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第33章 魔性への行軍・決着

 師弟が、それぞれ巨人の足の左右から侵入する。中は、まるで波打つ銅のパイプが入り組んで構成された洞窟のようだった。

 脚の中は直線の通路になっており、そこをまっすぐに駆ける。

 数メートル先で突き当りになっており、そこからリビュエ側は左、クーメイ側は右に通路が折れ曲がっている。

 曲がってすぐに、両者は互いの姿を確認でき、そのまま合流する。

 が――


 ガクン!と通路が大きく傾く。

 どうやら巨人が上体を起こしたらしく、二人はすぐそばにある銅線に掴まって、振り落とされないようにする。

「リビュエ。これも想定内。奴は今、上半身の何処かにいる。だから私達も、ここから上がっていく必要がある」

 敵に聞こえないように小声で話す師に、首肯で答える少女。

 二人はそれぞれ横を向く。合流した通路には、五つの横穴があった。今では巨人が上体を起こしていたため、横穴は向きが変わり、真上に通じる穴と変化している。


「五つ、か。とりあえず真ん中にしよう。準備はいい?」

 リビュエが、再度頷く。

 幅二メートルほどの真上の穴に向かって、まずクーメイが跳ぶ。そこから右、左と壁蹴りすることによって、みるみると上昇していく。


(あと少し。天井が見えてきた。恐らく再び左右に通路が広がっている――)

 バッ――と横からスライドするように出現する、白い毛に覆われた人型の怪異。

「――!」

 その手には、六角柱の形をした杖が握られており、先端が鈍い赤の光を帯びていた。

(コイツが、魔将――)


 『――くたばれ』

 魔将ヴェラ・ミズンが、冷酷に告げる。

(コウ蛇とやら、先の戦いぶりとシュメンハイニーの記憶からすると、相当できる。この距離でも熱線を躱す可能性はある。が――)


 杖の赤い光が輝きを増す。

(避ければ、背後の弟子が確実に死ぬ。非情に徹して回避したとしても、この中では熱が広がってただではすまぬ…!)

 

 杖の先から、熱線が放たれる。

 だが既にそれを予想していたクーメイは、横に回避する動作に入っていた。

(ほう! 非情だが正しい! だが無事でいられ――)

 クーメイの背後から、何かが魔性に向かって突進してきていた。

 下半身は馬の姿をしており、白い騎士のような装甲をまとった姿。

 クーメイが横に退いたため、その白い騎士が熱線をまともに浴びる――が、勢いを失うことなく上昇する。


(コイツ…確か…!)

 シュメンハイニーの記憶を盗んだため報告を受けてはいたが、その能力までは報告されていなかった。

 ――リビュエが変化した白い騎士には、一切熱による攻撃は一切通用しない。

 むしろ騎士の白い装甲は、熱を吸収しているかのように輝きを増し、そのまま勢いよく魔将へと迫る。

『お、おのれっ…!』

 魔将は思わず迫る騎士に対して時間稼ぎとばかりに、杖を投げつける。

 杖はリビュエに何の外傷も与えないが、一瞬怯ませることは出来た。

 だが――既にクーメイが動き、逃げようとする魔将の首根っこを掴み、入り組んだ銅線に叩きつける。


『が、は――』

「言っておくけど、変な動きしたら即へし折るから。……って、巨人を操る怪人としては確かに奇怪な姿と思ったけど、中身は随分と貧相ね」

 白い毛の中身は、骨と皮だけの赤い肌の亡者のような姿だった。眼は落ち窪み、歯はボロボロの様相。

 それが『虚栄』や『虚飾』の名前通りの魔性のためかは、わからなかった。

「これからいくつか質問をするわ。答えてくれる度に寿命が伸びる。貴方も巨人も、変な動きはしないようにね」

 ミシッ…と軋むような音がするほど魔将の首を圧迫する女。


『ぐっ……ま、まさか「超越の王シッダ・ラージャ」だったとはの…』

 魔将が質問されたこと以外を口にするが、しかしリビュエの姿を見ての発言が、クーメイの気を引いた。

「何? リビュエのこの姿? 『シッダ・ラージャ』っていうの?」

『フフ…シュメンハイニーの記憶によると、だがの。だが所詮はただの商人。報告から戦況を分析する能力がなかったか…』

 自らの敗因を呪うかのように、壁に押さえつけられながら独りごちる魔将。

 クーメイは随分と余裕のある魔将の回答に拍子抜けするが、質問を続ける。


「それでシュメンハイニーはどこ? 貴方たち魔性と『契約』でもしたんでしょ? もしかしてこの巨人が彼の成れの果てなの?」

『まさか。奴にこれほどの素質があるわけがない。奴はこの巨像の一部に過ぎん』

「――」

 壁の銅線をまじまじと見つめるリビュエ。如何に追っていた敵とは言え、その末路に少女は戦慄する。

 

「つまりもう情報は本人から引き出せない。でも貴方がしっかりと記憶を盗んでいて、しかも隠すつもりもないみたいね」

 亡者のような魔性が、歯を見せて笑う。

「じゃあ聞くわ。ネダはどこに居るの? シュメンハイニーの記憶があるならわかるでしょ?」

『どうやら卿は、歓楽街の自分の店で、奴と最後に会っているようだ。だがその後の動向はわからん。本当だ』

「……」

 クーメイは魔将の首を掴んだまま、相手の様子を見る。嘘だとは思っていないが、何か聞き出せないか考えていた。


『疑っておるのか。ならいくつか情報を出してやる。奴はサウガンディカと呼ばれる同志を複数連れておった。それに店の中で「超越の王シッダ・ラージャ」に変化し、「ひび割れ」を一人始末しおった。圧倒的な力の差を見せつけてな』

「アイツの同志のことも、アイツがリビュエ同様変身できるのも知ってるわ。その時、アイツは何か言ってなかった?」

『卿とネダには「主」と呼ぶ人物がおるようだ。その人物を巡って、シュメンハイニーは一方的にネダを嫉妬しておった。随分とその主とやらに金を貢いだ割に、ネダの方が寵愛を得ているのが、気に入らなかったようだの』

 くつくつと既に亡き人間を嘲笑する魔将。首根っこどころか命を握られているとは思えない様子だった。


「主――か。ネダが人に仕えていたなんて」

『そのネダは、シュメンハイニーに魔性との契約によって魔人となり、お前たちを退ける方法を教えたようだが……失敗を予見していたようだの』

「それで契約は、貴方が。では貴方の主である魔王は、どうなったの?」

『――――』

 流石にこの質問には答えないだろうが、反応を見逃すまいと身構えるクーメイ。だが――


『陛下は元々封印された御身であったが、身動きできないところを…殺された。恐らくネダという男の策謀だ。奴は部隊を派遣し、シュメンハイニーの後を追わせたのだ』

「部隊? オムパリオスに部隊を? 魔王はどこに封じられていたの?」

『ククク…それを答える必要はない。主を失った私に、もはや生きる意味などない。だからせめて最期にと、人族共に我々の存在を知らしめたのだ』

「……ネダやシュメンハイニーの主とやらの名前は?」

『それも答える必要はない。自分で確かめろ』

「――! 貴方、命が惜しく――」

『コウ蛇とやら。せいぜいネダという男と殺し合い、その主もろとも始末して見せるといい。儂は期待しておるぞ』

「――惜しくないのね。まあ魔性だし…そうか」

 クーメイは、諦めのため息を吐く。


「ネダの上に、まだ見ぬ敵か。いいわ。やってやるわよ。でも貴方のためにやるんじゃない。貴方は暴れるだけ暴れたんだから、その報いを受けるといい」

 ぐっ…と腕に力を込め、魔将ヴェラ・ミズンの本体を掲げる。

 骨と皮だけのやせ細った亡者が、最期に不敵に笑った。

 

 ゴキャッ――と骨が砕ける音とともに、魔将の首が曲がる。


 女が手を離すと、亡者のような痩身の魔将が、落下していく。

 そして、巨人の身体を構成していた銅線が、サラサラと塵になっていく。

 当然巨人の身体の中にいる二人は、落下する。

『――先生』

 白い騎士の姿のまま、リビュエがク―メイを両腕で受け止める。

 お姫様抱っこの形で弟子に抱きかかえられながら、満面の笑みを浮かべる女。


「うへへへへぇ…極楽よのぉ…」

『この身体、結構硬いと思うんですが、それでも…?』

「…リビュエ。私たちの敵には、どうやらまだ上がいるみたい」

 急に真剣な顔に戻り、弟子の少女に告げる。


『はい。でも私は必ず……ネダを倒します』

「そうだね」

 二人は瓦礫の只中に着地する。するとそこにヴァローやミンテ、マヒワたちが彼女らの無事を安堵し、駆け寄ってくる。

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