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聖女を森に捨てるだけの簡単なお仕事です。  作者: BPUG
第三章 聖女の安らぎ
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第26話 新人ギルド員候補(かんがえなおさない?)



 変人魔法使いの家は一見すると二階建て。

 でもカメリアとゲッコーの調査により、魔法陣が描かれたあの地下に加えて、二階の上には広い屋根裏部屋があることが分かった。


「屋根裏には、恐らくこの屋敷を隠ぺいするための魔法が組み込まれていたみたいね。誰かさんが吹っ飛ばしちゃったけど」

「詳細、分からず」


 二人からの鋭い視線を受けて俺は縮こまる。

 え、でもさ、でもさ、あの状況では仕方がなかったと思うんだよ。そうしなくちゃユーウェの居場所は分からなかったし。

 それにあの魔法が解けたから、俺たちはこうやってお屋敷を自由に使えてるんだし。


 思わずむすっと口を尖らせた俺に、ユーウェがふふっと小さく笑う。

 おお、この顔が面白いかね、お嬢さん。もうちょっと変顔して見せましょうか? ユーウェの笑顔のためならこの顔が歪んだままでもよく……はないけど、変顔くらいどうってことないよ!


「あほなことしてんな、このゴミカス」

「へびゅ!?」


 カメリアの指先から極小のビーズが飛び出し、俺の額を直撃する。

 くそ、物理攻撃が一番効くって分かってやってやがる。

 ふぁ!? ぬおおおっと唸りながら額を抑える俺の背を、ユーウェの手がポンポンと軽く撫でてる! 撫でてる! もういっちょ、撫でてるぅぅぅ!

 心の中で悶える俺には気づかず、ユーウェは俺の背に手を当てたままわずかに首を傾げてカメリアに尋ねた。


「ヴェインのこの能力って、魔力を持たない人はみんなできるの?」


 え? 俺の能力?

 あ、俺と触れてるところから、気分悪くなってない? 魔力量が多いから大丈夫って聞いてるけど、それでも違和感がないはずないんだ。

 触れてくれるのは嬉しいけど、ユーウェをほんのちょっとでも苦しめたくないのよ、俺は。分かってくれるかい、この男の気持ちを。


「ヴェインの力は特別ですわ。魔抜けの中では抜きんでていると言えます。それに魔力を持たない場合、他の器官の発達があるようでゲッコーは」

「体、重くとか、軽くとか、できる。木とか壁、登れる」

「重力操作の魔法、とも違うのよね?」

「違う」


 魔力がないのに、魔法でも再現が難しいことができる魔抜け。

 ただし、これはほんの一部だ。

 もしすべての魔抜けに特殊な能力があったら、魔抜けが差別されるような状況にはならなかっただろう。

 魔法を弾いたり、病気になりにくい強い体を持っているのは共通しているけど、特殊な能力があるかどうかは別だ。


「んー、そんなに強力って自覚はないけどねぇ。魔法が効かないのは他の奴らも一緒だし」

「だからゴミカスなのよ。あんたの場合、魔法が効かないどころか、魔力の流れを乱すの。魔法使いにとってはそばにいて欲しくないゴミカス筆頭だわ」

「ひでぇ」


 でもユーウェは俺のそばでも魔法を使えてたよ?

 そう口にするとカメリアの顔が溶ける。あ、そうですか。ユーウェだからですか。


「魔法の理論は同じでも、それぞれ無意識に詠唱への力の込め方とか、魔力の乗せ方が異なるの。ユーウェ様はそこが天才的に上手いのよ」

「おおお、さすがユーウェ」


 指先をそっと合わせて小さく拍手する。すごいすごい。

 カメリア、お前はその冷たい目を俺に向けるのをやめろ。なんで瞬き一つでそんなにも温度が変わるかな。ユーウェへはデロデロに溶けたチーズみたいな目を向けてたくせに。


「とりあえず、屋根裏はもう何の仕掛けもないに等しいわね。他の部屋も寝室、衣装室とかあったけど全部空っぽでしたわ。ああ、ベッドが置かれていた部屋があったので、後ほどご案内します。寝具が整っていないので、板張りになってしまいますが」

「いいのよ。気にしないで」


 ユーウェはゆるりと首を振るが、カメリアはどこか悔しそうなままだ。

 こいつ、今度ここに来る時にベッドマットレスとか持ってこないよな? 森にそんなもん持ってきたら目立ちすぎるからやめろよ?


「唯一入れてない、書斎。次、しっかり調べる。入らないで」

「了解」


 魔法、魔法陣関係はすべてあの地下に置かれているとはいえ、他にも変人魔法使いの私物はどこかに残っているはず。

 そんな場所が厳重に守られているとしてもおかしくはない。


「こんな屋敷、魔法使い一人で建てたはずはないし、移設したにしても何か記録があると思うから、ギルドの情報班に調べてもらいますわね」

「ありがとう、カメリア。頼りにしてるわ」

「いいい、いえ!」


 ユーウェに感謝されて、カメリアの顔が真赤に染まる。

 うーん、ユーウェの照れ顔はめっちゃくちゃ可愛いのに、こいつのは……むかつくなぁ。あの膨らんだ鼻の中に唐辛子を突っ込んでやりたい。路地裏の婆に一度やられたことある。婆の特性スープを焦がしちゃった時に。多少焦げても美味しかったけどね。


「私たちは明日には王都に戻りますわ。戻ってくるのは早くて一ヶ月後になるかと。すでに伺っている案件以外で、何か私たちにご要望ございますか?」


 カメリアの問いに、ユーウェはテーブルに置いていた手帳の中から折りたたまれた紙片をとりだす。

 それを見たカメリアの眉が僅かに揺れる。あれは確実に「便箋と封筒を買ってこよう」って思ってる顔だ。お前が買ってこなかったら刺す。刺す。刺す。


「これを、裏路地ギルドヘッドにお渡ししてくれる?」


 手帳の紙数枚分。何が書いてあるのかと知りたい気持ちを抑えて、カメリアがそれを受け取るのを見守る。もぞり、とかすかに尻を動かす。


「あの……実は、その手紙にも書いたんだけど」


 お? 手紙の内容教えてくれるの? 好奇心丸出しだったかな。

 もうちょっと感情をださない男になった方がいいのかな。裏路地の姉ちゃんが「男はミステリアスでちょっと分かりにくいほうが魅力がある」って言ってた。数日後には「何考えてるのか分かんない男なんて最低!」とか言って飲んだくれてたけど。ん? どっちが正解?


「私、暗殺ギルド員になる!」

「は?」

「え?」

「……!」


 ちょ、ユーウェさん?

 何を仰っているのか理解できませんよ。

 ほら、せっかく表情管理頑張ろうと思ったのに、さっそく崩れちゃったじゃない。

 あまりの衝撃にユーウェから受け取った手紙が、カメリアの手の中でぐしゃっと音を立てた。おい、それはあかんでしょ。

 ほら、ユーウェも驚いて目をぱちぱちさせてる。


「えっと、ユーウェ? なんでギルドに?」


 ここはちゃんと話を聞かないと。

 子供が突拍子もないことを言い出したら、親は否定から入るのではなく、まず話を聞くことが大事って聞いた。

 俺はユーウェの親じゃないけど、否定はだめだからね。お話、大事。


「だってこんなにもギルドに良くしてもらってるのに、何も返せないから。それにギルドは二人一組なんでしょ? 私、ヴェインのパートナーになる」

「あー、俺、前も言ったけど、町の中をぶらぶらして噂話とかを持って帰ってくるだけの下っ端だよ? 誰とも組まなくてもできる仕事だよ?」

「そうですわ、ユーウェ様。そもそもギルドに何かを返す必要などないのです。私たちがユーウェ様のお力になりたいと勝手に動いているだけですから! それに、たとえギルドに入るとしても、こんな下っ端とは組むことは絶っっっ対に! ありえませんわ」


 衝撃から復帰したカメリアが全力で説得にかかる。あーあー、ユーウェがしょんぼりしちゃってるじゃない。

 その顔を見ただけで、ゲッコーまで落ち込み始めた。おい、お前はもうちょっとなんとかしようという努力を見せろ。


「ま、手紙に書いたならヘッドの返事待ちでいいんじゃない? どのみちここにいる間は魔法陣の解析しかすることないし」

「そう…‥だね」


 眉を下げたユーウェの後ろにしょぼ~んという文字が見える。

 幻想かな? 目元をこすっても消えないどころか、ユーウェの頭の上に路地裏にいたびしょ濡れの犬の耳が見える。あー、駄目だ。見捨てられないやつぅ。


「んー、じゃ、ヘッドからの返事がくるまでは、仮のギルド員で。えーっと、ギルド員候補みたいなのは?」

「え?」

「おい!」

「ずるぃ」


 カメリアとゲッコーの反応は無視して、ユーウェにだけ視線を合わせる。

 キラキラの星がいっぱいな両目に、俺の間抜けな顔が映りこむ。いらねぇ、邪魔だよ、そこの俺。


「機密情報とかは教えられないけど、っていうか俺はそんなに知ってる立場じゃないけど、ここにいる間は見習いみたいな感じで俺の言うことをちゃんと聞けるってなら」

「やる! やりたいです! なんでもします!」

「ぐふぉ!?」

「ユ、ユーウェさ、ま、ちょ、ちょ、そ、それは」

「……危ない」


 ユーウェさん、”なんでもする”は男に行っちゃいけないセリフよ?

 こんな森の奥の屋敷に二人きりの状況で。俺が紳士じゃなかったら危ないでしょうが。

 ……うーん、でもいいね。「なんでもする」ですってよ。ぐふふふ。


「おい、ゴミ、ユーウェ様を傷つけたら俺が細切れにするからな」

「できるもんならな」


 お前に言われずとも、ユーウェを絶対傷つけたりしませんよ。

 ふふんっとあおるように笑う。


 さてさて、新人ユーウェの教育、このベテランギルド員が頑張らせていただきましょう!!



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― 新着の感想 ―
ユーウェは「(湯屋で)働かせてください!」のほうじゃなくて、「(海賊の飛空艇で)働きます」のほうだった。 だってヴェインが「40秒で支度しな!」とか「グズは嫌いだよ!」と怒鳴られてそうだから(ジ○リネ…
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