葛藤の果てに
コマシオの協力で、見えない壁を破壊する事に成功、テリトリーに立っているはずのデモンの顔に、焦りが見えていた。と言っても、今の彼は怪物の肉体を纏っている。肉の塊のような醜悪な顔面。そんな顔からも知性を感じる表情が見える辺り、デモンの悪知恵は根っこまで染み付いているらしい。
コマシオは、ワンダーズと共にデモンへと飛行、接近していく。そして、彼の顔の前で制止し、口角を吊り上げた。
「よおデモン。好き勝手してくれたな」
「な、何故?あなたは私に裏切られ、武器も奪われ、戦力的にも精神的にもダメージを受けたはず…」
どこか機械的に言うデモンに、コマシオは、思い切り感情を見せてみせた。
…歓喜を込めて、小馬鹿にする。
「お前と違って俺は馬鹿だからな。こういう状況でも、前向きに頑張れるのさ。それにれみが俺を励ましてくれた…。あいつのおかげで俺は立ち直ったんだ!」
ふと地上を見るワンダーズ。
下では、木々の根元に呆然とするれみがこちらを見上げていた。
「…何でいきなりこんなに元気になるの…?」
れみの声が、風に乗って聞こえてきた。
デモンは剣を握る手を震わせる。
「…くっ、しかしこの島は私の魔力を長年蓄積させて形成したもの。ここにいる限り、私は倒れません!」
言い終わるなり、彼はその剣を振り下ろしてくる!しかもただの斬撃ではない。剣先にデモンの魔力が込められ、紫の閃光を放っている。彼の焦りが見て取れる一撃だ。
それはコマシオを頭上から真っ二つにしようと、殺意の刃となって襲いかかるが…。
コマシオは、何の迷いもなく剣先に拳を放つ!拳の先は完全に切っ先。
「な、何考えてんの!!」
一見、判断を誤ったのかと、ドクロが前に出ようとしたが…。
なんと、彼の拳は巨剣をピタリの止めてしまった。
小柄なコマシオの拳が、巨大なデモンの剣を…いや、そればかりかデモンの肉体そのものを止めてしまう。
「デモン!俺は長い間お前のそばにいた。お前が戦う姿も、何度も目撃した。だから…お前が操る魔力の質も全て分かってる。対策は全て、分かるんだ!」
コマシオは自身の拳に魔力を纏わせていた。それだけではない、その魔力はデモンが放つ魔力と相殺できるように、質を調整していたのだ。だから、先ほどの魔力剣も受け止められたのだ。
「…ならば、魔力を使わなければ良いだけの事でしょう?」
今度は魔力を纏わせずに剣を振り回してくる。その巨体ではまず出せないであろう速度…そして正確性。
だがコマシオも負けてない。素早さ一つでそれらを完全に回避、まるで剣の軌道を事前に読んでいるかのようだ。
「…剣が当たらぬなら…これなら…」
次から次へと手段を変えるデモン。
今度は、盾が突き出される。鋼鉄の要塞の如く向かってくる盾。剣に専念していたコマシオは危うくぶつかりそうになるが…。
(…俺は魔王だ。人望だって、あるんだよ!!)
盾は、コマシオの目の前で止まった。
…その盾を受け止めたのは…粉砕男とテリー。
彼らの手は、自分達以上の質量を誇るその一撃を容易く受け止めていた。
テリーは後ろのコマシオに振り返り、真っ白な顔で色濃く笑ってみせた。
「…コマシオが元気になったなら、俺達も負けてられないよな!」
彼らに続くように、頭上を影が通り過ぎる。
葵、ラオン、ドクロだ。彼女らはデモンの頭上に回り込み、それぞれの攻撃を仕掛けに行く。
ラオンはナイフを背中へ突き立て、皮膚を切りつける!背中から吹き出す青い血をかわしながら、彼女はデモンの腕にも向かっていき、瞬時に突き立てた。
更に突き立てた地点へ葵がハンドガンで発砲、二段攻撃によって生じる鋭い苦痛は、デモンも応えたようだ。
盾を持つ手を緩め、僅かにふらつく。
「くっ…集団でかかるとは卑怯ですよ」
「どの口が言うかあああ!」
ドクロがデモンの頭部に拳を打ち込む!デモンは完全に崩し、膝をついてしまった。
それでも尚動き続ける。盾を振りかぶり、ドクロを押し潰そうとする。
それでもワンダーズに隙は無かった。
「今度はこっちだボケ!!」
先程までの呆然とした様子はどこへやら、地上かられみが飛び出し、デモンの顎を殴りつけた!その一撃は急所に炸裂したようで、デモンは一気に力を無くす。
そしてついに…。
彼は…剣と盾を手放した。
「く、くそっ!!」
地に落ちようとする二つの武器を慌てて取ろうとするデモン。異形の手がそれぞれに伸びていく。
そうはさせまいと、れなが手を広げ、青い光を放ちだす。
「オメガキャノン!!」
手から放たれる青い破壊光線。デモンの手を容赦なく焼き払い、煙を噴き上げさせる。
「ぐああああ!!」
光線は、島の隅で爆発。無数の岩石を破壊し、断片が飛び散る。岩石と共に、デモンの勝率は完全に打ち砕かれた。
彼の魔力から離れた影響か、二つの武器は少しずつ元の大きさに戻っていき…。
「ドジッたなデモン!!それは元々、このコマシオ様の武器なんだよ!!」
本来の、そして新たな主の元へと戻る。
…コマシオは、地面に落ちる前にそれらを受け止める。着地地点へ滑り込み、手を伸ばす。鎧にはデモンの魔力が染み付いた土がこびりついたが…。
彼は、一気に回転し、躊躇なくその土を吹き飛ばす。回転が終わるや否や、彼は剣、盾を受け止め…。
「いくぞデモン!!魔王コマシオが相手だ!!」
「くっ…ですがここは私のテリトリーです。ここにいる限り、私は無敵!!」
デモンは両手を振り上げ、島の魔力を根本から押し上げる。
土を突き抜け、無数の触手が地面から飛び出してきた!
コマシオは腰を深く落とし…ロケットのように飛び出した。
向かってくる触手の動きを完璧に読み、迷いなく剣を振り下ろしていく。
切られた触手の中からは土砂が飛び出し、コマシオを包もうとするが、彼は盾を掲げて魔力を放出、一瞬青いバリアを展開してそれらに完全に対処。
デモンは両手を合わせ、コマシオの周囲の魔力を収束、大気中に衝撃波を放出させる。その衝撃波は目に見えず、代わりに皮膚に激しい振動が伝わってくる。
それすらも、コマシオの鎧が勝手に防いでいく。まるで攻撃自体受けていないかのように、あまりにもスムーズに距離を詰めていく。
「甘いぞ、お前が相手してるのは魔王…世界一かっこいい魔王なんだ!!どんな攻撃を仕掛けようと無駄だ!」
デモンの怪物面に、大きな動揺が走る。
コマシオのこの強さ…武器だけではない。彼は、完全に吹っ切れていた。
「…調子に乗るんじゃありません…!これならどうですか…?」
デモンは人差し指を立てる。指先に集まる青い光。コマシオは盾を構えて備えるが…。
「っ!!」
思わず息を呑む。
デモンの指は突然方向を変え、ある方向へ放たれた。
その方向は…Fとクラナの方向だった。
声を上げる間もなく、Fは咄嗟にクラナの前に出て飛んでくる光線から彼女を守ろうとする。
だがコマシオはこれすら見逃さない。
「させるか!!」
彼は魔力を全身に流し込み、瞬時に飛行速度を高める。肉体への負荷など考えてる間もない。彼の良心に迷いはない。
風を切り、視界を滑らせ、二人の前に飛び出し…光線を盾で防いでみせた!
デモンは唖然とする。
「…ヘタレ坊主がここまで成長なさるとは。コマシオさん…あなた、本当にムカつきますね」
「…デモン、息が上がってるぞ?ははは、今までの俺はこんな風に見えてたのかもな」
…フローグの戦士としての誇りに、亀裂が走る。
「うるせええええええええ!!!!!!」
デモンが叫ぶと同時に、その全身から無数の棘が生える!
その棘は一斉に発射され…コマシオも、Fもクラナも、ワンダーズも、全員に飛んでいく!
真っ先に棘を視認したのは、日々弾丸と共に戦う葵だった。
「やばい!皆防いで!!」
葵は発砲して棘を撃ち落とし、れなやれみ、粉砕男は拳圧、ドクロとテリーは魔力によるバリア、ラオンはナイフ…それぞれ異なる方法で棘を撃墜していく。
Fは導狼の証を発動し、自分たちに迫ってきた棘の動きを止めて対処していく。
そしてコマシオは鎧と盾で受け止め続ける。
「今更こんな攻撃が何だと言うんだ…」
…その一言の後、コマシオは気づく。デモンの気配が、一瞬消えた事を。
「フハハハ!!やはり変わってませんね、甘いですよ阿呆が!」
…デモンの巨体が、いつの間にかコマシオの背後に回り込んでいた!恐らく島の魔力で瞬間移動したのだろう。
コマシオ目掛けて、両の拳が振り下ろされる!
今度ばかりは、コマシオも心の中で絶叫した。
(ああっ…畜生!!)
「コマシオ様に手を出すなあああ!!」
…誰もが聞き覚えのある声が響いた。
唐突にデモンはバランスを崩し、派手に転倒する。
地上の土砂、草が彼の顔を覆いだす。
こればかりは、誰一人として予想していなかった。
たった今、デモンをなぎ倒したのは…。
…コマシオ配下の四兄弟だった。
赤髪のパンチ、青髪のキック、黄髪のヘッド、紫髪のヒップ。
四人の筋骨たくましい背中が、コマシオに向けられていた。
ヘッドが振り替えり、コマシオに笑いかける。
「コマシオ様の危機には必ず駆けつける…部位自慢ブラザーズ参上です!」
「えっ…お前ら、何故ここに…!?」
兄弟達は、立ち上がろうとするデモンに再度向かっていき、その復帰を阻止していく。
その動き方は華麗かつ正確。完全にデモンの動き方を先読みして完封していた。
ワンダーズも予想外だったのか、暴れ回る四兄弟を見てしばらく動けなかった。
彼らは事務所で縛り付けていたはずだが…コマシオの危機を感知して拘束を破ったのかもしれない。それほどまでに、彼らのコマシオに対する忠誠は深いのだろう。
四兄弟の攻撃に顔を覆いつつも、徐々に立て直していくデモン。彼は全身を紫色に光らせ、一気に魔力を放出、邪魔者を蹴散らす。
しかしながら彼の手足、胸は所々穴が空いている。四兄弟の攻撃は想像以上の効果を発揮していたようだ。
息を切らしながら、デモンは左手を軽く振り上げる。
突如地面が波打ち…土がデモンの元へと移動を始める。
コマシオはそれを見て歯を食いしばる。
「くそっ、島の魔力で再生する気だな…そうはさせるか!」
それを止めるべく、急いで攻撃を仕掛けようとしたが…。
もはや焦る必要もないらしい。
「コマシオ、任せろ!!」
デモンの足元に密かに接近していたれなとれみが、肉の塊のような醜悪な足を殴りあげ、デモンの視界が上へと揺らぐ。
もはや何度目かも分からない転倒。仰向けに叩きつけられ、巨体の体重が一気に跳ね返ったデモンはもはや言葉も発する事なく、痛みに呻いた。
それでも立ち上がろうと、地面に手を置くが…その直後、体の自由が利かなくなる。
「…!?まさか…」
デモンが悟った頃にはもう遅い。
空中で、右腕を青く光らせるFがこちらを睨んでいた。導狼の証の魔力が、デモンの隙を突いて彼を地に縛り付けたのだ。
「やれ!!」
コマシオは笑った。
(…仲間に助けられて、一つの脅威に立ち向かう…。何だよ、これも最高に魔王っぽいじゃねえか)
「うおおっ!!!!!」
その声は、短いながらも、凄まじい気迫があった。
彼の決意、闘志。それらがその声に密度をつけ、声そのものが攻撃のようになっていた。
実際、それを聞いたデモンは身を震わせた。
(…まずい、まずい!!)
立ち上がろうとしても、全く動けない。
紫と銀の閃光が、天空を染め上げた。
「俺は!!魔王コマシオだっ!!」
大気が蹴られ、島が怯えた。
海面は裂け、飛沫は天へ舞い、消えゆく。
コマシオの剣は…一瞬にしてデモンを両断した。
「ぐぎゃあああああああああ!!!!!!」
絶叫、そして倒壊音。
デモンの魔力で構成された島が、主が高いダメージを受けた事で亀裂が走り、真っ二つに裂けていく…。
「逃げるぞ!」
粉砕男が叫び、ワンダーズは飛行していく。
島は…無残にも崩れていった。




