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悪夢渡り

夜のテクニカルシティにて、悪しき影が蠢いていた。


深夜二時頃…。人々が寝静まった時間帯。


夢に落ちた人々が、突如苦しそうに呻き出していた。冷や汗をかき、落ち着かず何度も寝返りをうっている。一人や二人ならまだしも、街の中央広場に立ってるだけでも数十人以上の苦しげな寝息が耳についてくる。

深夜の作業に勤しんでいた作業員の男が、この異常事態に気づき始めた。

はじめは心霊の類いかと思い、怯えた男だったが、他の仲間達も同じように怯えてお互いの恐怖心を共有し合った。そのおかげで、ある決断を固める意思が固まった。

「…ワンダーズに知らせるぞ!」




ワンダーズの事務所…今夜の夜番は、葵とれなだった。

葵はソファーで新聞を読んでいたが、れなは向かいのソファーでいびきをかいて眠ってる。

静かな夜の時間を過ごす葵。平和な時間が続くと思っていたが、戦士にはそう簡単に休息は訪れないらしい。


「助けてくれー!!」

厳つい男が、玄関から飛び込んできた。


彼から話を聞いた二人は、早速深夜のテクニカルシティへと出向く。

流石に深夜というだけあって人通りがほとんどなく、昼間とはまるで別の街のようだ。そんな言葉にならない心細さの中で聞こえてくるのは、何か不気味な呻き声。

この声こそが、あの男が伝えてくれた呻き。


恐れず、呻きに耳を傾けながら進んでいくと…葵は視界の隅にいる一人の老人に気づく。

ホームレスらしい。ベンチの上に横たわっており、敷かれた新聞紙が風に揺れている。

「ちょっと。大丈夫??」

葵が声をかけるが、起きない。何度も同じように声をかけ続けるが起きるどころか動きの一つも見せない。

「畜生、起きろや!!」

痺れを切らしたれなが駆け寄り、老人が眠っているベンチの足を蹴飛ばした!ベンチは根元からへし折られ、その衝撃で老人はようやく目覚めた。

「うお!?年寄りに何て事するんじゃああああああ!!」

起きるなり、真っ先に発したのがこの台詞。まだまだ元気そうな老人だった。


彼に話を聞くと、どうやら悪い夢を見ていたらしい。死んだ家族が自身を取り囲み、武器を手にこちらの首を狙って追いかけてくる…まさに悪夢と呼ぶべき内容だった。感覚も妙にリアルだったようで老人は今でも夢にいるのではないかと少しばかり疑いの目を見せている。

「…だが、さっきの悪夢よりはマシだろうな」

ようやく落ち着いたようだ。


判明した事はまず、皆は悪夢を見せられている事、そして一応刺激で起こせる事だった。

なら全員起こしてしまえば良いのでは?そう考えたれなは早速足を伸ばし、深夜の街のど真ん中で体操を始める。しかし葵がそれを妨げる。

「れな。可哀相だけど皆はあえて起こさないようにするわよ」

葵の理論としては、何者かが皆に悪夢を見せているとすれば、恐らく方法は魔術の類。よほど優秀な魔術師でない限り、その犯人はすぐ近くにいる可能性が高いらしい。

そして、何より犯人はこのように隠れて犯行を行ってるような輩。全員を目覚めさせて事件解決となれば、その犯人はすぐに逃げていく事だろう。

被害者達に悪夢を見せっぱなしにしておけば、犯人はここに留まるかもしれない。…他の街まで巻き込もうとして離れていかない限りは。

「なるべく人が集中してる場所を探すわよ」


沢山の人が集中している場所であれば、犯人もそこにいるかもしれない。そういう場所であれば、より多くの人々の苦しむ顔が見れるからだ。



真っ先に葵が疑いを向けたのは、住宅地。沢山の人が暮らしている場所と言えばここだった。

街の中心からここに辿り着くと、一気に静まり返ったように感じる。耳に入る情報量も少なくなり…と言いたいところだが、やはりここらでも人々の呻き声が聞こえてくる。

ここのどこかに犯人がいると良いのだが…二人は闇雲ながらも調査を始めようとした。





「貴方がたにしては賢明ですね」

聞き覚えのある声に、二人は驚いて顔を上げる。


頭上に目をやると…そこには悪魔と蛙を掛け合わせたような姿の怪人が、翼を広げて飛んでいた!

「デモンフローグ!」

あの愉快犯、デモンフローグの登場だ。彼はれなと葵に声をかけつつも、その目は周囲の家々を見渡していた。ギョロリと動くその目は、まるで別の生き物のようだった。

何かを観察しているかのようなその目の動きに、れなと葵も思わず同じ方向を向いてしまい、デモンを視界から外す。


「隙やり…ですね」

デモンは剣を取り出し、二人に斬りかかる!間一髪、二人は同時に回避。葵はポケットに隠していたハンドガンでデモンを狙い、弾丸を顔の横に掠らせる。デモンは左頬を押さえつつも、尚笑っていた。ハンドガンを構えたまま、葵は呟く。

「次はそこだけじゃ済まさないわ。何を企んでるか、言いなさい」

「おお、怖いですね葵さんは」

軽く笑い声をあげると、デモンは話しだした。

「この付近の人間の方々ですが、彼らに細工を施したのは私です。悪夢渡りという面白いモンスターがいましてね」

「悪夢渡り?」

デモンは剣を納めつつ話す。

「悪夢を見てる一人の人間に取り憑き、その一人が見ている悪夢をベースに周りの人々にも悪夢を広げていくモンスターです。ベースの人間の悪夢の中で活動しますが、巻き込んだ人々の悪夢の中に移動する事もできます。そして悪夢に自身の卵を植え付けていくのです」

卵…れなと葵は目を合わせた。


「そしてその卵から悪夢渡りの幼体が誕生すれば…その悪夢を見ていた人間は精神を食われ、廃人化するんですよ!」

面白そうな笑みを見せるデモン。


話を聞く限り、今の状況は悪夢渡りが他の人間を巻き込み始めている状態。ならばこれから卵を植え付けるところだ。

となると、時間がない。しかも、デモンが更なる不安を見せてくる。

「片っ端から起こそうとしても無駄ですよ。ベースとなってる人間が起きない限り、悪夢渡りは周りの人間に何度でも悪夢を見せる事ができます」

何と厄介な事だろう。つまり、この決して狭くない住宅街の中からたった一人を起こさないといけないのだ。

「れな、どうする!?」

れなを、横目で睨むように見つめる葵…。



…が、れなはやはりれなだった。

「関係ねえ!片っ端から起こす!!」

そう言うと彼女は突然飛行を始め、家々の上を飛び回りながら叫びまわる!

「起きろーー!!!!起きろーーーー!!!!始発に間に合わんぞおおおお!!!」

呆れ顔の葵と、呆然と見つめるデモン。こんな方法で上手くいくなら世の中そう上手くはいかない。


そう思っていたのだが…。



「…急げえええええ!!!」

始発という言葉に人々は跳ね上がり、家という家から次々に飛び出してくる!彼等は互いにぶつかり合いながらバラバラの方向へと走っていく。焦りのあまり、深夜の時間帯である事にも気づいていないようだった。


「…まあ良いでしょう。ベースとなった人間には睡眠薬を飲ませてあります。そう簡単には起きませんよ!」

自慢げに語るデモン。こういう事態にも備えていたようだが…。




れなは耳を澄ませ、まだ残ってる呻き声を聞きつけた。

その声の方へと飛んでいき、一つの家に辿り着く。そして、インターホンを連打して屋内に騒音をまき散らす。



「うるせえええ!今何時だと思ってんだ!!」

厳つい家主が玄関の扉を開けて飛び出してくる。


…そして、彼の横から妙な生物が飛んできた。

赤やピンク色の触手、鱗が絡みあった魚のようなシルエット、そこに人間のような眼球がくっついた不気味な生物…。


「こいつが悪夢渡りか!!」

れなは飛び上がり、悪夢渡りを捕らえる。どうやら人間の目には見えないようで、家主はれなに説教をするばかり、明らかに悪夢渡りは見えていない。目の前のれなはパントマイムでもしているように見えるだろう。

さっさとその場から離れるれな。悪夢渡りを抱え、葵のもとへと急ぐ。

「こら待てえええ!!!」

家主は追いかけてきたが、れな達のスピードには追いつけない。


そして、デモンは…。

「ふん。所詮は悪夢を見せる事しか能がないモンスター。こんなものですか」

呆れながら、デモンは翼を広げてあっという間に飛び去ってしまう。

「今回も逃したわね…」

葵は、デモンが消えた空の彼方を睨んでいた。


しばらくすると、れなが悪夢渡りを抱えて近づいてきた。悪夢渡りの奇怪な容姿に葵は思わず顔を歪める。

「グロいわね、こいつ」

「でも悪夢の中に潜んで隠れてたんだよね。可愛いねえ」

れなは悪夢渡りに頬擦り。正気の沙汰ではない。




デモンは…暗雲を掻き分けながら舞い続けていた。

「さて、次はどうしましょうか。やめられませんね…楽しくて楽しくて」

彼の悪行は、留まるところを知らない…。


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