ヴェグスノリ
さて、妖精飼育初心者にお勧めの品種をもう一種紹介しよう。
察しのいい読者諸賢はすでに気づいているだろうが、それはヴェグスノリである。
道端の石の裏側や古城の石垣を調べてみてほしい。
そうすれば石に擬態したヴェグスノリがすぐに見つかることだろう。
灰色の肌に苔に似たモスグリーンの体毛を携え、真っ黒な瞳を有する愛らしい姿が特徴的で、コロコロと転がりながら移動する姿は何ともユニークだ。
翅は退化しており、ほとんど飛ぶことはないが、緊急時には8フィートほどの飛行が可能であるから、やはり翅は適切に処置を施すべきだろう。
彼らは大変シャイな性格で、誤って触れようものなら直ちにその体を周囲の石と同化させてしまう。
こうなれば普通テコでも動かないのだが、我々妖精愛好家にとって、これはまたとないチャンスである。
先にも述べたが妖精飼育の基本はその生態への理解、これが最も肝要である。
私は石と同化したヴェグスノリが、どの程度の範囲で石と同化しているのかを詳しく調べてみた。
無論、ノミとハンマーを用いてである。
ヴェグスノリが同化した石をいくつも家に持ち帰り、それを鉄床に乗せノミとハンマーで削っていくのだ。
およそ108体のヴェグスノリがこの研究の犠牲になりその手足を失ってしまったが安心してほしい。
彼らは終生私が幸せに飼育したことを書き添えさせて頂く。(中には首を失った哀れなヴェグスノリもいたにはいたが……)
この研究の結果、彼らが同化できるのはピッタリ本体から6インチの範囲であることが分かった。
ヴェグスノリを捕獲した際は、その本体から6インチの位置に印をつけて、そこをノミとハンマーで削っていけばよろしい。
不器用でこの作業に不安を覚えるなら、近所の石工に依頼すれば間違いないだろう。
次項ではヴェグスノリの飼育に必要な処置を詳しく紹介していく。