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聖女を森に捨てるだけの簡単なお仕事です。  作者: BPUG
第五章 聖女の目覚め
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第54話 新たな依頼(まかせなさい)



 魂の継承者へ


 今これを読んでいる君は、私の記憶のかけらを受け継いでいるはずだ。

 それはつまり、地下に施された魔法陣が滞りなく発動したということ。

 そして君が魔力を持たぬ者であり、かつ、誰か魔力を持つ者が君を活かすために犠牲になったということでもある。

 犠牲者が君の愛する者でないことを心から願う。

 またここにたどり着くため、君が私の魂のかけらを受け取ったことを、誰か魔法使いに告げたことを示す。

 君の隣に信頼できる魔法使いがいるということを、とても喜ばしく思う。



 一つ、頼みがある。

 もし君が生きている時代で、私の作り出した魔法陣が悪用されているのならば、可能な限り破壊してほしい。

 だが知識が広まりすぎていてそれが難しいのであれば、私の言葉は無視してくれ。

 ただ、魔法陣によって魔力を持たぬ者への迫害が進んでいないことを願う。

 魔法陣は魔力を持たぬ者を救うために作られた。私はその信念を捻じ曲げられることを決して許さない。

 私の知識が少しでも力となることを祈っている。






 夕暮れの空が窓の向こうの森に広がっていく。

 屋敷の書斎に残された魔法使いの遺言を前に、それぞれ持ち寄った情報を共有する。


「魔法陣が残って実際に運用されているのは教会と王城のみとなります。それぞれ罪人の刑罰として使われていますわ」

「残った本、教会と、王城の禁書庫」

「積極的に研究しているのは教会のルペラ司教。たぶん、ユーウェ様も会ったことがあるのでは?」


 カメリアの問いかけにユーウェは唇を引き結んで深く頷いた。

 幸い、魔法陣の知識は広まっていない。

 王族と教会が知識を独占しているけど、積極的に活用されているわけでもない。

 魔法使いが危惧した状況じゃないのは嬉しいけれど、ここまで秘匿されているのも怪しい。


「ユーウェ様が裁判にかけられた切っ掛けも魔法陣ですし。過去に何かあったのでしょうか」


 カメリアが濁った沼みたいな色をした爪を頬に当てて呟く。

 あんな色の爪をしてて、食事をするたびに食欲が減らない? んでもってカメリアのことだから、あの塗料にも色々仕掛けがあるんだろうな。

 その手が焼き菓子に伸ばされ、俺は思わず焼き菓子がカメリアの口の中に入っていく様をまじまじと見つめる。ううぇえええ、すげえ。自分には毒耐性とかつけてそうだ。

 俺の視線に気づいたカメリアが綺麗に描かれた眉を寄せる前に、カメリアの場所から一番遠い焼き菓子を手にする。

 婆がじっくり漬け込んだフルーツが入った焼き菓子。香りだけで美味いのが分かる。んー、酒は好きじゃないけど、酒が香るドライフルーツは最高だよね!


「王族、不審死、過去、あった、ような?」

「そうだとすると……過去に記録が消されている聖女様関係かもしれないわ」


 慎重派なゲッコーが、珍しく不確定な情報を引っ張り出してきた。

 ユーウェは以前にも言っていた、記録が残っていない聖女とのかかわりを指摘する。

 問題を起こした聖女の記録はしれっと消されるらしいけど、同時期に王族にも消された記録の痕跡があるならば関係性は高い。

 ちらっと部屋の隅でゆらゆらと揺れる婆を見る。いつの間にあんな気持ちよさそうなロッキングチェアを見つけてきたのだろう。裏路地にいる時には婆の膝には性格の悪い猫がいた。さすがに森には連れて来ていないけれど、猫の幻が見える。しかも幻の猫はどや顔している。

 その婆が重たそうな瞼を上げ、ふわああっと気の抜けたあくびをした後に「そろそろかねえ」と告げた。


 その声に、カメリアの背筋が伸びる。

 ゲッコーのスカーフに覆われた口元が揺れた。

 俺は手にしていたカップをゆっくりとテーブルに置いて、ユーウェに向けて笑ってみせる。


「ユーウェ、王都に行こう」

「え?」

「行くって言うか、戻る?」

「え? で、でも、私は王都から追放されてて」

「うん。追放された聖女ルヴェリア・ユーウェ・エリュシアは亡くなったでしょ。ここにいるのは裏路地ギルドのメンバーで、魔法陣解析担当のユーウェだから」


 俺の屁理屈にユーウェの口がポカンと開く。ふふふ、空いた隙間に焼き菓子を放り込みたくなるね。

 強引な考え方なのは理解しているけど、でもどのみち一度襲撃を受けたこの場所にずっと留まるのは危険だし。

 婆と一緒に来たギルド員が王都に戻ったら、俺たちだけではユーウェを守るのは厳しい。実際、俺はすでに一回死にかけてるし。加えて、前回ぶっ倒した奴らとは別で敵がいる可能性もある。

 王都にいる他のメンバーとも密に連携を取って、色々すっきりさせるためにも王都に戻るのは必要なんだよ。

 そんな話をすると、ユーウェは戸惑いを瞳に残したまま頷く。やっぱり王都に戻るのは怖いかな?


「王都、戻ったらヴェインはどこに住むの?」

「俺? 俺は、一応ギルドの持ってる宿に荷物は置いてるけど」

「私もそこに住める?」

「え!? それは無理じゃないかな!?」

「ユーウェ様! こいつのボロ屋にユーウェ様を住まわせるわけには!」


 魔抜けの保護に手を貸してくれる宿屋に間借りしている俺だけど、たぶん行方不明になってから荷物は回収されてんじゃないかな。てか、カメリア。一応ギルド関連だからね、あの宿。確かにぼろいけど!

 あ、不満そうにしてるユーウェにカメリアが慌て始めた。はっはっは、いい加減、俺とユーウェの仲を邪魔するのをやめないと嫌われるぞ。てか、嫌われろ。


「ねえ、婆。俺の報酬ってどうなった?」


 聖女をぽいっと森に捨てたらもらえるお金。前金もたんまりもらったけど、成功報酬はがっぽがっぽなはず!

 王都では聖女は死んだことになってるから、依頼者も全額払ったに違いない。

 裏路地ギルドの取り分を引かれても、俺に入ってくるお金は十分ある。


「もちろん、こっちで保管してある。王都に戻ったらやるよ」

「やった。だったらいい場所に住めるかもよ、ユーウェ」

「良かった!」


 ぱちんっと両手を合わせる俺たちに、婆はきいきいっと椅子を揺らしてため息をつく。


「お前たちはあほか。死んだ聖女にそっくりな女がいたら噂になる。隠れて住む場所をギルドで用意するからそこに住みな」

「そりゃそうだった。じゃ、俺もそこに住もうかな。どうせ裏路地のたまり場の上か裏でしょ」


 逃げてきた魔抜けを保護する時に使われる場所は何か所か知っている。そのどれかだろうとあたりを付ければ、婆がキイっと椅子を揺らした。

 あの場所ならば、メンバーがいつもいるから安全だし、美味しい食事にすぐありつける。きっとユーウェも気に入るだろうな。

 表立っては王都をうろつくことはできないけど、裏路地を知り尽くした俺たちなら知る人ぞ知る穴場に連れて行ってあげれる。


「ユーウェ、同じ建物には住めそうだから、いつでも頼って」

「うん。ヴェインが近くにいてくれるなら安心だね」


 魔法でも魔法陣でもユーウェのほうが俺より強い。魔法使いの記憶の一部をもらっても、俺は魔抜けなままだし。

 そんな俺だけどユーウェの支えになれるなら、どんな敵だって倒せそうだ。あ、あくまでも比喩で!


 さてさて、王都にある魔法陣、片っ端からぶっ潰しに行こう!

 最強元聖女のご帰還だ!




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