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聖女を森に捨てるだけの簡単なお仕事です。  作者: BPUG
第三章 聖女の安らぎ
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第28話 同じでも違う(きゅうけい!)




「え? 雨、まだ完全にやんでないけど」

「いいから。私、魔法陣の構成が分かったかも!」

「ええええ!? わ、分かった。馬持ってくるから、待ってて!」

「あ! 私も行く!」


 ユーウェを置いて走り出……そうとしたら、ユーウェまで洞窟から飛び出した。

 あーあーあー、足元ぐちゃぐちゃだし、雨もまだ降ってるのに。

 慌てて手に持っていたブランケットをユーウェの頭の上にかぶせる。もー、また濡れちゃうじゃん。

 木の下で大人しく待っててくれた馬の背を撫で、だいぶ慣れた手順でユーウェをその上に乗せる。

 俺も後ろに飛び乗り、さっそく屋敷へと向かって馬を駆った。


「あのね、魔力が発動に必要なのは正解なんだけど、維持はまた別なの」

「うんうん、ユーウェ、分かったから。舌かまないようにね」

「あー、なんで気づかなかったんだろう。魔力は一つじゃなくて、きゃっ」

「はいはい。屋敷に着いたら聞くから」


 興奮した様子で話を続けるユーウェを一旦黙らせ……大人しくしてもらうために、ちょっとだけ荒く馬を走らせる。早く魔法陣の解析に戻りたいならご協力頼むよ。

 ぬかるんだ道ともいえない道を屋敷まで駆け抜け、厩にたどり着く。

 馬からユーウェを地面に降ろすと、彼女は「ありがとう!」と言って早速屋敷へと走り出す。

 その背中に「体を魔法で乾かすの、忘れるなよー」と声をかける。直後、さらりとユーウェの銀の髪が揺れた。早い。さすが。


「ま、気分転換が上手くいったんなら良しってことで」


 文字通りの雷ピッカーンが、閃きピッカーンにつながったって感じか。

 ポンポンっと馬の首を撫でると、湿った毛がベチョリと音を立てた。

 馬の世話をして、その後は温かいお茶でも入れて、摘まめるお菓子も持って、魔法陣に夢中なユーウェの元に行こう。

 適度な休憩、これ大事だからね。



 自分の濡れた服も着替えてさっぱりした後、爽やかな後味のお茶とドライフルーツをトレーに乗せて半地下の部屋に入る。

 予想した通り、ユーウェは床に這いつくばるようにして魔法陣の解析をしていた。


「おーい、どうだーい」


 俺が声をかけると、ユーウェがガバリと勢い良く顔を上げる。そして太陽よりも眩しい満面の笑顔を浮かべた。

 うおおお、そ、その笑顔は俺には眩しすぎる! 邪念も何もかもが浄化されちゃうじゃないか! ……ん? あ、いいのか。邪念、全部消え去ってくれ。


「ヴェイン! 魔法陣の構成が分かった!」

「おお、さすがユーウェ! 良かったな!」


 ニッコニコと自慢げに笑うユーウェにまずは称賛を。

 彼女の隣に腰を下ろし、床の上に直接トレーを置く。雨で体が冷えた上に石の床は冷たい。

 温かいお茶でも飲みながら、思う存分俺に分かったことを語ってくれ。


「魔法陣が一つの目的しかないって思ってたのが間違いだったわ」


 事実、今までユーウェが目にしたことがあるのは教会の魔力を対象者から奪う魔方陣。

 それを自己流で作ったのが俺に生命力を注いだ魔法陣。

 だからユーウェは自分でも気づかないうちに、魔法陣は一つの用途しか持たないと思い込んでいた。

 彼女の白い指が、ひときわ深く掘られた外縁の魔法陣に向けられる。


「魔法陣を発動させて、魔力を継続的に吸い上げるっていうのは私が夢で見ていた通り」


 半永続的に魔法陣が展開されていた。それは確かに用途を推測するに足るものだ。

 だが続けてユーウェの指はその内側にある幾つもの正円を示した。


「忘れてたの。夢の中で見た魔法陣は一つじゃなくって、幾つも空に浮かんでたってこと」


 化け物が支配していた大きな魔法陣。その周囲にはまた別の魔法陣があった。


「それは、ここ以外にも魔法陣があるってこと?」


 だったら死の森をくまなく探索しないと。

 そう焦る俺に、ユーウェはゆったりと首を振って否定する。

 そして話を続けようとする彼女の前にドライフルーツが乗った皿を出すと、反射的に一つ取って口に入れた。

 もっくもっくと食べている間にちらちらと飛んでくる視線を、俺は薄い笑みで制する。はっはっは、駄目です。続きはそれをちゃんと食べ終わってお茶を飲んでからです。

 噛み終えたドライフルーツをこくりと飲み込み、お茶を飲んでほっと息を吐くユーウェ。

「もういい?」とでもいうような眼差しに、俺は一つ頷く。よろしい、続けたまえ。


「えっと、だから、他の魔法陣があった理由だけど、最初に発動した魔法陣に魔力が溜まると次の魔法陣を発動させるの」

「次の……この魔法陣の内側に幾つもある円の魔法陣?」

「そう。だから、最初の魔法陣は術者、あるいは……魔力がこもった供物が必要になるけど、その次は周囲から集めてくるだけで、どんどん魔法陣が連鎖的に発動していくようになってる」

「なるほど。夢の中で、ずっと魔法陣からの攻撃がやまなかったのは、その永久機関が出来上がっていたからってことだ」

「そう……」


 起動と、動力源。

 魔力は二つあった。


 怪物が魔法陣を操っていると思っていた。

 だけど違った。すべては魔法陣が原因だった。


「一番外が起動の魔法陣、次に発動する魔法陣は攻撃?」

「うん、そう。この円……全部で八個あるけど、それは順番に魔力が補充されたら攻撃魔法を発動するの」

「順番に、ね。んで、攻撃された人が魔力を持っていたら、そいつから魔力を吸い上げるって感じ?」

「多分。魔法陣のさらに内側を解析しないと分からないけど、このあたりが攻撃の対象を定義していると思う。……今分かるのは、攻撃の標的は魔力を持っている人だけ」

「へぇ、ってことはそもそも魔抜けは攻撃されないってこと?」

「恐らく」


 それはなんとも、反応しにくい。

 こんなところでも魔抜けは除外ですか? って鼻で笑いたくなる気もあるようなないような。

 魔法陣を動かすには魔力がいる。それを補うためには魔力を持っている人間を狙うのは道理にかなっているけど……うーん、喜べはしないよな。だって、魔力持ちがばったばった殺されて、魔抜けだけが生き残ってもなぁ……それで嬉しいはずはない。


 さらに続いたユーウェの話では、魔法陣は五段階に分かれている。

 外側から一番目が起動と魔力制御、二番目が攻撃と魔力吸収、三番目が攻撃先と攻撃規模の定義となる。

 四番目と五番目はまだこれから解析をしていくが、夢の内容からすると術者へ何かしら還元される可能性が高い。


「四番目は魔法陣を発動した人に、魔法陣維持以外の魔力を集めるとか……そういうものだと思う」

「うーん、最強の魔法使いを作る魔法陣とかなのかな、これ」


 俺の思考垂れ流しの発言に、ユーウェはへにょんっと眉を下げる。

 否定できないってことか。はっはっは、俺、完璧にユーウェの表情読めるようになっちゃったからね。分かります。

 でもさ、やっぱりこの魔法陣をどうにかしないといけないんだろうな。

 魔法で壊すことは絶対にダメ。だって魔力がうっかり通っちゃったら「てへ、やっちゃった」とか可愛い子ぶっても許されない事態になる。まあ、俺は魔力がないからそもそもそんなことできないけど。


「削り取ってくとかってできそう?」

「分からない。どこか間違ったところを削って予測できない暴走をされたら止められないかもしれないし」

「だよねぇ」


 ってことで振り出しに戻る。

 魔法陣の用途が分かってますます危険だってことは理解できたら、ここにずっと置いておくのは危ないからね。

 ユーウェと俺でこの屋敷に住んで魔法陣の警備を死ぬまでしてもいいけど? ぶっちゃけ、全然俺はいいんだけどね!

 んで、俺たちが死んだらギルド代々で秘密を守ってくってのもアリ。アリ寄りのアリ。

 一番いいのは、死ぬまでに魔法陣をぶっ壊す方法を見つけることだけど。

 ユーウェと顔を合わせ、二人同時にため息を吐いた。


 はっはっは、息ぴったりだね!





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