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聖女を森に捨てるだけの簡単なお仕事です。  作者: BPUG
第三章 聖女の安らぎ
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第34話 開始の合図(おかえり!)



 きっと誰もが後悔はいくつも抱えていて、「あの時、ああしていれば」だなんて経験を持ってる。

 俺もそう。

 例えばタマゴを片手で割ろうとして失敗して、殻が入りまくって、やっぱり無難に両手を使えば良かったって小さな殻を地道に拾いながら後悔したこともある。

 え? 内容がしょぼいって? そんなの仕方がないじゃん。あんまり暗いこといいだしたらきりがないんだから。

 魔抜けはそうやって色々諦めることに慣れて、生きている。行動を起こして失敗することなどあまりない。だって、行動を起こそうとしてもそれが受け入れられないってみんな諦めてるから。


 とりあえず俺の後悔のレベルなんてそんなもので、だけど人はみんな違って、きっとユーウェもまた別の後悔をしているんだろう。

 あの日、あの時に戻れたらとか思うのかもしれない。

 でもユーウェ、覚えていて。


 俺は、あの日、あの時に戻ったとしても、同じ選択をする。

 何度も何度も、あの場所に飛び込んでみせる。


 ユーウェ、だから、後悔しないでただ前へ進んで。

 美しい星の光を煌めかせて、暗闇に沈んだ人たちを導いて。

 それは何も持たない俺の、心からの願いだから。




「ユーウェ様! 敵です!」


 それは突然だった。

 奇襲。敵の襲撃。

 (はか)らったかのように外は暗闇に包まれていて、絶好のチャンス。

 敵が現れるのも襲われるのもそれが夜なのも、暗殺ギルドからしたら当たり前っちゃ当たり前。

 いち早くそれに気づいたのは、やはりカメリア。

 俺がいると魔法が効かないからと、カメリアの魔法範囲から押し出されていた俺は、ゲッコーの発した合図に屋根裏の寝床から飛び起きた。

 耳奥で鳴り響く音に俺は屋根裏の天窓に飛びついて、窓の木枠を跳ね上げた。


「うぎゃ!?」

「あ、ごめんごめん」


 どうやら屋根の上にもお客さんがいたみたい。丁度窓から入れないか狙っていたんだね。申し訳ないけど、ここは入口じゃないから、お帰りくださいませ。

 ゴロゴロドーンッと落ちていく黒づくめの人を見送り、よいしょっと屋根に上る。

 その俺のすぐそばにバサバサと音を立てて黒い鳥が舞い降りた。


「ギュォエ!」

「あー、はいはい。ったく、なんでこんなタイミングで」


 差し出された両足から筒を取り、中から暗号の書かれた紙を引き抜く。ざっと目を通してため息を吐いた。


「襲撃の恐れって、今ですけど! ヘッドォ!」

「グエェ」


 カキカキと雑に紙にたった今現在襲撃にあっている旨を書いて、すぐに鳥の足に戻す。

 王都にいるギルドに届いたとして、ここに援軍が来るのは何日も先。

 それまで持ちこたえられるかはカメリアとゲッコーにかかってる。

 俺? 俺は非戦闘要員だからね! 俺がやるべきことは何かというと……色々な妨害!


「っしゃ!」


 屋根の上から見る限り、敵は十二から五人ってところ。何人がすでに屋敷に入り込んだかは分からない。

 ゲッコーに持たされていた笛を取り、素早く視認した数を音で知らせる。


 ――ヒューイ、ヒュッヒュッ!


 音になりきれない笛の音が暗闇に紛れて延びる。これでとりあえず情報共有完了。そうです、俺はギルドの情報担当なんです。

 んで、次にやることはぁ……


「うっひょぅ」

「な、なんでだ!?」


 うひぃ、突然の後ろからの殺意怖い怖い。やめて。

 あ、隠密っぽい魔法かけてたのが切れたね。残念でしたぁ。


「魔法通じないから、ごめんねぇ」

「なんでこんなとこに魔抜けが!」


 あら、なんて失礼な。魔抜けだからこそだって。

 飛んでくる魔法を素直に体で受け止める。あ、地味に痛い。いたたたた。だから、魔法はキャンセルされるけど、衝撃はくるんだって!


「ちょっと、邪魔だから、落ちててね」

「ぐおっ!!」


 窓枠につかまり、回し蹴りをくらわす。ふんっ、魔抜けの身体能力舐めんじゃねえよ。魔法が切れた相手にだったら多少は力業でいけるって知ってる。

 ドンッドンッと屋敷の中から音が響く。

 ユーウェ大丈夫かな。変態カメリアが一緒にいるなら護衛としては十分だろうけど。

 ユーウェ自身も魔法が使えるし、きっと対人戦でも容赦しないとは思う。だけど不安とか心細いってのはあるだろう。

 とりあえず屋根の上に上がってきそうな奴はポイポイッと地面にお帰りいただく。

 よそ様のお宅を訪問する時はちゃんと入口を使いましょう! でも入れてあげないけど!


「よっと、い、っせぇ」


 屋根から三人突き落とした後、バルコニーを伝って二階に降りる。ここにも入口を守らない不届き者が!

 あ、落ちたやつ、ポーション飲んでる。あれは魔法回復だけじゃなくて体力も回復するやつ? うーん、これだから魔法使いってめんどくさい。ワラワラと復活するのって悪夢。


「それ、邪魔!」


 腰に括り付けた袋から、懐かしの物体を取り出す。

 ふっふっふ、この筒のー、底にー、バンッと衝撃を与えてー、ポイッと二階から下にいる人のところに投げますー。そうすると――


 ――パパパパパパパ!


「うぎゃああ!」

「くそ! うああ!?」


 はっはっは、爆竹攻撃!

 飲もうとしていた魔法薬が地面に転がるのを見てほくそ笑む。

 暗闇で視界をよくするための魔法でもかけていたのか、何人かは目を抑えて蹲った。なるほどなるほど、抜群の攻撃力。

 魔法に対抗するにはこういう原始的な攻撃が地味に効くんですよ。

 あとは、純粋な体術とか、ね?


「……中、行って」

「おけ。よろしく」


 両手に短刀を持ったゲッコーがバルコニーの手すりを飛び越え、音もなく地上に降り立つ。

 あとは実戦担当に任せたぞ。と言っている間にもゲッコーの手によって四人倒された。俺が上から突き落としたり爆竹で弱らせたりした奴らだ。ふふふ、お膳立てした甲斐があるというもの。


 ゲッコーの黒い影が闇の中を駆けるのを横目に、俺はバルコニーからさらに隣の隣の隣に移動する。

 ここはユーウェが使ってる部屋。当初は一階を使ってたけど、他の暗殺ギルドが絡んでいると分かってからは上階に移動してた。

 今回はそれが功を奏したと言えるけど、実際にこんなとこまで襲撃されるとは。いやはや、相手も執念深い。

 

 それはさておき、ふふふ……夜に窓から現れるなんて夜這いみたいじゃない?

 ……うん、ちょっと黙ろうね、脳内の俺。

 当たり前だけど、大事な大事なユーウェの部屋の窓には仕掛けがしてあって、外から開けようとしたら不届き者を攻撃するようになっている。

 その仕掛けがまだ発動していないのを確かめ、さらに移動。だってあそこから入ったら俺の大事な大事なだーいじな首がヒョンってなるかもしれないから。


 もう一部屋先に移動して、チョイチョイっと元からかけてあった外側の仕掛けを外して中に入る。

 スンッと吸い込んだ空気の中に、いぶしたような煙たい臭いが絡まっている。

 火をつけられたとかではなさそうだから、誰か火魔法を使ったのか。こんな屋敷の中で馬鹿な選択だ。


 さてさて、屋敷内の現状把握から開始しましょうかね。




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