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導狼の証と泥んこ作戦

Fの右腕に刻まれた導狼の証は非常に強力な性能を持っている。これ一つで念力も自己強化も思うまま。F自身も勿論強いのだが、この導狼の証が彼の強さを最も引き立てていた。

当然彼に立ち向かう者達もこれを厄介な要素として捉えていた。だが同時にこれを弱点とも見なしていた。

あの導狼の証を汚せば何とか勝てるのでは?闇姫軍の戦士達はそう考えた。

「Fの野郎を倒すべく、今回はあの導狼の証を集中的に狙うぞ!その為、今回はあの方のお力をお借りする!」

そう叫ぶのは、蜂のような姿をしたモンスター。通常一つであるはずの毒針が三つついている。

目の前には、直立したスズメバチのような姿の兵士悪魔、デビルビー達が並べられている。

そしてその横には、白衣を着た蛙のような怪人が怪しげに笑っていた。威厳のない外見だが、彼はこう見えて闇姫軍の四天王の一人。その名はガンデル。

「僕の力を使うとは…トリプビー、君にしては賢明な判断と言えるね」

トリプビーは尻の三本の毒針を突き出すおかしなポーズをとる。

「俺はこの三本の毒針を扱う優秀な頭脳を持ってるのです。俺はこの三本の毒針を扱う優秀な頭脳を持ってるのです!」

片手をひらつかせ、適当に流していくガンデル。それからは、トリプビーの自慢を聞いてやった。

話が一段落すると、ガンデルは白衣のポケットから銃を取り出した。

「これは泥んこ銃。これを導狼の証にぶっかけてやれ」

「お力添え感謝いたしますガンデル様!!」

トリプビーが深々と頭を下げる。デビルビー一同もまた、一斉に敬礼した。



その頃、Fはクラナと共に山修行と評して登山していた。

そこはテクニカルシティの近くの山だった。行きやすい距離にあり、人々は時々思い立った時にこの山を利用し、足腰を鍛えている。

Fは年頃の青年ならではの体力で凸凹道を難なく登り、クラナは小さな体に似合わぬ持久力で後に続く。

「お兄ちゃん、今日はどのくらい歩くの?」

「山頂と入り口を五往復する。それくらいで良いだろ」

目標を立てるとよりスムーズに足が進む。地面に埋まった石をかわしながら、二人は山道に立ち向かう。


しばらく進むと、木々が深くなってくる。日光があまり差し込まなくなり、心細い薄暗さが二人の頭上から降りかかる。勿論こんなものでは兄妹の足は緩まない。


途中、草木に隠れた泥沼が見えてきた。つい最近雨が降った事で、周辺の土も柔らかくなっている。

「いやっっっっほおおおおおおいいいいいい!!!」

突然クラナが寄声をあげながら泥に飛び込んだ!彼女は顔面から泥沼に飛び込み、全身泥まみれに!

「おいクラナ!何してるんだ!!」

何を思ったのか、クラナは泥を撒き散らしながら大暴れ。浮かれに浮かれ、実に楽しそうに泥遊びを始めてしまう。

Fは彼女を引きずり出そうとするが、飛び散る泥に躊躇してしまう。


…と、その時。


「今だ!」

何者かの声と共に、真横から何かが発射された!

それは…光線のような勢いで発射された泥の塊だった。

当たった部位は導狼の証。狼の紋章に泥がへばりつき、完全に塞いでしまっている。


それを発射してきたのは…三本の毒針を持つ大きな蜂のモンスターだった。

「Fの駆除を任された闇姫軍兵士、トリプビー、ここに見参!」

そのモンスター、トリプビーは下品に笑いながらFを侮辱する。

「げひゃひゃひゃひー!この入れ墨は貴様の武器であると同時に弱点でもあるのだろう?もうこれで力は使えないな!ザマァザマァ。バーカ、アーホ、スットコドッコイのあんぽんたん」

好きなだけ罵倒して気が済むと、指をさしてこう叫ぶ。

「行け、我が軍団!!」


周囲の草が宙を舞い、無数の異形の影…直立したスズメバチ悪魔、デビルビーの軍団が現れた!彼等は槍を持っており、一斉に突き出してくる!

その槍の先端には紫色の液体…毒が塗られている。

「お兄ちゃん任せて!!」

クラナが横から飛び出し、デビルビーの一人を蹴り飛ばし、吹き飛ばす!そのまま勢いに乗り、次々にデビルビー達をなぎ倒していく。自分の倍ほどもある相手を一撃の打撃で殴り倒していく様は見ていて爽快だ。

Fも彼女に並び、デビルビー達の槍攻撃を紙一重、けれども余裕の笑みで回避していき、その蜂面へ拳を打ち込んでいく。次々に倒されていくデビルビー達。

大勢のデビルビーが倒れていく中、トリプビーは少しばかり驚いた顔を見せていた。しかしすぐに立ち直り、蜂面を歪める。ニヤリと笑っているのだ。

「こいつらは導狼の証無しで倒せても、俺はそう簡単にはいかないぞ」

彼は尻の毒針を構え…発射してくる!

三つの毒針が兄妹を襲う!二人は側転して華麗に回避。流石兄妹、瞬間的な判断も全く同じだった。

このタイミングでトリプビーは泥んこ銃で妨害射撃。Fの足元に泥沼ができる。衛生意識から、Fは足を止めた。

その隙を見逃さず、トリプビーは突撃!毒針を再生成して直接突き刺そうと向かってくる!

それに対して胸元へ蹴りを打ち込んでお返しするF。トリプビーは吹き飛ばされながらも羽を広げて空中で立て直す。その立て直しの隙にFは飛行突進、トリプビーに拳を打ち込みまくる!

「ぐおおおお!!やるなああ!!」

痛みの中でトリプビーはFを称賛。その余裕も、勝機を見いだしていた事から出るものだった。導狼の証を封印したという勝機が…。

地上に降り立ち、トリプビーは再び毒針を向ける。また発射攻撃を使う気だ。

「だがこれで終わりだ…。喰らえ、俺の必殺技…その名も『毒針三本同時発射』!」

発射される三本の毒針!風を纏いながら、F一人を狙ってまっすぐに飛んでくる!



…が。


Fの右腕が青く発光し、不思議な魔力で毒針を空中で止めてしまった。

空中に留まる毒針を見て、トリプビーは唖然。

「な、何故だ!?封じたはずだぞ!!」

「誰も封じられたとは言ってねえだろ」

その一言と同時にFは指を軽く振るう。すると三本の毒針は方向を変え、主たるトリプビーに先端を向けた。

…そのまま、Fに放たれた時以上の速度で飛んでくる!

「ひええええええええ」

情けない叫び声と共に、トリプビーは地に伏し…激突の勢いで気絶した。

毒針は途中から進行方向を変え、近くの岩に突き刺さる。はじめから突き刺す気はなかったのだ。


大量のデビルビー、そしてトリプビーが倒れ込み…沢山の大きな蜂が伏している妙な光景となった。

こんなところへ誰かが来ては面倒だ。さっさと帰った方が良いだろう。

Fは右腕に張り付く泥の不快な冷たさを誤魔化すように、クラナの笑みに目を向けた…が、自分以上に泥まみれなクラナに更に表情を歪めてしまう。

「クラナ…」

「だって、楽しかったんだもん。泥まみれになれた上に蜂さん達と戦えて!」

無邪気に笑うクラナ。Fはつくづく呆れつつも、笑顔を返してみせた。



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