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コーンたちの戦い

れみはその日、はしゃぎ回っていた。

F、クラナと共にテクニカルシティのトウモロコシ畑にやって来ていた。


この畑は科学者達が開発した新たな農薬の実験場として作られた場所。

つい最近、今回の実験で使われた農薬は安全なものだと立証され、その農薬で育ったトウモロコシは自由に獲って良いらしい。

れみは早速一本のトウモロコシを引き抜き、土を撒き散らしながら大喜び。それに誘発され、クラナも大はしゃぎでトウモロコシを引き抜き始めた。子供のはしゃぎ声の中、Fだけは静かにポケットに手を突っ込み、畑を見渡した。

「まあ、悪くない。今日はコーンスープでも作るか」

「えー?このままが良いよお兄ちゃん!!」

クラナはトウモロコシを掘り進め、背を向けたまま言う。

「このままか…」

クラナの言う事をつい優先してしまうFは、焼きトウモロコシにしようと考えた。

また一本、クラナがトウモロコシを掘り当て、投げてきた。

「ほらお兄ちゃん、受け取って!!」

Fの顔面に叩きつけられるトウモロコシ。



しばらく掘り続け、いよいよトウモロコシは底を尽きようとしていた。

Fはトウモロコシの山に呑み込まれ、クラナとれみは他にもないか探し回っている。

「うーん、もう無いのかな?」

クラナは土を掘り進め、どんどん地の下へと潜ってしまう。れみは疲れた様子で土の上に座り込み、汚れる事も気にせず両手を地についている。

「ん?」

ふと、彼女は何かに気づく。視界の中で小さく黄色い物が動いているのだ。それは本当に小さく、片手の手の平に乗るくらいの大きさしかない。


ある程度近づいてくると、どうやら生き物である事が分かった。その姿は…まさにコーン。コーンに顔と短い手足がついた極小の生物。

その生物は、小ささに似合わぬ低い声で話しかけてきた。

「小さなお嬢さん。私の仲間達を知らないか?」

「え、え?仲間?」

突然話しかけてくるものだから、一瞬どう答えれば良いのか分からなくなる。

知らない。その一言すらすぐに出てこなかった。



彼等はコーンマルマン。

本来は集団行動を重視しているらしいが、あるモンスターに攻撃されて離れ離れになってしまったのだそう。

長い年月をかけて探し続け、ついに仲間達の気配を感じとったらしい。気配の元は…まさしくこの畑だ。


ふとれみは先程掘り集めたトウモロコシの事を考える。


振り返り、トウモロコシの山に目をやると…生き埋めにされていたFが歩み出てきた。

彼の手には、五人のコーンマルマンが器用に重ねられている。

「こいつらがトウモロコシの中に混じってたみたいだぞ」

コーンマルマン達は一斉に声を上げ、互いの身を寄せ合い、飛び跳ねて歓喜を示す。そして横一列に並ぶと、Fとれみに礼儀正しいお辞儀を見せた。

「何と御礼を言うべきか…感謝してもしきれません」

「いや、少なくとも私はほとんど何もしてないけど…」

れみは困ったように頭を掻く。知らぬ間に人助けならぬマルマン助けができたなら光栄だが。



コーンマルマンは安心しているが、一人は不安げな声をあげる。

「しかし、我々を襲ったモンスター…やつは我々の匂いを覚えている。もしかしたらまだこのあたりにいるのかもしれない…」

それを聞くなり、Fとれみの肩に力が入る。


直後、畑が激しく揺れ始める。柔らかい土が振動し、土埃が付近に飛び散り、掘り当てたトウモロコシが汚されていく…。



そして、響き渡ったのは…歓喜に満ちた高い声。


「凄いのいたよーー!!!」


…土が真下から勢いよく打ち上げられ、天に向かって吹き飛ばされる。茶色い柱が聳え立ち、その中から土まみれのクラナが飛び出してきた!

彼女が地中から引きずり出してきたのは…。


巨大なトウモロコシだった。

勿論ただの育ちすぎたトウモロコシではない。根本からは緑の触手を生やしており、コーン部分のあちこちに小さな目がついている。

コーンマルマンが声を揃えて悲鳴を上げる。

「こいつだ!!こいつが俺達を引き離したモンスター、デカモロコシだ!」

デカモロコシは触手を振り上げ、コーンマルマン達を狙ってくる!

れみとクラナはコーンマルマン達を手ですくいあげ、庇う。そこへFが飛び出し、デカモロコシ目掛けて拳を叩き込む!

この一撃でデカモロコシは確実に怯むが、同時に周囲にコーンを撒き散らす。そのコーンは空中で小爆発を起こし、Fを巻き込む!

「カウンターを仕掛けるとは生意気だな」

彼は土を蹴るように走り、デカモロコシの周囲を駆け抜ける。撹乱しようとするが、デカモロコシは無数の目でFの動きを正確に捉え、触手攻撃を続ける。

互いに攻撃が当てられない。


その時、コーンマルマンの一人が、謎めいた事を叫ぶ。

「おい!俺達を熱してくれないか!?そうすりゃ少しでも力になれる!」

どういう意味なのか分からず、れみとクラナはコーンマルマンに目を向ける事さえせずに、ポカンと佇んでFとデカモロコシを傍観してしまう。

「早く!俺達を熱するんだ!」

次の瞬間…れみとクラナは意味も分からずコーンマルマン達を地面に置き、両手からエネルギーを発射する。緩やかに放たれるエネルギーだが、それらはコーンマルマンを包み込み、少しずつ熱していく…。



すると…。



ポンッ、という軽い音と共に、一人のコーンマルマンが飛び跳ね、白い姿になる!

「あっ!?」

れみの声が上がった直後、コーンマルマンは次々へと飛び跳ねて変形していく。よく目を凝らして見てみると、彼らの黄色い体表が中心から裂け、中から白い新たな体が飛び出してきていた。

「気持ち悪…」

れみは思わず本音が漏れる。



着地したコーンマルマン達は、白い姿になる。

…ポップコーンマルマンへと進化したのだ。

彼等は互いの肩(?)を寄せ合い、デカモロコシを睨む。

「この姿になればもう今までのようにはいかん!Fさんを助けるべく、我らも力を合わせるぞ!」

飛び出していくポップコーンマルマン達!こちらに気づいてないデカモロコシに、チームワークを活かしたタックルを仕掛ける。


…そして、そのあまりの硬さに跳ね返され、地面に落ちる。


「駄目だ、強すぎる」

リーダーと思われる個体が弱音をあげ、他の個体もすっかり立ち上がる気力を失った。


駄目だ、弱すぎる。



「ど、どうすれば…!?」

れみは頭を抱えて声を震わせる。




…そこへクラナが冷静な声で語りかける。幼さを残しつつ、妙に冷たい声で。

「普通に私達が参戦したら良いんじゃないの」

「あ、そうか」


…言い終わると同時に、れみとクラナが飛び出していく。

そしてデカモロコシに拳を打ち込んで、怯ませた。

その隙にFも飛び出し、デカモロコシの上体部に蹴りを仕掛ける!デカモロコシは大きく仰け反った後、派手に土を散らして倒れてしまった。

もはや敵わないと見たようで、慌てるような素振りを見せた後に地中に潜ってどこかへ退散していった。


ポップコーンマルマン達は再びお辞儀をして感謝を伝えてきた。

「仲間達を見つけてくれた上にデカモロコシを倒してくださるなんて、ありがたすぎます。本当にありがとうございます!!ありがとうございます!!」



彼等はその後、旅を続ける事にしたらしい。一先ず他の国に出向こうと、海を渡るのだとか。


塩漬けポップコーンとして食べられない事を祈るばかりだ…。


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