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あかねちゃん

「あかねちゃんの画像検索は、止めといた方がいいよ。命、落とすから」

 そんなカナエの言葉が、今でも強く耳に残っている。今は夏の真っ盛りだ。蝉の声がけたたましく鳴り響いている。汗が流れ落ちる。

 加奈子は高校2年生の女の子。今は高校からの帰り道の踏み切りの前に居る。遠くで、電車の車輪の唸る音が微かに響いてきた。もうすぐ列車がやって来るのだろう。踏み切りの警戒音がカンカンと鳴っている。

 加奈子は、ついさっきまで、高校のプールサイドで、カナエと仲良く並んでおしゃべりしていた。

「最近の噂なんだけどさ、スマホに死神が出るんだって知ってた?加奈子?」

「スマホに死神が?冗談でしょ?」

「本当のことよ。その死神、あかねちゃんって言うらしいの。何でも、スマホで、「あかね」って画像検索したら出てくるらしいよ。和服を着て、おかっぱ髪の女の子。両手で小さな紅い手毬を持ってるんだって。そのあかねちゃんの画像を見たら、その日のうちに見た者は死んじゃうって噂なの。怖いわよね。信じる?加奈子?」

「信じるわけないじゃない?馬鹿げてる。カナエの思い過ごしよ、きっと」

「でも、4組の伊藤佳子さんっていたでしょ。先月、交通事故で亡くなった女の子。あの子のお母さんから訊いたんだけど、佳子ちゃん、その亡くなった日の朝に、たまたまスマホであかねちゃんを見たよ、ってお母さんに言ってたんだって、ちょっと怖くない?」

「偶然よ、偶然」

 列車がやって来た。やはり暑さが堪える。蝉の声も一段と激しくなったようだ。カナエの噂。本当だろうか?

 通過していく。ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 そして、加奈子の帰り道には、揺らめく陽炎が漂っていた‥‥‥‥‥‥。


「ただいまー、母さん、どこ?」

家のなかは空だった。誰もいない。さっそく、加奈子は自分の部屋へ行ってボロボロの学生鞄から、小さなスマホを取り出して、じっと黒い画面を見つめた。このスマホに死に神が?馬鹿げてる! と言って、あかねと画像を検索する気はしなかった。

 加奈子はキッチンへ行って、冷蔵庫から、グレープフルーツジュースとバウムクーヘンを出してきて食卓で楽しんだ。食欲を満たしたせいか、なんだか少し気が大きくなった。

 いちど、見てやろうか?どうだろう?加奈子の触手が動く。

 そして、ついに、加奈子は検索を始めた。「あかね」と入力して、現れた画像をスクロールしていく。

 やはり、ない。最後まで確認した。やはり、根も葉もない噂にすぎなかったのだ。そして、その時。

 部屋の明かりが消えた。

 停電だろうか?

 暗闇のなかにいた。部屋の厚いカーテンは全て閉ざされていた。暗闇のなか。スマホの画面だけが光っている。加奈子は思わず覗き込んだ。

 そして、見てしまった。

 そこに、あかねが居た。お下げ髪の和服の女の子。赤い手鞠を手にしている。やはり、居た。

 その瞬間、加奈子の全身に電撃が走る感覚がして、そのまま、加奈子はのけ反って、意識が遠のいていった‥‥‥‥。


「ただいまー。ママ、おやつは?」

  良太は、乱暴に鞄を投げ捨てると、台所に姿をみせた。生身の魚肉に包丁を入れていた母親の芳子は、良太を振り向かずに、答えた。

「ああ、お帰り。何でも良太、昨日、同級生の子が死んじゃったんだって?本当かい?」

「うん、田所加奈子って女の子さ。家で突然死したんだって。何かの病気だろうって言ってるよ。それより、おやつは?」

「戸棚に入ってるよ。勉強、はかどってんだろうね?来年は大学受験なんだから、頑張っておくれよ」

「言われなくても、頑張ってるよ。じゃあ、これ、もらっとくね」

 良太は、部屋へ戻ると、ベッドに寝転がって、スマホをいじり出した。

「あかねちゃんの画像検索か。面白いかな?」

 乱雑に、検索窓に「あかね」と入力すると、画像を開き、しばらく、眺めていたが、なんだかつまらなくなってきて、スマホをそばの床に放り出すと、今度は、コミック漫画に熱中し始めた。おやつなら、そばに置いてある。

 良太が床に放り出したスマホの画面。いくつかの画像が並んで写っている。

 右下。下から3番目の画像。

 そこにお下げ髪で和服の少女が、両手に赤い手鞠を持って暗闇に写っていた。あかねちゃんだ。

 そして。

 あかねちゃんと並んで、一人の少女が、仲良く座って写っている。

 それは、一人の小柄な少女。

 田所加奈子であった‥‥‥‥‥‥。

 

 

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