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第4話 新しい世界(ひらいちゃった)



 ──キィィィィン、ガガガガガガ!



 光の線が、瞬く間に馬車をバラバラに切り刻んでいく。

 おおお、すげーすげー。

 あ、そこ削りすぎるとせっかく用意した荷物がぶった切られちゃうんですけど。おお、ぎりぎりよけた。さすが。


 てか、魔法で大工もなれますね、聖女様。

 ぶっ壊すだけの大工だけど。そんな需要あるのかも知らねえけど。

 霞む意識の中、聖女の動きを追う。


 たぶん俺はもうあと一時間も持たない。

 魔抜けの体は強いけど、さすがに腹をぶっ刺されたら生きてはいけない。

 だから聖女が何しているのか知らないけど、そんなに頑張ってもらって申し訳ない。


 ここから先、死の森と呼ばれる魔境。

 魔法が狂ったり、見たこともない生物が跋扈する場所。

 聖女には魔力を残して何とか隣国まで通り抜けてもらいたい……んだけどなぁ。

 頑張ってる聖女を止める声を上げることもできず、俺はぼんやりとしたままで作業が終わるのを待った。


 ──バゴン!


 音を立てて大きな板が外れる。

 邪魔な壁や椅子は取っ払われ、俺は馬車の側面の扉に寝転がる形になっていた。

 空が綺麗だなぁ。死の森が近いのに、ここはこんなにも空気が澄んでいる。


「板を浮かすので、体を動かさないでください」

「……ぁ?」


 なんだって? ちょ、え? なんて言っ…‥‥うおおおお!?

 浮いた! 板が! 俺が乗ってる扉の板! まじ!?

 あれか、魔法で俺の体を浮かせられないなら板を浮かせましょうって?

 すげ、え、すげえな、さすが聖女!

 浮いたって言っても、多分俺の膝の高さくらい。

 横に寄り添う聖女の顔が見える。真剣で、不安げで、心配そうで、緊張してる。

 なんでそんな顔をしてんのか分からない。前に見た聖女はもっと、陶器人形みたいに表情が薄くて、同じ人間じゃないみたいだった。

 とはいえ、魔抜けは周囲から人間扱いされてもいなかったけど。

 そんな俺をちゃんと人間にしてくれたのは聖女だったんだ。

 スイーッと俺を乗せた扉は空中を滑り、そして地面に降ろされる。


 くらくらして限られた視界で何とか周りを見ると、俺の右手と左手側の延長線上に、兵士がそれぞれ寝かされていた。

 え? なんで? 一緒にお寝んね?

 ブフルルルッと声がして、後頭部を扉にこすりつけるようにして自分の頭の向こうを見る。

 するとそこにはオットーじぃが。

 まさか、と思って首を曲げて足元の方向を見るとそこにはホリーばぁが。

 つまり、俺を中心に上下左右に兵士二人、馬二頭が寝かされている。


 なんか、嫌な予感。

 ちょっと、聖女様。何をしようとしてるのか、くわしーく、このお兄さんにご説明いただけませんかね? 大丈夫、お兄さん、イイヒト。悪いことはしないヨ。


「……御者さんには治癒魔法が効かないので、魔法ではなく、生命力を引き出す魔法陣を使って、御者さんに生命力を注ぎます」


 俺がきょろきょろしているからか、聖女は今からやろうとしていることを固い声で告げた。

 うん、ご説明ありがとう。でも言葉は分かるけど意味が分からないな。

 魔法陣? って何?

 生命力って、魔力とは違うの?

 それって他人に譲渡したりできるものなのかな?


 んでさ、聖女様、その木の棒の先、なんで兵士の腹に突っ込んでるのかな。血がべちょべちょですよ。

 兵士が何も反応しないのは、魔法で眠らせてるから? 死んでないよね? だってさっき生命力を引き出すって言ってた。ってことはまだ生きてるってことでは。

 ……今から描くっぽい魔法陣が発動した後は知らないけど。

 オットーじぃ、ホリーばぁ……さっき見たら二頭とも酷い怪我をしていた。きっとこの森を越えられない。だけど、だけどさ、二頭から生命力なんてもらっていいのかな。


 ガリガリと地面を引っかく音と、血の匂いが周囲に広がる。

 俺自身の体から流れる血もその一部だ。

 しばらくして、意識がもうろうとし始めた頃、カランッと聖女の手から離れた木が地面に転がった。


「……ごめんなさい」


 それは、何の、誰への謝罪なのか。

 聞こえの悪くなった耳が、聖女の消えそうな声を拾う。

 ピクリとも動かなくなった瞼の裏に、淡い光が映る。


 柔らかく響き始める、聖女の声。

 魔力のない俺は魔法を発動する詠唱を学んだことがないから分からないけれど、紡がれている言葉が、一般的な魔法発動詠唱とは異なるのはなんとなく分かった。

 この国では使われていない響きの音が何度も混ざる。異国の言葉のようでどこか懐かしい。

 俺が知りもしない故郷のような、遥か昔から紡がれてきたような音。

 霧雨のように優しく、豪雨のように激しい。


 不思議な音だ。


 聞きほれているうちに、意識がが重く沈んでいく。

 遠ざかっていく聖女の声を聴きながら、俺は深い暗闇に飲まれていった。


「………………!!」




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