マドワニンとセクリスタとメダマッチョと
テクニカルシティの隅にある、静かな公園にて。
Fとクラナは、ブランコに座りながらある事を深く考えていた。
彼等は、近頃金欠に陥っていた。
中々良い盗賊に巡り会えず、彼等から金貨を巻き上げる事ができない。そして良い大会なんかもなく、賞金を得られない。
「あー、お兄ちゃん。何か一瞬にしてお金稼げる方法ないかなー。お金を作る魔術とかないかなー」
「ないだろ」
お互い一言で会話が終わる。解決方法が漠然とした悩みは辛い。
普通に働け、は禁句だ。
「そんなお二人にご朗報だ!!」
突如明るい声が響く。
顔を上げると、オレンジの頭に大きな口を持つ異様なモンスターが立っていた。例えるなら、人参に大きな穴を開けてそこを口とし、目として二つの穴を空けたかのよう。
「私はマドワニン。迷える若者達よ、君達にとっておきの情報を渡しに来た」
「急に何だ。尻の穴二つにされてーか」
悩んでる最中に怪しげな男に遭遇し、Fの苛立ちがグン、と高まる。マドワニンと名乗るそいつは特に動じず、得意げに続けた。
「ここの近くの洞窟に、セクリスタと呼ばれる鉱石が出現した。そいつを売り飛ばせば、何と…一億万円の価値が出る!」
「いちおくまんえん!?」
おかしな金額に、クラナは目を輝かせる。Fは額に手を当てて深いため息をつく。
しかし特に予定も宛もなく、今金が欲しいのも事実。二人はその男の怪しすぎる口振りに乗り、洞窟へ向かってみる事にした。
森の中に佇む洞窟…今日も静かで、妙な湿り気が壁や天井に張り付いている。いつ来ても心細く、その分仲間の大切さを思い知らされるような場所だ。
こんな行き慣れた場所に鉱石があるのだろうか?
岩を掻き分けるように先に進んでいくと…。
「待てい!!!!」
暗闇に、大声が響く。さして驚きもせず、Fは拳を握り、一方のクラナは驚きのあまり飛び上がり、天井に頭が突き刺さる。
暗闇の奥から現れたのは…筋肉質な人型モンスター。紫の体を持ち、両腕には目玉がついている不気味な姿。その不気味さに反して、妙なハイテンションでポーズを決め、指をさす。
「俺はメダマッチョ!筋肉と目力で全てを見通す男!俺もまた、鉱石を探しに来たのだ!」
ライバル出現、というやつだった。このモンスターも金欠に悩まされているのだろうか。
ライバルがいた方が盛り上がる。そう考えたFは、珍しく調子ある声でメダマッチョにこう言った。
「良いだろう眼球野郎。俺達の腕とテメェの目、どちらが先にセクリスタを見つけられるか勝負だ」
それから、両者は洞窟を進み続けた。
Fとクラナは洞窟の岩を破壊しながら進み、メダマッチョは両腕と顔の目で洞窟内の細道を見分けながらスムーズに進む。
この洞窟は気軽に行ける距離にはあるものの、意外と深い。分かれ道が何度も思考を迷わせ、岩や土埃等の障害、そして時々…モンスターも現れる。
「お兄ちゃん、またバットが出たー!!」
「任せろ」
蝙蝠モンスターをなぎ倒し、更なる困難に備えて足を進める。この繰り返しだった。
困難を乗り越え、道を進み続けた。やがて…暗闇の中で明らかに異様な光が見えてくる。
赤い光…不穏に周囲を照らし出しており、光そのものがこちらを威圧しているかのよう。
間違いない。あの光は…。
「いちおくまんえん!!」
クラナが先に飛び出す。
洞窟の奥にポカンと生えていた、赤い鉱石…これがセクリスタで間違いなさそうだ。クラナはそれに飛びつき、Fが慌てて手を伸ばす。
「おい。無闇に触れるのはやめておけ。まあ触れないと持ち帰れないが」
冷静に見えて、Fも内心興奮していた。
この輝き、この大きさ…売ればどれだけの価値になるか、予想もつかない程、立派なものだった。
…が、異変が起きた。
「ん?」
セクリスタの周りの土が、震え始めたのだ。土の上に転がっていた石ころが揺れ動き、天井からは僅かに砂埃が落ちて来る。
そして…セクリスタ自体も、這い上がるように地面から飛び出していく…!
「こいつは…!?」
Fは顔を上げる。
地中から現れたのは…セクリスタを背中につけた赤い巨人だった。
いや、セクリスタ自体が、この巨人の背中だったのだ。
後退る兄妹。そんな二人のもとへ、高笑いが響き渡る。
「うはははは、騙されたか!!」
振り返ると…そこには、あのマドワニンが実に可笑しそうに笑っていた。その後ろではメダマッチョも、同じように笑っている。
「おいメダマッチョ!!こいつらマジで信じやがった!!うはははははおほほほほほほぎゃはぐへへへへははははふふふー!!」
腹を抱えて笑い転げるマドワニン。
Fは、何のつもりだと問いただそうとしたが…この笑いようではまともに答えてくれなそうだ。
セクリスタは拳を発光させ、振り下ろしてくる。Fは即座に導狼の証を青く光らせ、拳を打ち返す事で相殺した。
次にセクリスタは蹴りを繰り出そうとしてくるが、クラナが足にしがみついて受け止める。
ここは狭い空間。巨体のセクリスタよりもFとクラナの方が有利だ。
暴れまわるセクリスタの腕や足を掻い潜り、壁を蹴り、その勢いでセクリスタに強力な打撃を決め…。
「いいぞクラナ」
「ありがとう!」
クラナはセクリスタの顔面に、両足で蹴りを浴びせた。その一撃は誰が見ても、クリティカルヒットというやつだった。
壁を崩しなから倒れるセクリスタ。思った以上の反撃を仕掛けるFとクラナに、メダマッチョは焦りを見せていた。
「お、おい。あいつら結構やるぞ」
マドワニンは額から滴る汗を拭きながら、策を考える。
「…そうだ。良い事を考えたぞ!」
その一言にメダマッチョは期待の目を向ける。両手の目玉まで、星のような輝きを放って無邪気ささえ感じさせる。
そんなメダマッチョを盾にするように、マドワニンは彼の後ろに回り込む。そして、こう叫ぶ。
「おーい。そのセクリスタは本当はそんなに価値はないんだ。このメダマッチョの方が、高く売れるんだぞ」
「な!?!?!?!?!?!?」
メダマッチョの声が狭い空間に反響する。セクリスタの拳を回避しながら、Fが振り返る。
「それは本当か?ちなみにいくらだ」
「そうだな。一兆億円ってところだな」
またもや謎の数字を出してきた。一兆という圧倒的な数値にクラナの目が変わり、メダマッチョに飛びかかる。
「待て待て待て待て、俺はそんな大したやつじゃねえぞー!!」
突き飛ばされるメダマッチョを横目に、マドワニンは逃げ出す。
転がるように逃げていくマドワニンを見て、Fはつくづく呆れ返る。仲間すらも騙すとは救いようのないやつだ。
Fは左手でセクリスタの拳を受け止め、右腕の導狼の証を発光させる。
光は見えない魔力を周囲に送り、マドワニンの後をつけさせた。
その時、マドワニンは既に来た道の半分ほどを駆け抜けていたのだが…。
「へへへ、哀れな目力野郎。囮にして正解だ。それにしても相手を騙すのが得意な俺様と組ませるたぁ、闇姫様も酷い事しなさる」
主、闇姫の姿を浮かべながら、彼は洞窟の出口を目指していく。今回マドワニンに任せられた作戦…「セクリスタを利用して誰かを騙す作戦」は成功に終わるかと思われたが…。
「あれ?」
突然マドワニンの足が止まる。
足に目を向けると…青い光が彼の足に絡みついていた。
光はマドワニンを引っ張るように動き、洞窟の奥へとどんどん引き込んでいく!
「うわああああ何じゃー!?!?」
砂利まみれの地面に引きずられ、服と顔を汚しながら、折角離した距離を取り返されていく。
一分もかからず、彼はF達の場所へと引き込まれた。
更に…マドワニンの頼りであるメダマッチョとセクリスタは、既に地に伏していた。
「げええええ、何故やられてるんだ!?」
「クラナが一人で倒したんだよ」
胸を張るクラナ。メダマッチョはその靴の下で息を切らして虚しく笑う。
「お、俺の目力が、こんなガキに…」
震えるメダマッチョに、マドワニンは一言。
「…今更だけど、お前のは目力じゃなくて単に力じゃねーの?」
思い出したような冷静なツッコミ。それが耳に飛び込むと同時に、メダマッチョは気絶した。
セクリスタも動かない。同じく気絶しているようだ。
Fは指を鳴らしながら、敵一同を見渡す。
「さて、どう落とし前つけてもらおうか」
震え上がるマドワニン…。
…そして。
「俺ぁ、売られるのは嫌だー!!!」
その後…テクニカルシティの質屋にて、三体まとめて売り飛ばされた。
セクリスタはモンスターであるものの体が鉱石で出来てるので五十万の価値が出され、メダマッチョはそれなりに珍しいモンスターなので三万、マドワニンは十円。
三体は、開拓地へと送り出されるのだという。
「物扱いしやがってえええええ!!」
マドワニンの怒声を背に、兄妹は札束を抱えて店を後にしたという…。




