」


 うん、でもなんか謝りたくなったんだ。

 本当なら、よく頑張ったね、イイコだ! ってユーウェの頭を首がもげそうになるくらいグーリグリグーリグリグリグリグリグリーってしたいけど、そんなことしたら嫌われるから、ぎゅっと両手で強く手綱を握っておく。

 理性に翼を! あ、違う、逆だ。羽ばたいて飛んでくな、俺の理性ぃ!


「あ! ヴェイン! あそこ! 湖が見える!」


 それまでの真剣な口調とは打って変わって、ユーウェは突然明るい声で前方を指さした。

 つられて顔を上げれば、木々の隙間から煌めく湖のほんのちょーーーーっと欠片が見えた。

 駆け足で進めば昼過ぎには着くだろうけど……。


「ね、ね、魚、いるかな!?」

「それは眺めて綺麗な魚じゃなくて、食べるほうで?」

「うん!」


 いいお返事。かっわいいなぁ。

 仕方がない。ここはちょっと急ぎましょうかね。今日の夕飯のメニューを豪華にするためにも。


「ユーウェ、枝とかが体に当たらないように気を付けて」

「え?」

「少しだけ、スピード上げるから」


 そう注意してからトンッと軽く馬に合図をして、歩を速める。

 湖に着いたら今日の移動は終わりになりそうだから、多少負荷がかかっても明日以降の移動に影響は出ないだろう。

 もしかしたら数日湖周辺で過ごすことになるかもしれないし。もし食べられる魚がすぐ見つかったらその可能性はある。湖をぐるっと回りながら進むのもいいかも。

 湖面の煌めきが広がる視界に、俺はそんな皮算用をしていた。





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