【ツグルからマキナ語る】これが事件の顛末です
あ~あ、とマキナユーレイが言った。頭の後ろで手を組んで。天井を見上げて。
「せっかく、高校時代のユーレイになるなら、夏休み前の私が良かったなあ」
俺は胃のあたりがムカムカしていて。マキナが男に組み敷かれて、ヤラれてるところなんかが、頭の中に次々と浮かんできて。
不快でしかたなかった。
それに、あの映像。
俺が目にしたスマホの小さな画面の、あの吐き気のする映像が、記憶の彼方から蘇ってきていた。
「なんで夏休み前じゃないってわかるんだ? 春の君かもしれないだろう?」
平静を装って、そんな言葉を絞り出す。
マキナユーレイが俺をジッと見る。
まるで頭の中を覗かれたみたいで、落ち着かない。
「分かりますよ。私が先輩の部屋の前に立ってた意味も。理由も」
◇◇◇
男って、エッチすることしか考えてないんですかね。結局、恋人をつくるのって、愛とか恋とか関係なくて、ただヤリたいからなんじゃないですかね。
夏休み中、もう、何度も斎藤君の家でエッチしましたよ。一回やれば、あとはもうヤリ放題って思ってたんじゃないですかね。
断ろうとすると、しつこくくらいついてくるんですよ。なんで? いつならいい?
相変わらずアリサはみんなで集まりたがってて。イベント一杯、グループ交際ですよ。
そういう時に、斎藤君がエッチの話をするんですよ。優越感に浸りたかったんじゃないですかね。
でも、おかげで、夏休みの終わりぐらいに、アリサと長澤君が付き合い始めました。
ちょっとホッとしましたけどね。
夏休みが終わると、斎藤君はどうやってエッチをしようか、いろいろと考えてたみたいですよ。
ほら、今までは両親が仕事で家を留守にしてたから、私を連れ込めたわけです。でも、彼の母親パートだったらしくて、学校が終わってから家に行ったんじゃ、母親が帰ってるわけです。
かといって、何度もホテルに行けるほどお金なんてないし。
「マキナの家、行こうぜ」
なんて何度も言われたけど、絶対嫌だったから、母親は専業主婦で家にいるって嘘ついてました。その頃は、不倫真っ最中で、ほとんど家にいなかったんですけどね。
でも、嫌いな人間に家とか入って欲しくないじゃないですか。
あっ、嫌いって言っちゃいましたね。
ええ、ホント、大嫌いでしたよ。
あの事件が起きる前から。
二学期が始まって。私、毎日、毎日、文芸部に行きたいって思ってたんですよ。
先輩と、まったり過ごす時間が恋しくてたまらなかった。
でも、やっぱり行けなかった。
先輩と会いたいのに怖くて。とっても話したいのに、なんかつらくて。
そんなある日の放課後。
夏休みが明けて、二週間後くらいだったかな。
斎藤君が、なんかニヤニヤして。まあ、ひと言でいうと、エッチのこと考えてる顏なんですけど。
ちょっと、付き合え、って言ってくるわけです。
で、どうせ、人気のないところに連れてかれて、エッチするんだろうな、と思ってたんですけど。
まあ、実際その通りで。
連れてかれたのはバレー部の部室でした。
体育館近くにあったじゃないですか。
ああ運動部棟っていうんですね。文芸部のある部室棟とは違っていいところですよね。
当然、部活の最中だから部員なんかいなくて。汗臭い部屋の中に、制服が脱ぎ散らかされてて。
ええっ? って感じですよ。だって、いつ部員の人たちが帰ってくるかわからないし。汗臭いし。
もう、さっさと終わらせたかったですよ。
斎藤君はそれを、私もその気になってるとか、思ったんでしょうかね。
なわけないじゃないですか。
そんな時に限って、斎藤君はしつこくて。
もう、終わったならさっさと出ようよって、思ったんだけど。
まあまあ、ゆっくりしようぜ、ですよ。
バレー部やめたのに、神経太いなって思ったんですけど。ちゃんと理由があったんですね。ホント、どうしようもない理由が。
それで、まあ、例の事件につながるんですけど。
バレー部員猥褻事件、とでも名前が付いたんですかね。知りませんけど。
まだ服も着てないのに、ドアが開いて、部員が戻ってきたわけです。三人くらい。
制服だったから、バレー部の引退した三年だったのかな。
焦りましたよ。ヤバって。
でも、斎藤君はへらへら笑って。
チース、とか挨拶して。
で、先輩たちがジロジロ、見てくるわけですよ。
まあ、要するにですね。斎藤君、エッチがしたいがために、バレー部の先輩に部室を貸してもらったわけです。レンタル代として、私とエッチできるって条件で。
男って独占欲ってないんですかね?
恋人が他の男とエッチしたら嫌じゃないんですか?
まあ、たぶん、斎藤君は自分がエッチできれば、どうでも良かったのかもしれませんね。
私も、なんか、もうどうでも良くなってました。断ると、うるさいし、しつこいし。バレー部の人たちとエッチするのも気持ち悪いですけど。斎藤君とエッチするのも気持ち悪いし。
結局、コミュニケーションと同じですよ。何も考えず自分の役割をこなすだけ。
それで、ある日、バレちゃったんですよ。
それはそうですよね。声とか、漏れるだろうし。
これが事件の顛末です。ろくなもんじゃないでしょう?