不思議で愉快な戦いの物語
ワンダーワールドシリーズ、まーた作ってしまいました笑
今回も、パパッと読める展開をできるだけ重視しています。バトル系ですが、気楽にご覧ください!
いつも通りの青空、いつも通りの街並み。
世界は今日も平穏である。
「待てー!!れみー!!」
いつも通りの騒がしい日々。
それが「彼ら」の日常だ。
黄色いツインテール髪、胸に大きなピンクのリボンをつけた一人の少女が、騒ぎ立てながら走っている。彼女の名は「れな」。
目の前にはれなよりも一回り小柄で、短めなツインテール髪の幼い少女が駆け抜けている。彼女は「れみ」。
「うえーい!お姉ちゃん、悔しいかあ!?」
「アタシが楽しみにとっておいたシシャモパフェ…よくも食べやがったなあ!?」
この姉妹、こう見えて人間ではない。
「おらあ!!」
れなの足が地から離れ、空中を飛行し始める!素早く飛行しながら彼女はれみに突進していく!
れみはその短い手でれなの突進を止め、弾き返す。
二人は目にも止まらぬ速さで拳を打ち合い、周囲に暴風を吹き荒らせる。
互いの顔面に拳をぶち込んだところで、ようやく落ち着く。
もうこのファイトをご覧になると分かる通り、二人は人間ではない。
この街…テクニカルシティで管理されている姉妹のアンドロイドなのだ。
息を切らす二人のもとに、男の声が聞こえてきた。、
「またやってるのか、れな、れみ」
見ると…そこには黒いスーツを着た白い骸骨が立っていた!彼はさも当たり前のようにその場に立ち、腕を組んでこちらを見つめていた。
一見恐ろしく見えるが…実は彼、れなとれみの仲間だ。この街に暮らす骸骨男のテリー。そして…。
「二人共喧嘩は良いけど、あまり迷惑をかけちゃダメよ」
骸骨男の後ろから、紫の服に白く短いツインテール髪、赤い目の少女が、鋭い笑みを見せながらひょっこり現れた。
骸骨男はテリー、白髪少女はドクロ。こう見えて…二人は兄妹。
そして、世間では死神と呼ばれる種族だった。
死神は本来魂を集めるのが役割だが…何故だかこの二人は本来の業務に勤めず、死神である事も忘れてしまうようなのほほんとした暮らしを楽しんでいる。今もこうして、買い物帰りにれなとれみの喧嘩に遭遇したところだ。
四人は、ある場所へ向かう。
その場所はテクニカルシティの中でも目立たない場所にある建物。彼らはここを事務所と呼んでいる。
ここは…簡単に言うと、彼らの仕事場のような場所。
木製のドアを開けて中に入ると、どこにでもあるようなリビングが広がる。そこにあるソファーに腰掛けていたのは、紫の長髪に釣り上がった目の女性、そしてもう一人、緑の髪の左側に長いサイドテールを備えた女性。
このうち紫の女性が、一枚の紙を見せてきた。
「おい、依頼来てたぞ」
顔の横で紙をひらひらと揺らす彼女は、どこか荒れた印象を受ける声で言う。
それとは対照的に、緑の女性は余裕を感じさせる穏やかな声で続けた。
「あなた達を待ってたのよ」
れなは「依頼」を見るなり、飛び跳ねて喜びを表した。
「ありがとう、ラオン!葵!」
紫の髪の女性はラオン、緑の髪の女性は葵。二人もまたアンドロイドであり、れなたちの仲間だ。
机に手紙を広げ、内容を確認する一同。
一言で依頼の内容を説明すると…近くの森に現れた「モンスター」を退治してほしいというものだった。
この世界には、モンスターなる不思議な生物が存在する。彼らは実に多種多様。人々に襲いかかる者もいれば、手を貸す者もいる。この依頼で関わる事になるモンスターは…残念ながら前者のようだ。
「どうやらそのモンスターは両手がアイロンになってるらしい」
手紙に目を通すラオンの声に、一同は首を傾げる。
もう一度聞き直してみたが、本当に両手がアイロンになってるモンスターらしい。衣類に使うアレだ。
そのモンスター…アイロンマンは森の中で人々に襲いかかり、次々に火傷を負わせているのだそう。
ある程度依頼の内容を把握すると、れなとれみの姉妹が手をあげ、同時に言う。
『アタシ達が行ってきまーす』
ついさっきまで喧嘩していたというのに、もう息が合っている。流石姉妹だった。
二人は玄関の扉を開け、陽の光を浴びながら外へ飛び出す。
彼らは基本的に分断して依頼へ向かう。残ったメンバーが他の依頼をこなしたり、この事務所を守る必要があるからだ。
今回はれなとれみが、アイロンの怪物に立ち向かっていく事となるのだった…。
事件現場の森は、テクニカルシティのすぐ隣にあるのどかな森。
多くの動物や善良なモンスターが暮らしている平和な場所。死神であるドクロとテリーも暇を見つければ、この森の穏やかな空気に身を委ね、背中を伸ばしている。
ラオンは…度々ここで修行をしては追い出されていた。それでも森の住人達はその修行をショーのような感覚で見守ってくれている事がほとんど。
しかしここ最近は危険生物の目撃談が多くなってきた。アイロンマンもまた、その危険生物の一角に加えられる事だろう。
森に辿り着き、風に揺れる木々を横目に前へ進んでいく。
草花をなるべく避け、道を進み、時々石ころを蹴飛ばし…。
しばらく歩いていくと広場に出た。この広場、普段は森の住人が集まる平和な場所。しかしこの日は虫一匹いなかった。
その原因は…既に広場の真ん中に居座っていた。
「ひゃははは!!森の連中を追い出してやるぜー!」
そこにいたのは、真っ白なロボットだった。
その両手は大きなアイロンになっている…。
明らかに、こいつが目的のモンスターであるアイロンマンだ。
そして今の一言で犯行も分かった。森の住人を追い出そうとしてるのだ!
「おい!明らかにここの住人じゃないお前!」
れみが小さな体によらぬ威風堂々とした態度で前に出る。アイロンマンは背中を丸め、れみを覗き込むように見つめてきた。
「何だ、チビのくせにその態度は?お前の服もアイロンがけしてやろうか?」
何だかよく分からない煽りだった。れみは少々困惑しつつも、人差し指を向けて早口で怒鳴る。
「うるさい、ここから出ていってもらおうか!」
「やだね、力付くで何とかしてみろ!!」
そう言うなり、アイロンマンは両手のアイロンを振りかぶり…。
れみを叩き潰そうとしてきた!!
れみは持ち前の素早さでそれを後ろに飛び跳ねて回避、彼女の回避と同時にれなが飛び込み、アイロンマンの顔面に拳を突き出した!
やはりこいつは機械仕掛けなのか顔が硬い。アイロンマンは大して怯まずに、そのままアイロンを叩きつけてくる!
凄い熱さだった。
「あっつ!!やめろよな!!」
その熱こそ効いたが、まだまだ余裕な様子のれな。飛び上がってアイロンマンの顔に飛び蹴りをお見舞いした。
ヤケクソに攻撃してる訳ではない。きちんと策がある。
顔を蹴られた事でアイロンマンの視界が一瞬だけ遮られ、隙が生じた。その隙に飛び出したのはれみだった。彼女はアイロンマンの右肩目掛けて強烈な蹴りを決め込んだ!
「ぐあっ!!」
アイロンマンが声を上げる。最大の武器であるアイロン腕の根本…つまり肩を攻撃されると同時に、彼の熱が若干引いてきた。
言ってしまえば勘でとった攻撃だったが、どうやら当たりらしい。やつの弱点は肩だ。
それからはあっという間だった。姉妹はアイロンマンの頭上に飛行し、両肩に狙いを定め…。
「そりゃー!!!」
アイロンマンの体にのしかかる二つの衝撃!あっという間にアイロンマンはうつ伏せに倒れ、両手のアイロンからは熱が消えていく。
ヨタヨタと立ち上がり悔しげに地団駄を踏むアイロンマン。
「覚えてろ…!!覚えてろよおい!!」
二人に背を向け、さっさと逃げていってしまった。
これで森の平和は守られた…しかしどうせこれで終わりではないだろう。これからまた何度も戦いが待ち受けている。
戦いへの備えに、今は一時の平和に身を浸らせるべきだった。
「帰るか、れみ」
「そうしよう、お姉ちゃん」
手を繋ぎ、二人は森を去っていくのだった。
これは、日常に混じる不思議な戦いの物語。