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聖女を森に捨てるだけの簡単なお仕事です。  作者: BPUG
第五章 聖女の目覚め
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第58話 探し場所(あやしい)



「これ、どこの鍵だろう……」


 仮で与えられた部屋のベッドに寝っ転がって、手にした鍵をくるりくるりと回す。

 これは、森の屋敷にある変人魔法使いの書斎で見つけた鍵。

 複雑じゃないし、装飾もない。カメリアとかだったら、チョチョイッと開けられそうな感じ。ほら、変態だからね。

 一緒にあった手紙はもう読んだ。手帳は中身を確認して、一旦俺のところで保管している。内容は魔法陣研究の進捗やメモがほとんどで、ところどころに変人魔法使いとマーサ、あの当時の屋敷の使用人のことが書かれている。

 期待していたほど、重要な事は残されていなかった。

 だから別にユーウェに渡して、読んでもらってもいいんだけどさ……ちょっと恥ずかしいんだよね。

 分かる? この気持ち。

 自分の書いた日記って誰かに見せるものじゃないじゃない? 厳密には俺じゃないんだけど、俺の記憶の素っていうかさ、前の人格みたいな人の日記なんだよ? は、恥ずかしいんだって!

 俺には親とかいないけど、親のラブレター見つけたらこんな感じ? ……なんか微妙に違うけど、気まずいのは分かってくれるはず。


 んで、話を戻すけど、鍵ですよ、鍵。

 日記を見ても、この鍵がどこのものだったのか思い出せない。

 森の屋敷の玄関に鍵はなかったし、屋敷の部屋は全て開くことは確認済み。目につく場所にある戸棚も鍵がかかってなかった。これは俺だけじゃなくって、応援に来ていたギルド員総出で確かめたから間違いない。

 そうなると、だ。


「魔法使いが王都に住んでいた屋敷? そんな場所、残ってないよな?」


 思い出そうとすると、グチャグチャな感情が込み上げる。

 王都の屋敷、そこはあの子が傷を受けた場所。自分の驕りがマーサを、大切な彼女を傷つけた場所。

 それがどこにあるのか、資料に残っているのだろうか。

 それを探すのも大変だし、資料を見つけたとしても屋敷が現存する可能性は低い。

 記憶にも、手帳にも記録がない。


 いったいどこ!?

 こんな謎、残さないでほしいな!? 残すんなら、ちゃんと説明も残して欲しい!!

 それとも、魔法使い以外の誰かが残した物、とか?

 でも魔法使い以外にあの部屋に入りそうな人は……使用人とか?でも鍵がかかっている場所だし、違うよなぁ。

 んー、とりあえず教会と王宮の調査で怪しい場所があったらって感じかな。


 ――コンコン


 廊下側から誰かの潜めた足音のあと、遠慮がちなノックが鳴る。

 なんとなく、相手は分かってる。けど一応は確認。


「はーい、だれー?」

「……あの、ユーウェ、です」

「ん、ちょっと待ってね。ドア開けるから」


 鍵を婆から返してもらった荷物の隙間に突っ込み、立ち上がって数歩先の扉に近づく。

 ベッドと簡易な棚しかない狭い部屋。

 早くちゃんとした場所を借りたい。でも作戦の最中は連絡の取りやすい場所にいた方がいいんだろうな。ユーウェの安全のためにも。

 それにこうやって近い場所にいるからこそ、ユーウェが訪ねてくれるんだろうな……ちょっと、うん、イイかも?


「どうぞ」

「あ、ありがと」


 扉の先、暗い廊下でもぼんやりと淡く光る白銀の髪が揺れる。

 ユーウェを招き入れて部屋を見回し、ユーウェにどこに座ってもらうかちょっと迷う。

 椅子なんてないし、立ちっぱなしで会話も変だし。

 ってことで、お互いちょっと躊躇してからベッドに腰を下ろす。

 ギッシィィィッと古くてぼろいベッドが悲鳴を上げる。これもどっかのごみから拾ってきたんだろうなぁ。そんなことを考えつつ、ユーウェが要件を切り出すのを待つ。


「……夜中にごめんね。寝てた?」

「ううん。全然。まだ眠気が来なくて。ユーウェも?」


 寝てなかったから、気にしないでと軽く言って質問を返す。

 ユーウェは迷うそぶりを見せてから、こくんと頷いた。さらっと揺れる銀の髪。顎の下の細い首と、服の襟元から覗く白い鎖骨……う、だめだ。目を逸らせ! 目を逸らすんだ、馬鹿ヴェイン! これ以上は見てはいけない!


「色んな音が聞こえて」

「あ、あぁ、そ、そうだね。一日中騒がしいから、このギルド」


 ちょっと挙動不審になりつつ、鼻息をこらえて息と共に言葉を口から出す。あっぶない。理性の翼がかつてない勢いで飛び立つ準備をしてた。


「ここはギルドでもあるけど、食堂と酒場もあるから。夜はあまり下に行かないように。危ない奴らが多いし」


 そのうちの一人に俺もなりそうだったことは、絶対に言わない。

 でも食堂の料理は美味しいし、楽しいお姉さんたちもいるから行きたいなら連れてく。もしかしたら姉さんたちにモテモテになるかもね!

 俺の言葉に素直に頷いて、ユーウェはポツリとこぼす。


「教会も、森のお屋敷も静かだったから。でも嫌なわけじゃないの。なんていうか……生きてるなぁって……私も、みんなも」


 変なこと言っちゃってごめんと笑うユーウェに、俺はぶんぶんと顔を振る。尻尾みたいな俺の髪の毛が遅れてバシッと頬を叩いた。大丈夫、俺は正気だ。

 気持ちは分かる。

 静かな夜は孤独感が増す。

 だから人が立てる音、たとえそれがバカ騒ぎであっても、自分は独りじゃないって感じさせる。


「だから、なんか逆に一人でいるのが寂しくなって」

「うん」


 それで俺のところに来てくれたんだ。

 ふへへへ、嬉しい。

 ほわんっと崩れた俺の顔を隠そうと下を向いた俺の耳に、小さな声が届く。


「ひとつ、お願いがあって」


 なんだろう。明日王都のどこかのお店に行きたいとか?

 そんな俺の楽観的な考えは全く違う言葉が、ユーウェの口から発せられた。


「教会の、私が使っていた部屋に行きたいの」

「え?」


 顔を勢い良く上げた先、銀色の星の光とぶつかる。

 そこにはこの部屋に来た時に見えた迷いは無く、覚悟にも似た強い意志が灯っている。


「私が、正式に聖女として認められてから、ずっと過ごした部屋に、あそこに、何か調べなくちゃいけない物がある気がして」


 ユーウェの声が、以前語ってくれた悪夢のことを思い出させる。

 ユーウェが聖女としての地位を失い、悲惨な目に遭い、人を恨んで魔法陣を発動させた結果、この世界を破滅させる化け物になる――そんな悪夢。

 衝撃的で、「なんてものを、子供に見せるんだ!」って叫びたくなったのを覚えている。

 だから部屋を調べる理由と、悪夢は即座に俺の頭の中で結びついた。


「もしかして、ユーウェが見ていた夢が、誰かが意図的に見せていたかもしれない?」


 確かめるように呟いた俺の問いかけに、ユーウェは迷うそぶりもなく深く頷いた。


 


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