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微妙な蛇使い!

「おかえり粉砕男!」

葵の声が、粉砕男を優しく出迎えた。そして…直後に響くのはれなの騒がしい叫び声。

「粉砕男おおお!!待ってたよおおお!!」

彼の顔に飛びつき、視界を覆うれな…。



それから粉砕男は皆に、あの遺跡の戦いを話してくれた。

勿論、デモンフローグの事も。これからまた対峙するであろう、あの悪党の事を…。

一通り話が終わると、まずはラオンがナイフを拭きながら言う。

「デモンか…あいつが出てくるとより厄介な事が起こりそうだな」

次に発言したのはテリー。

「やつの居場所を探りたいところだが、どこに行ったかは分からないんだよな?」

骨の腕で器用にマグカップを手に取り、食道があるはずのない喉へとコーヒーを流し込む。肋骨から床に垂れていくコーヒーを見つめながら、粉砕男は話す…。

「…ああ。やつを深追いするのは危険そうだからな。まずは今来てる依頼をこなしていく事に集中するのが良さそうだ」

そう言うと彼は、部屋の隅に置かれた箱に目を移す。

山積みの紙が置かれていた…あれら全てが依頼だ。


…粉砕男が帰った事により、事務所の戦力は全て整った。ここからは本格的に依頼に専念できる。

彼ら、人呼んでワンダーズ。テクニカルシティより各地に向かい、世の平和を守る為に活躍する戦士達だ。

その活動は、誰かに頼まれて始めた訳では無い。全て、彼らの判断だ。


デモンは厄介な相手だ。今すぐにでも止めたいところだが、霧のように行方をくらました相手を闇雲に探すより、まずは困っている人達の助けとなるのが最優先だった。

ワンダーズは今日も、戦いに出る。




「変わらずお人好しだな」

Fは呆れつつも、何故か手を貸してしまうのだった。Fがこうなのだから、勿論クラナは喜んで戦いに身を投じる。

「一緒に頑張ろう!お兄ちゃん!」

Fに飛びつくクラナ。兄に心の底から懐いてるのだ。



その日もそれぞれが別々の依頼へ向かっていく。



Fとクラナがついていったのは、ラオンだった。

ラオンはナイフの使い手であり、敵を素早く切り裂く華麗な戦闘スタイルの持ち主。そして彼女の性格は少々荒れており、そんな彼女をFは前々から見込んでいた。

彼女と共に敵と戦えば、面白い展開になるかもしれない。そんな好奇心のまま、そして大した根拠もないまま、ラオンについていく。



今回の依頼は…謎の蛇使いを倒す事だった。

そいつは旅人が多く往来する道を陣取り、度々旅人に危害を加えるのだと言う。

「そいつは厄介者だ、急いで懲らしめなければ!!」

ラオンは口でこそそう言うが、その顔には明らかな喜びが見える。

彼女は戦いが好きなのだ。今回はどんな相手と巡り会えるのか、そしてどのように互いの身を削り合えるのか…期待が止まらない。

現場へ飛行していく最中、Fはクラナの目を両手で覆ってラオンを見せないようにしていた。それは簡単、悪い大人の見本のようなやつだから…。

下を見ると、草原に広がる道が見えてくる。あそこが現場だ。

「へへへ、見えてきたな。このラオン様の手でかっさばいてやる…!」

(まるで悪役だな)

Fは目を細めながら、ゆっくり降下していく。



地上に足を置き、辺りを見渡す。茂みが多く、街へ案内する看板が立つ平凡な場所だ。依頼の手紙によれば、平凡であるが故、戦士も一般人も等しく、そして心置きなくこの道を通っている道だという。

しかしながら例の襲撃者の影響でここ最近は往来が無くなってきている。

ついこの間まで遊ぶ子供の姿さえ見えていたというこの道。ここにもう一度人を戻すには、その襲撃者を倒さねばならない。

…そんな口実を心でささやきながら、ラオンはナイフ片手に叫ぶ。

「おい!誰かいないかー!!」

草木も揺れるほどの大声で、襲撃者を呼び出す!自分から襲撃者を呼び出すその様子から、彼女の本心は丸見えだ。更に…クラナまで便乗して叫ぶ。

「おい!誰かいないかー!!」

「…おい、やめろクラナ…そいつの真似するな」

それまで黙っていたFが、控えめな声を出す…。


その時…。



「うるせえなああ!?」

荒々しく、低い声と共に茂みから何者かが飛び出した!


そいつは…緑色の人型モンスターだった!黒いアーマーを身につけており、背中には大きなリュック。右手には…手斧を握っている。

思わず構えるラオン達。そのモンスターはいかにも不機嫌そうな顔と声で手斧を振り回す。

「テメェら…俺のお昼寝タイムを邪魔しやがって。…この辺りの連中は全員追い出したと思ってたが、まだテメェらのようなアホがいたとはな」

間違いない。こいつが例の襲撃者!

三人の構えに応えるように、彼は手斧を構えて完全に戦闘態勢。威嚇しているつもりだろうが、むしろこのくらい強気にかかってきてくれた方が戦う側もやる気になれるというものだった。

「いくぞ!このズネッヂ…貴様らの首をとってくれる!」

ズネッヂと名乗ったそのモンスターは、飛びかかって手斧を振りかざしてくる!落下と同時に手斧を振り下ろして勢いをつけた攻撃を仕掛けようとしたが…。

「おら!!」

ラオンがそれを弾く!ズネッヂは手斧をあっさり落とし、バランスを崩して転倒する。

ラオンは器用にも、片手でナイフを回転させて余裕の笑み。…だが、実際は完全に肩透かしを食らっていた。

「こんなやつ相手にならんな。私一人で十分だ」

ズネッヂは震えながら膝をたて、ゆっくり立ち上がる…。悔しげに歯を食いしばりながらも…口角が上がっていく。


そして…おもむろにリュックを下ろし、中をあさり出す。…ラオンの笑みが崩れていく。観戦していたFも腕を組み、クラナは目を丸くして純粋な興味に惹かれてるようだ。

「このズネッヂ…地に叩きつけられるとは不覚だった。だが!俺にはこの相棒がいる!」

勢いよく、何かを取り出す!


それは…なんと蛇だった!

緑色の鱗を纏う蛇が舌をちらつかせ、こちらを威嚇してくる!

この蛇が相棒らしい。ズネッヂは蛇を肩に担ぐように持ち、得意気なポーズをとる。

これが彼の本気の姿のようだ。相棒の蛇と共に戦う二身一体の戦闘スタイル…ようやく侮れない相手になってきた。

「いくぞ!」

ズネッヂは飛び出し、蛇を突き出そうとする!蛇は大口を開け、今まさに噛みつこうと襲ってくるが…。


…蛇が真っ先に噛み付いたのは、ラオンでもFでもクラナでもなく、ズネッヂだった。

「ぐあああ!!お前、俺は相棒だぞ!これで何回目だ!!」

蛇に噛まれた腕を押さえながら、悲鳴を上げつつ怒り心頭のズネッヂ。その口ぶりから、どうやら今回が初めてではないらしい。

蛇はしつこく腕に噛みつき、その度にズネッヂは悲鳴をあげて払い除ける。ラオンはナイフを下ろし、もはや戦闘態勢すら解いてしまった。

「あー、お前…まずそこからかよ」

やれやれと言った様子の彼女にズネッヂは怒り心頭で向かおうとするが、やはり蛇がそうはさせてくれない。

「くそ…負けた。俺の負けだ…」

とうとう彼は諦めた。それと同時に蛇も脱力してしまう。


…流石に少し気の毒になったのか、ラオンはある提案を差し伸べる。

「おい。恐らくお前はその蛇と積んでる経験がまだ浅いんだ。お互い修行してからまたかかってこいよ!」

正直、ヤケクソ気味なアドバイスだったが、ズネッヂはこう見えて武人。そのアドバイスをあっさりと真に受けた。

「そうか…なるほど」

立ち上がるズネッヂ。その腕には蛇が噛みつきっぱなしだが、その時のズネッヂの顔は自信に溢れていた。

「まずはこいつが喜ぶ事をしてあげるのが先だよな!ありがとう、早速色々試してみるぜ!!闇姫様にも、めちゃくちゃ良いやつに出会えたと伝えておく!」

「え、闇姫だと?」

ラオンは思わず手を伸ばしたが、ズネッヂは既に背を向け、ジェット機のような速さで走り去っていった。

彼は闇姫の手先だったようだ。知らぬ間に、闇姫の悪巧みをまた一つ打ち倒したのだった。


それから数日後…。










「見てくれえ!!俺の努力を!!」

闇姫の城にて。

多くの兵士が慌ただしく動き回る広間の中央にて、両手をあげて叫ぶズネッヂの姿があった。

彼の右手にはやはり蛇が噛み付いてる。問題はズネッヂの体表だ。

彼の体は…真っ茶色。甘い香りが付近に漂い、兵士達が怪訝そうな表情を見せている。

「これでこいつも喜んで、俺に忠誠を誓うことだろう!ガハハハ、これで俺は最強になれる!!」

そう、彼は全身にチョコクリームを塗りたくる事で、噛み付いてきた蛇を喜ばせるという作戦を考えたのだ。



ズネッヂが最強の戦士になる日は、少なくとも十年は来ないだろう。

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