【2】
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「――ちなみに、今どの辺にいるんだ?大分歩いてきたと思うが」
「えーと今俺たちは......マップだとこのあたりだと思う」
「おいウィリアム。俺たちを守る気ならせめてそのくらい分かっとけよ」
意地悪そうにマシューはウィリアムにそう言った。
「あー分かった分かった。その一言がなければお前も守ってやろうと思ったのに残念だ」
「ハッ!それは確かに残念だな」
マシューの煽りにウィリアムも負けじと煽り返すが、言葉ではどうしてもマシューに軍配が上がる。
「まったく.....どうしてお前らはいつもそう喧嘩ばかりしてんだ」
「さあな。いつもコイツが一方的に突っかかってくるんだよ。だから俺には聞かないでくれ」
「別に俺は突っかかってるわけじゃないさ。ただ思ってることを言ってるだけで、そう解釈してるのはお前の方だろ?」
「はあ?そんなこと――」
「おいおい......」
再び火花を散らす2人に、ジェイコブは呆れてものが言えなくなる。
「ねぇねぇちょっとちょっと!そんなことより、なんか霧が出てきてない?」
「それ、私も思った......」
マリーとクロエの気付きに、男達は一度言い合いをやめて辺りを見渡す。
「うお......本当だ。というか大分濃いな」
「で、この先はもっと濃いみたいね」
「どうする?ここらへんでやめとく?それとももう少し進んでみる?」
「せっかく来たんだし、もう少し進んでみようぜ」
アメリアの問いかけにジェイコブは答える。
「俺もジェイコブに賛成だ。ここで引き返すんじゃあまりにも味気ないしな。まあ怖くて怖くてどうしても戻りたいという奴がいるなら考えてやらんでもないが?」
マシューはそう言い、ちらりとクロエの方を見る。
「わ、私は......マリーが行くなら、私も行く」
「ハッ!お前には自分の意思ってものがないのかよ」
「まあじゃあもう少しだけ進んでみよっか」
一同の意見が一致したことで再びジェイコブを先頭に、更に奥へと足を踏み入れることになった。
そうしてしばらく進んでいると、今度は風も強く吹き始め、喋り声はかろうじて聞こえるが後ろにいるであろう仲間たちの姿が見えなくなるまで霧が濃くなってしまった。
「なあ、これ流石に霧濃すぎてヤバいぞ。おまけに風も強いし、そろそろ戻るか?」
そんなジェイコブの発言に、各々は聞こえていないのかガヤガヤと自分たちの話に夢中になっている。
「おーい、聞いてるか?」
ジェイコブはしびれを切らして仲間たちの顔をしっかり見て話そうと向き直った。しかし――
「あ、あれ......?」
そこでジェイコブは強烈な違和感を覚えた。何故なら、どれほど仲間たちのいる後方に目を凝らそうが、その方向に向かって歩こうが、一向に彼らの姿は見えなかったからだ。
そしてようやくジェイコブは理解する。
さっきまで聞こえていたものは決して話し声などではなく、話し声に似た風の音だったということに。
「――」
ジェイコブは一瞬頭が真っ白になりパニックを起こしかけるが、なんとか自制し冷静に頭を働かせる。
「あークソッ、あいつらどこに......まあ取り敢えず片っ端から電話掛けてみるか」
そう思い彼は携帯電話を起動するが、生憎充電がなく起動してすぐに電源が落ちてしまった。
「最悪だ......こうなったら元来た道を引き返すしかないか」
そうしてしばらく元来た道を歩いていると、遥か前方の木に”黒色の物体”が吊るされているのが目に入っ
た。
「――ん?何だあれ......」
ジェイコブはそれに近づき、一つの結論に達する。
「クロエ......なのか?」
ジェイコブがクロエと呼んだそれは、全身が酷く焼けただれており、裂けた皮膚からは赤黒い血が痛々しく滲んでいた。それでもクロエと判断出来た理由は、彼女がいつも首に付けている特徴的なネックレスがその死体の首にかかっていたこと。そしてどことなくその焼死体から彼女の面影を感じたからだ。
「うっ......ヴォエェェッッ!!」
ジェイコブは思わずその場に突っ伏し、胃の中にあるものを思いきりぶちまけた。
「はっ......はぁ......はぁ、はぁ......」
ジェイコブはゆっくり顔を上げると、丁度その死体の足元に携帯電話が落ちているのに気が付いた。彼はおもむろにその携帯を手に取り電源を入れた。すると、そのホーム画面にはクロエとマリーのツーショットが写っていた。
「クソ......何でこんなことに......」
ジェイコブは立ち上がり、半ば放心状態に近い形で再び元来た道を戻っていった。 そして――
「あぁ......ここは......」
徐々に霧も薄くなり辺りが見えだした頃、彼はいつの間にか自分が遊園地の入り口まで戻ってきてしまっていた事に気が付く。
結局、道中では仲間たちと出会うことはなく、彼らはこの場所に戻ってきているわけでもなかったのだ。
「あいつら......それとクロエの死体......一体何が起こってるんだ?」
ジェイコブは恐怖で震えたその足を思いきり叩き、無理やり震えを止める。
「大丈夫、大丈夫だ......冷静になれ。多分あいつらはまだ中にいる。ひとまず合流しないと」
ちょうど霧も晴れ、行動を起こすのであれば今しかない。そう考えたジェイコブゆっくりと呼吸を整え、再び遊園地の中へ足を踏み入れていったのだった――。
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