表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/34

第5章 ひとたびの休息

 クーメイは少女をベッドに横たえると、風呂、食事と全て身体を動かせない少女の世話をした。

 少女は今寝間着に着替えさせられ、ぐったりとしている。

「……気分はどう、リビュエ?」

「身体をほとんど動かせませんが、それ以外は特に問題はないです…」

「この宿屋はヴァローびいきで気に入らないけど、男女別の浴場がちゃんとついているから許せるわ」

「……」

 顔を赤くして、毛布を目の下まで引き上げる少女。

「先生。お風呂での洗い方がエッチだったんですけど…」

「え。そ、そうだったかなぁ?」

 誤魔化すように視線を逸らす女。

 リビュエが動けないため、女は「身体を洗う」を口実に、浴場で好き放題に少女の薄褐色の肌を弄り回した。


「だ、だってリビュエは動けないんだから、しょうがないじゃん!」

「それにしては先生の手や指は、い、いやらし過ぎます……」

 怨みがましく、しかし頬を上気させて師の細い指を見つめるリビュエ。

「ほら、その…あれだよ。六年前にリビュエを引き取った頃を思い出したかも?」

「あの頃から自分でちゃんと洗っていましたよ! それにあの頃から先生はお風呂場に入って来ては、わ、私の成長を確認するからって…」

 思い出したかのように、益々顔を赤くする少女。


「ちゃんとリビュエの許可は取ってたよぉ…。しかし、そんなに嫌だったとは知らなかったわ…」

 本人としては、それほどいやらしい洗い方や触り方をしていたつもりはなかった。

 というのも職業柄急所を知るために人体に触れて勉強し、癒す方法も壊す方法も熟知していたからだった。

 とは言え、愛娘の言葉に齢百年を超えた女は少し不貞腐れ、気落ちする。

「いえ…その…嫌って訳じゃないですけど。宿のお風呂って公共の場ですから、止めて欲しいと思って…」

 えっ…と意外なものを見るように顔をあげ、少女に情熱の眼差しを注ぐ女。


(つまり公共の場でなければ…自宅でなら何してもいいということ! これはリビュエと結婚して、子を為して一緒に育てても良いと…?)

 一言も言っていないのに勝手に妄想して、しかも当の相手からは「?」と不思議そうに見つめられる。


「と、ともかく今日は一日私が見張ってるから、ゆっくりお休み」

「…先生。その前に一つだけ。あの魔獣になった男性の正体、何か分かりましたか?」

 女が男の身元を探っている所を、リビュエは観察していた。


「あー……ホントは、ヴァローに報告するついでに話したかったんだけど、まあ、いいか。あの魔獣、死んだ後一旦元の人間の姿に戻ったんだけど、その死体は証拠隠滅のためか、溶解してしまっていたの。ただ身に着けてた物は残ってて、鎧に紋章が描かれてたのね」

クーメイの話に聞き入る少女。


「描かれている紋章から、恐らくアファートマ連邦に拠点を構える『蠍の尾ビチュワ』と呼ばれる傭兵集団の人間だと分かった。あれは、そのトップである二人のどちらか。団長のジーデスか、副団長のグルガン。私はジーデスの方だと思う」

「何故そう思うんです?」

「会ったことはないけど、以前聞いた事あるんだよね。何せ私は、アファートマで邪魔する傭兵団だの私兵部隊だの、たーくさんぶっ潰してきたからさ。そのせいで逃げたり職にあぶれた連中が『蠍の尾』に拾われたって聞いて、気になってたの」

 さらりと恐ろしい事を言ってのける女だが、リビュエはその言葉が真実だと知っている。


「んで聞いた話では、ジーデスはキレ気味なハッタリ野郎で、グルガンは慎重な詐欺師だって」

 それを聞いて、僅かに表情を曇らせる少女。

 師の聞いた話通りで、且つ予想通りなら、少女がデビュー戦で倒した相手は、単なるハッタリ野郎だと言う事になる。

「がっかりした? でもジーデス本人はともかく、あの火球とか、魔獣としての能力は侮れなかったよ」

 うんうんと腕を組んで頷くクーメイ。

 仮にジーデスが生身で挑んできたとしても、それこそ生身のリビュエなら素手で瞬殺できると彼女は考えていた。


「……先生。あの魔獣がジーデスだとしたら、副団長のグルガンは、何故加勢に来なかったんですか? 彼は単独で動いていたと? それならグルガンがこれから報復に来るのでは?」

「尾行の数が単独に思えなかったから、多分彼も居たはず。これは推測に過ぎないけど、ジーデスを見捨てたのかも。或いはジーデスが血気に逸って、彼が止めるのを無視して仕掛けて来たとか」

「無謀過ぎるように思えます…先生相手に単独でなんて…」

「……リビュエ。考えてみて。もしハッタリで今まで生きてきた男が 結構な実力を手に入れたらどうする?」

「……それは」

「ジーデスはハッタリでこれまで名を高めてはいたけど、短慮でキレやすいらしいのよ。んでキレた時の戦いっぷりは無茶苦茶だから、相手を圧倒するらしいの。それを見た人間が、実力を勘違いして噂が広まったとか」

「彼はキレ…激怒していた、と?」

「かもしれないし、ハッタリのために重ねた嘘を払拭できるかも、と思ったか。どちらにしろ大勢の人が見ている前で仕掛けてくる上に、宿場町ごと吹っ飛ばそうとした暴挙は、キレていたとしか思えない。ていうかアイツ、私が宿場町を庇うと予想してたのかも」

 リビュエも思わず納得して、頷く。


「或いはあんな魔獣に変身してしまったら、理性なんて働かないのかもねー。そこもリビュエの変身とは違うんだなー…」

「……先生が先ほど仰ってた『ひび割れ』というのが、あの変身なのですか?」

「うん。グルガンも恐らく、あの能力を金で買ってるんじゃないかな」

「……『ひび割れ』と私の変身能力。生み出した人物は、同じだと思いますか?」

「――――」

 リビュエの真剣な眼差しは、森の中で『あの男』と口にした時と同じもの。


「わからない…かな。この件はヴァローに話す時に一緒に考えてもらおう。話が長くなったね。もうおやすみ」

「はい。……あ、でも残ったグルガンが、ここに襲撃してくる事は…?」

「さっきジーデスの動きを予測できなかった私だけど、無いと予測するわ。慎重な奴だと聞くし、そもそもさっきジーデスに加勢しなかったし。まあ念の為、襲われ上手な私が見張っておくから」

クーメイは職業柄、これまで何度も報復による襲撃を体験しており、対応の仕方をかつての相方とも訓練していた。


「はい。先生のこと信じています。何だか…先生の元へ初めて来て、ゆっくり眠れた時のことを思い出します」

「……それは寝てる時に襲ってもいいという誘惑?」

「違います」


 少女にきっぱりと言われ、真面目に見張り番になるクーメイ。

 まずは部屋を調べ、ドアや窓の外を見張り、物音に耳を澄ます。

 時折リビュエの様子を見守り、眠っているのを確認すると、愛娘を見るようにうっすらと瞳を細める。

(先生の元へ初めて来て、ゆっくり眠れた時のことを思い出します)

 少女の言葉を思い出し、あの時自分が緊張していたのを思い出す。

 初めて子供を預かり、それを何としても守らなければと妙に張り切っていたクーメイ。


(この娘と将来ずっと安穏に暮らしたいと望んでいたけど――)

 だがそれは今の所叶わない夢。彼女が殺し屋だからではない。クーメイにも、リビュエにも為すべき事があるからだ。

 女は音を立てないようにゆっくりと、深くため息を吐く。

(あーあ…私にもリビュエにも…殺したいと思う相手が、居なければ良かったんだけどなぁ…)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ